「大通り沿いや繁華街の中で居住用に向いていない土地を貸したい」と考えている人はいらっしゃいませんか?
そのような考えをもっている方には、事業用定期借地権がおすすめです。
事業用定期借地権とは、一定期間事業の目的で建物を所有するために設定する権利です。
事業用定期借地権は企業が借りてくれそうな土地に合っている権利ですが、メリットもあればデメリットもあります。
事業用定期借地権を利用するかどうかは、メリット・デメリットを理解し判断していきましょう。
本記事では、「事業用定期借地権」の概要、メリット・デメリットについて解説します。
「事業用定期借地権」とは?概要について解説
事業用定期借地権とは、一定期間の期間を定めて事業目的のための建物を借りた土地上に建築する権利です。
事業用定期借地権の概要は、次のとおりです。
- 定期借地権の1種
- 契約期間は10年以上~50年未満
ここからは、事業用定期借地権の概要について解説します。
定期借地権の1種
事業用定期借地権は、3種類ある定期借地権のうちの1つです。
事業用定期借地は事業用の建物を所有する目的で土地を借りる権利であるため、住宅用の建物は建築できません。
なお、ほかの定期借地権との違いは、次の表のとおりです。
事業用借地権 | ・事業用の建物を所有する目的で設定する定期借地権・契約期間は10年以上50年未満 |
一般定期借地権 | ・建物の所有目的に制限がない定期借地権・契約期間は50年以上 |
建物譲渡特約付借地権 | ・建物買取ができる定期借地権・契約期間は30年以上 |
上記の表のように事業用定期借地権は建物の用途制限がある反面、短期間の存続期間を設定できます。
契約期間は10年以上~50年未満
事業用定期借地権の契約期間は、10年以上50年未満です。
定期借地権であるため、契約の更新はできません。
ただし、再契約は可能であるため、更新したい場合は再契約をします。
また、定期借地権は期間満了後、借地人は土地上の建物を解体したうえで土地を返還します。
そのため、土地が更地の状態で戻ってくるため、地主には解体費用がかかりません。
なお、事業用定期借地権の契約は公正証書で作成する必要があります。
公正証書を作成するには手数料がかかり、10年分の賃料合計の2倍の目的価額に該当する金銭を公証人役場に支払います。
事業用定期借地の公正証書作成費用は、次のとおりです。
目的の価額 |
100万円以下 |
100万円を超え200万円以下 |
200万円を超え500万円以下 |
500万円を超え10,00万円以下 |
1,000万円を超え3,000万円以下 |
3,000万円を超え5,000万円以下 |
5,000万円を超え1億円以下 |
1億円を超え3億円以下 |
3億円を超え10億円以下 |
10億円を超える場合 |
図表2:事業用定期借地権の公正証書作成に必要な手数料
借地料が月額50万円の場合の公正証書作成費用は、次のとおりです。
50万円 × 12ヶ月 × 10年 × 2 = 1億2,000万円(目的の価額)
1億2,000万円の手数料は、4万3,000円となります。
事業用定期借地権の特徴について
事業用定期借地権には特徴があり、土地を貸すときには特徴を理解しておく必要があります。
事業用定期借地権の特徴は、次のとおりです。
- 事業用にしか使えない
- 契約期間が満了した後の更新はできない
- 契約満了後は更地に戻す必要がある
ここからは、事業用定期借地権の特徴について解説します。
事業用にしか使えない
事業用定期借地権は、事業用の建物建築しか認められない定期借地権です。
事業用の定期借地権に該当する建物例は、次のとおりです。
- コンビニエンスストア
- ドラッグストア
- 各種飲食店
- 大型ショッピングセンター
- ホテル
- 老人介護施設 など
上記のように事業の目的で建築する建物であれば、用途は問いません。
物販店でも飲食店でも宿泊施設でも建築が可能です。
一方、次のような住居系建物は建築できません。
- 一戸建て
- アパート
- マンション
仮に事業として賃貸マンションを建築するとしても、マンション自体に人が住むため事業用定期借地権は利用できません。
契約期間が満了した後の更新はできない
事業用定期借地権は定期借地権の1つであるため、契約期間が満了したとしても更新はできません。
そのため、契約期間が満了した場合、土地は確実に地主に返還されます。
もし契約期間が満了した後も同じ土地を借り続けたい場合は、更新ではなく再契約しなければいけません。
再契約であるため、再度公正証書を作成し手数料も払い、契約をし直す必要があります。
契約満了後は更地に戻す必要がある
借地人は事業用定期借地権の契約期間満了後、建物を解体し更地に戻したうえで返還しなければいけません。
仮に、期間満了前に借地人の都合で事業用定期借地権を解除する場合でも建物を解体し更地で返還します。
また、事業用定期借地権を設定するときには、公正証書を作成する必要があります。
一般定期借地権は公正証書などの「書類」作成で設定でき、建物譲渡特約付借地権にはどのように契約したらよいのかの定めがありません。
事業用定期借地権のメリットは?
事業用定期借地権のメリットは、次のとおりです。
- ライフプランに合う土地活用ができる
- 貸主は長期的に安定した収入が得られる
事業用定期借地権を設定するのにはメリットがあります。
土地を貸すときには、事業用定期借地権の内容と自分が貸したい条件を比較し進めていくようにしましょう。
ライフプランに合う土地活用ができる
事業用定期借地権は、ライフプランに合う土地活用ができます。
事業用定期借地権はほかの定期借地権よりも、期間を短く設定できます。
そのため、返還後の土地利用計画を立てやすく、自分のライフプランに合った使い方が可能です。
ほかの定期借地権だと契約期間が長すぎて、期間中に相続が発生してしまうことも珍しくありません。
また、事業用定期借地権を設定するときには、借地人の事業目的に合わせて契約も可能です。
たとえば、飲食業は周辺にニオイがするから物販業を誘致したいと考えているとします。
そのような考えがあるなら、物販業を目的としている企業と事業用定期借地権を締結すればよいわけです。
貸主は長期的に安定した収入が得られる
事業用定期借地権を設定すれば、貸主は長期的に安定した収入が得られます。
事業用定期借地権は10年以上50年未満と存続期間の設定範囲が広い定期借地権です。
存続期間が長くなればなるほど、借地料の収入合計額が増えます。
そして、事業用定期借地権の借地人は、事業費を投じて建物を建築するためなかなか退去しません。
そのため、長い期間安定した収入を得られます。
また、事業用定期借地権は土地を貸すだけであるため、初期費用があまりかかりません。
建物の建築費と解体費は、借地人が支払うからです。
このように事業用定期借地権は初期費用がかからず、長期的に安定した収入が得られます。
事業用定期借地権のデメリットは?
事業用定期借地権のデメリットは、次のとおりです。
- 貸主からの中途解約はできない
- 事業が破綻すれば貸主が更地にする費用を負担
事業用定期借地権は初期費用がかからず、長期的に安定した収入が得られます。
しかし、デメリットもあるため、マイナス面を理解して事業用定期借地権を設定しなければいけません。
ここからは、事業用定期借地権のデメリットについて解説します。
貸主からの中途解約はできない
事業用定期借地権は、貸主からの中途解約はできません。
定期借地権全般にいえることですが、貸主からの一方的な解約は認められていません。
そのため、いったん事業用定期借地権を設定して土地を貸してしまうと、長期間ほかの土地活用ができなくなります。
貸し出しているときの収益は借地料のみとなってしまうことには注意しましょう。
なお、借地人が契約違反した場合には、貸主からの中途解約は可能です。
事業用定期借地権を利用し土地を貸す場合、地主からは原則解除できないことを理解してから進めるようにしましょう。
事業が破綻すれば貸主が更地にする費用を負担
事業用定期借地権を利用して土地を借りている企業が破綻した場合、更地にする費用を負担しなければいけません。
事業が破綻してしまったときには企業は解体費を捻出できなくなってしまうため、更地にする費用は貸主の負担となります。
ただし、土地を借りるときには、通常企業から貸主に対して保証金を預け入れます。
保証金は企業が破綻したときに備える金銭でもあるため、解体費用の一部は保証金を利用します。
しかし、事業用の建物の解体費用は高額になるため、保証金で補えなかった分は貸主が解体費用を負担しなければいけません。
事業用定期借地権を設定して土地を貸すときには、あらかじめ貸し出し先の企業の経営状態を調査しておくとよいでしょう。
事業用定期借地権にはメリットもデメリットもある
事業用定期借地権とは、事業用の建物を所有する目的で一定期間、土地を借りる権利です。
事業用定期借地権はメリットやデメリットがあり、土地を貸すときには内容を理解しておかなければいけません。
事業用定期借地権はライフプランに合う土地活用ができたり、長期的に安定した収入を得られるメリットがあります。
反面、貸主からの中途解約はできなかったり、事業が破綻すれば貸主が更地にする費用を負担しなければいけなかったりとデメリットがあります。
これらのメリットやデメリットを理解し、事業用定期借地権の内容が自分の考えと合っているか検討しておくことが大切です。