借地権は、建物の所有を目的として他人の土地を借りる権利です。
マイホームを新築したり事業を行う際に、他人の土地の上に自宅や事務所を建てる方法もあります。
このような場合に活用されるのが借地権であり、借地権は売却したり、相続できる財産的価値のあるものです。
財産的価値のある借地権を相続すると相続税がかかりますが、土地そのものを所有しているわけではありませんので、借地権の相続税評価額を計算する必要があります。
このときに使われるのが「借地権割合」です。
この記事では、借地権割合の意味や調べ方、相続税の評価方法を解説します。
なお借地権には存続期間や建物の使用目的等によっていくつか種類がありますが(図表1参照)、ここでは普通借地権を前提に解説します。
普通借地権(3条以下) | |
定期借地権(22条以下) | 一般定期借地権 |
事業用定期借地権 | |
建物譲渡特約付き借地権 | |
一時使用目的の借地権(25条) |
借地権割合とは?概要について解説
借地権割合といってもなかなかイメージしにくいと思います。
ここでは借地権割合の概要についてお伝えします。
借地が何割を占めるか示す数字
借地権割合は、土地の評価額のうち借地権がどれくらいの割合かを示すものです。
図1は、借地権の付いた土地をイメージした図ですが、このように借地権が設定されている土地を「底地(そこち)」といいます。
反対に他人が使用する権利が何もついていない土地を「自用地」といいます。
借地権は土地を利用できる権利であり、土地の所有権は地主にあります。
ですので。借地権付き土地は、地主が所有する底地(所有権)と借地権が1つの土地上に併存するイメージとなります。
借地権割合は、このような土地において借地権の価値(評価額)がどれくらいかを表すものです。
ですので借地としての価値が高ければ高いほど借地権割合は高くなり、都心部や主要ターミナル駅周辺など、借地としての需要が大きい地域では高くなる傾向です。
相続税を計算する際に必要
借地権割合は、具体的には相続税や贈与税の評価額を計算するために利用されます。
例えば、借地上の建物(借地権付き建物)を相続したとき、建物だけでなく借地権も相続財産として相続税の対象となります。
この借地権の相続税を計算する際に借地権割合を使用するわけです。
借地権割合の調べ方
借地権割合は、「財産基準評価書 路線価図・評価倍率表(国税庁)」で調べることができます。
国税庁のホームページにアクセスし、調べたい土地の都道府県を選び、都道府県別の路線価図を選びます。
さらに調べたい市区町村を指定し、同じ地名でも複数の路線価図がありますので、該当する所在地の路線価図を選びます。
路線価図では、調べたい土地に面している道路の路線価と借地権割合を知ることができます。路線価は道路(路線)に面する1㎡あたりの土地の評価額であり、相続税や贈与税を計算するときに用いられます。
借地権割合はA~Gまで30〜90%で地域ごとに指定されていますが(図表2)、そもそも借地としての需要がないと判断される地域では借地権割合が指定されていない道路もあります。
記号 | 借地権割合 |
---|---|
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
この事例は「450C」となっており、「450」道路(路線)に面する土地1㎡あたり路線価(1000円単位)、「C」は借地権割合を示しています。
ですのでこの事例では次のようになります。
・路線価:450,000円/㎡ ・借地権割合:70% |
借地権の評価方法
では借地権の評価額はどのように算出するのでしょうか。
評価方法が異なる市街化区域と市街化調整区域に分けて解説します。
市街化区域は、すでに市街化を形成している区域およびおおむね10年以内に優先的に市街化を図るべき区域であり、一方、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域です(都市計画法7条)。
市街化区域
市街化区域では、一部を除き路線価、借地権割合が指定されています。
この地域での借地権の評価額は以下の計算方法で求めます(路線価方式)。
借地権の評価額=土地の評価額 × 借地権割合 |
先ほどと同じ事例(450C)で、例として土地の面積を100㎡として計算してみます。
路線価が450,000/㎡ですので、土地の評価額は次のようになります。 土地の評価額:450,000/㎡ × 100㎡=4,500万円 借地権割合が70%ですので、 借地権の評価額:4,500万円 × 70%=3,150万円 |
この事例の土地の借地権の評価額は3,150万円となります。
ただし、土地の間口が狭い土地や道路からの奥行きが長い土地、斜面がある土地など、一般的に使いにくい土地はマイナス補正され評価額が変わることがあります。
土地の評価額4,500万円のうち借地権が3,150万円を占めますので、底地の評価額は残りの1,350万円となります。
このように借地権付きの土地の評価では、地主の土地(底地)より借地権の評価額が高くなることがあります。
これは地主の立場で考えた場合、自用地(更地)そのものを相続するより貸している土地を相続したほうが評価額が低くなりますので相続税対策にもなります。
調整区域
調整区域では路線価がついていない地域(倍率地域)があります。
このような地域では、国税庁の評価倍率表にもとづき評価額を算出します(倍率方式)。
倍率方式では、固定資産税評価額と国税庁が指定する評価倍率を使って借地権の評価額を算出します。
評価倍率は前述の国税庁ホームページに掲載されており、地目(宅地や田、山林等)や地域によって異なります(図3)。
調整区域での借地権評価額の計算方法は以下のとおりです。
借地権の評価額=固定資産税評価額 × 評価倍率 × 借利権割合 |
例えば、固定資産税評価額が1,000万円、評価倍率1.1、借地権割合50%の土地であれば、
借地権評価額は、1,000万円×1.1×50%=550万円となります。
倍率方式は路線価方式と異なり、固定資産税評価額に土地の形状などのマイナス面は考慮されていますので、路線価方式のような補正は必要ありません。
借地権における地代の考え方
借地権は土地を借りる対価として賃借料(以下「地代」)を支払いますが、借地権割合は地代を決める際にも使われます。
一般的な地代の考え方
一般的に土地の賃貸借契約においては、借地契約を締結するときに権利金が必要となります。
権利金とは、法律上明確に規定されているものではありませんが、土地や建物を借りる際、礼金的な意味合いで借主から貸主へ支払うものです。
ここまでみてきたように、借地権付きの土地の評価は、地域によって差はあるものの、底地以上に借地権の評価が高くなることもあり地主の権利は低く評価されます。
こういったこともあり借地権契約では、権利金を支払うことが一般的になっています。
権利金の額は、法律上決まっているわけではありませんので、契約当事者同士の交渉、合意のもと決めることができますが、一般的には、土地価格に借地権割合を乗じた価格で計算します。
権利金=土地価格(時価) × 借地権割合 |
仮に土地の価格が3,000万円、借地権割合が60%とすると、
権利金=3,000万円×60%=1,800万円となります。
権利金が支払われた場合の一般的な(通常の)地代は以下のような計算方法になります。
一般的な(通常の)地代=土地価格 × (1‐借地権割合)× 6% |
前述の例で計算すると、
地代:3,000万円×(1-60%)×6%=72万円/年間となります。
権利金で支払った借地権部分を除いた底地の使用に対する地代となります(図4参照)。
相当の地代の考え方
通常の借地契約では権利金が授受がされますが、親族間や同族会社間での土地の賃貸借では、権利金が支払われないケースがあります。
この場合の地代を「相当の地代」といい、以下のように計算します。
相当の地代=土地価格 × 6% |
権利金を支払わない場合、底地だけでなく借地権部分も含んだ土地全体の価格に対する地代となりますので高くなります(図5参照)。
前述の例で計算すると、
相当の地代:土地価格3,000万円×6%=180万円/年
借地権の計算式の一例
いくつか事例別に借地権(普通借地権)の評価額を計算してみたいと思います。
一般的な権利金の支払いがあるケース
借地権契約時に権利金の支払いがあるケースでは、借地権割合を用いた評価方法によって計算されます。
事例 路線価:30万円/㎡ 土地面積:100㎡ 借地権割合:60% |
借地権の評価額=自用地評価額×借地権割合となりますので、
自用地評価額:30万円/㎡×100㎡=3,000万円
借地権評価額:3,000万円×60%(借地権割合)=1,800万円
権利金の支払いがなく地代の支払いがないケース
親子間や夫婦間などで権利金の支払いも地代の支払いもないケースがあります。
この場合、使用貸借契約(民法593条)にあたり借地借家法は適用されません。
使用貸借契約は、有償で不動産や動産を貸す賃貸借に対して、無償で貸しつける契約です。
このような土地の借地権は、相続税法上の借地権にはあたらず評価額は0円と判断されます。
参考:使用貸借に係る土地についての相続税、贈与税の取扱いについて(国税庁)
権利金の支払いがなく地代が固定資産税相当額以下
契約時の権利金の支払いがなく、地代が固定資産税以下のケースについて、この場合も地代の支払いは行われているものの、借地権の価値は小さいものと考えられ使用貸借契約に準じるものと扱われます。
ですので、この場合も借地権の評価額は0円となります。
参考:使用貸借に係る土地についての相続税、贈与税の取扱いについて(国税庁)
権利金の支払いがなく相当の地代を受け取っているケース
相当の地代は、権利金の支払いがなく通常の賃料より高い賃料を支払っているケースです。
自用地評価額のおおむね年6%程度の賃料を支払っている場合に対象となり、借地権の評価額は自用地評価額の20%で計算します。
先ほどの事例で計算すると次のようになります。
借地権評価額:自用地評価額3,000万円×20%=600万円
参考:相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて(国税庁)
借地権取引の慣行がない土地のケース
借地権取引の慣行がない土地では、借地権割合が指定されていません。
ただ、こういった土地でも借地契約が結ばれていることもあります。
この場合の借地権割合は20%として評価します。
先ほどの事例で計算すると次のようになります。
借地権評価額:自用地価格3,000万円×20%=600万円
参考:No4613 貸宅地の評価(国税庁)
借地権評価額と売買時の借地権価格は違う
借地権割合は、借地権もしくは底地の相続税や贈与税の評価額を知るために必要となるものです。
ですので、借地権付きの建物を売却するなど借地権を売買するときの取引価格(借地権価格)とは異なります。
相続税評価額は時価(相場)の80%程度に設定されていますので、相続税評価額をもとに借地権の売買価格を算出することもできますが、実際の借地権の売買ではさまざまな要素が考慮されます。
・類似の土地相場 ・地代や更新料の有無・価格 ・承諾料の有無・価格 ・地主と借地人の関係性 など |
相続税や贈与税を算出するための借地権の評価額と売買での借地権価格は異なる点には注意してください。
まとめ
借地権割合や借地権の評価方法について解説しました。
【借地割合の概要】
借地権割合とは、土地の評価額のうち借地権が占める割合を示すもので、相続税や贈与税を算出する際に使われる。 借地権割合は、国税庁のホームページで地域ごとに指定されている。 |
【借地権の評価方法】
〇市街化区域 借地権の評価額=土地の評価額 × 借地権割合 〇市街化調整区域 借地権の評価額=固定資産税評価額 × 評価倍率 × 借利権割合 |
【借地権付き土地における地代の考え方】
〇一般的(通常)の地代(権利金がある場合) 地代=土地価格 × (1‐借地権割合)× 6% 〇相当の地代(権利金がない場合) 相当の地代=土地価格 × 6% |
【借地権の評価額の計算事例】
〇一般的な権利金の支払いがあるケース 借地権の評価額=自用地評価額×借地権割合 〇権利金の支払いがなく地代の支払いがないケース 借地権の評価額は0 〇権利金の支払いがなく地代が固定資産税相当額以下のケース 借地権の評価額は0 〇権利金の支払いがなく相当の地代を受け取っているケース 借地権の評価額=自用地評価額×20% 〇借地権取引の慣行がない土地のケース 借地権の評価額=自用地評価額×20% |
冒頭で解説したように借地権は普通借地権以外にも「定期借地権」「一時使用目的の借地権」があり、それぞれ普通借地権とは評価方法が異なりますので注意してください。
参照
No4611 借地権の評価(国税庁)
No4612 一般定期借地権の目的となっている宅地の評価
一時使用のための借地権の評価(国税庁)