借地権という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
借地権は建物所有を目的として他人の土地を借りる権利(借地借家法2条1項)であり、「土地を借りて建物を建てる」、「借地権が付いた建物を売買する」といった場合に関係します。
借地権の根拠となる借地借家法は、土地、建物の賃貸借に関する事項を定めており、土地、建物の利用に関して立場の弱い借主側の権利を保護するためにつくられた法律です。
借地権には目的や存続期間、契約方法の違いなどでいくつか種類があり、その1つが「普通借地権」です。
この記事では、普通借地権の特徴やメリット・デメリットについて解説します。
普通借地権とは?
普通借地権は、建物の所有を目的に土地を借りる権利ですので、駐車場利用など建物を所有しない場合は活用できません。
借地借家法では、普通借地権の存続期間や契約の更新、第三者への対抗力などが規定されています(3条以下)。
借地借家法に基づいて新設された
借地制度に関する法律は、大正時代に制定された借地法(旧借地法)から1992年8月に施行された現在の借地借家法へと変わりました。
普通借地権は、借地借家法に基づいて新設された借地権です(図表1)。
借地法(旧法) | 借地借家法(新法) |
旧法借地権 | 普通借地権定期借地権 |
旧借地法は、土地を借りている人(以下「借地人」)の権利を強く保護する法律でしたが、その一方で土地の所有者(以下「地主」)にとって不利な内容が多いものでした。
その結果、いったん土地を貸すと返ってこないなどの理由から地主が土地を貸すことに消極的になり、土地の有効活用がすすまないという問題がありました。
そこで借地借家法では、借地人の権利の保護も図りつつ、期間満了後に契約が更新されない定期借地権が新たに創設されるなど、地主の権利にも配慮したものになっています。
最短30年以上の契約
普通借地権は借地借家法のなかで、契約の更新がない定期借地権とは異なる位置づけとなっており、借地人の権利を強く保護する旧法借地権に近い内容となっています。
契約時の存続期間 | 契約更新後の存続期間 |
30年以上 | (最初の更新)20年以上 (2回目以降の更新)10年以上 |
普通借地権の存続期間は30年以上で(借地借家法3条)、契約満了時の更新が可能です。
更新後の契約期間は、最初の更新では20年以上、2回目以降の更新で10年以上の期間を設定できます(借地借家法4条・図表2)。
契約満了時に借地人が契約の更新を請求した場合、土地上に建物があれば、地主に契約更新を拒否する正当な事由がない限り、契約は更新したものとみなされます(借地借家法5条)。
契約更新を続ける限り半永久的に土地を借りることができ、長期的な土地利用が可能です。
普通借地権と定期借地権は何が違う?
借地借家法に基づく借地権には、普通借地権と定期借地権があります。
定期借地権は、建物の使用目的に制限のない一般定期借地権、事業用の建物を目的とする事業用定期借地権、土地上の建物を譲渡することで契約が終了する建物譲渡特約付定期借地権があります。
ここでは、定期借地権(一般定期借地権)と比較しながら普通借地権について解説します。
契約内容が違う
普通借地権と定期借地権の最も大きな違いは、契約更新の可否です。
・普通借地権は契約更新できる
普通借地権は、土地上に建物がある限り、借地人が契約の更新を希望する場合は契約を更新したものとみなされます(借地借家法5条)。
ただし、地主の正当な事由による異議が認められれば、契約は更新されず終了します。
「正当な事由」があるかは以下の点を個別に考慮して判断されます(借地借家法6条)
・地主・借地人の土地・建物を使用する必要性 ・借地契約のこれまでの経緯 ・土地の利用状況 ・土地明け渡しの条件としての立ち退き料 |
また、借地権の契約期間満了前に建物が火災等で滅失した場合、建物の再築について地主の承諾があれば、建物の滅失もしくは承諾の日から20年契約期間を延長できます(借地借家法7条)。
このように普通借地権は借地契約で存続期間を定めても、必ずしもその期間で契約が終了するものではなく、借地人の立場を強く保護する借地権といえます。
・定期借地権は契約更新ができない
定期借地権は、借地契約で定めた存続期間の満了によって終了し、契約の更新がありません。
借地人は契約が終了すると、建物を取り壊し更地にして地主に返還しなければなりません。
旧借地法にはなかった定期借地権は、契約期間が満了すれば更地で返還されることを前提としていることから、貸した土地が返ってこないという地主の不利益に配慮されたものになっています。
契約期間が違う
普通借地権と定期借地権では、契約更新の可否だけでなく契約期間にも違いがあります(図表3)。
借地権の種類 | 存続期間 | 更新後の期間 |
普通借地権 | 30年以上 | 1回目:20年以上2回目以降:10年以上 |
一般定期借地権 | 50年以上 | 更新なし |
普通借地権の存続期間は30年となっており、契約を更新する場合は、1回目の更新は20年以上、2回目以降の更新は10年以上の契約期間を定めることができます。
一方、定期借地権の契約期間は50年以上です(借地借家法22条)。
公正証書等の書面によって、契約の更新はしない、契約期間中に建物が滅失し再築しても契約期間の延長はしないとする特約をつけることができます。
土地返却時の建物の扱いが違う
普通借地権と一般定期借地権は、土地返還時の建物の取り扱いにも違いがあります。
・普通借地権は建物買取請求ができる
普通借地権は、期間満了時に契約が更新されない場合、借地上の建物を時価で買い取るよう地主に請求(建物買取請求)できます(借地借家法13条)。
建物買取請求は、契約の更新がされず建物を利用できなくなる借地人を保護する、建物を取り壊す社会的損失を避ける意味があります。
建物の買取を「請求」する権利とありますが、地主はこれを拒否できず、契約書で建物買取請求を拒否できる旨を定めても無効となります。
但し、建物買取請求権は「契約期間が満了し更新できない場合」に行使できる権利ですので、借地人の地代の不払いや無断での増改築や建て替え等重大な契約違反によって契約が解除される場合などでは行使することはできません。
・定期借地権は建物買取請求ができない
定期借地権では建物買取請求権を行使することはできず、一般的に以下のような特約をつけます。
・契約は更新しない ・建物が再築されても契約期間を延長しない ・建物買取請求権は行使しない |
契約が終了すれば建物を取り壊し、更地にしたうえで返還する必要があります。
普通借地権のメリットは?
ここまで普通借地権の特徴について解説しましたが、具体的にどのようなメリットがあるでしょうか。
土地の固定資産税がかからない
固定資産税・都市計画税は土地の所有者に納税義務があります。
普通借地権では土地を所有しませんので土地の税金を負担する必要がありません。
借地人は建物の固定資産税だけを負担しますので、土地と建物を所有するより税金の負担は軽くなります。
土地代がかからない
普通借地権は、土地の購入費がかかりません。
ですので、土地、建物を購入するより必要資金を抑えることができます。
例えば、土地を借りて一戸建てを建てるとき、建物代金と借地契約締結時の権利金などが必要ですが、土地をあわせて購入するより必要資金を抑えることができます。
また、借地権付きのマンションは、土地権利が所有権のマンションと比べて、2〜3割程度価格が安くなりますので、購入費用を抑えることができます。
特に、都心部などの地価が高い地域では、借地権を活用することで必要資金を抑えることができます。
普通借地権のデメリットは?
普通借地権のデメリットはどういったことが考えられるでしょうか。
土地を借りる費用がかかる
普通借地権は、土地を購入する必要はない一方で、土地の賃借料(地代)や状況に応じて更新料や承諾料などの費用が必要となります。
・地代
借地権の場合、ランニングコストとして地代がかかることを理解しておく必要があります。
普通借地権の場合、建物の使用目的は問われませんが、住宅用だと土地価格の2〜3%、事業用だと土地価格の4〜5%程度が地代の相場(年間)となっています。
経済環境や不動産市況の変化によって土地価格が上がり、周辺相場より安くなった場合など、地代が見直される可能性もあります(借地借家法32条)。
・更新料
普通借地権は契約更新が可能ですが、その際更新料が必要となる場合があります。
更新料は法律上義務付けられてるものではありませんが、借地契約に明記されてる場合のほか、過去に更新料を支払った場合などは必要となる可能性が高くなります。
更新料の相場は 借地権価格の5%程度と言われています。
※借地権価格とは、土地を借りて建物を建てる場合の借地権の評価額。土地の評価額に借地権割合(その土地の権利の何割を借地が占めるかを示す割合)をかけて求めます
・増改築や建て替えの承諾料
借地契約に「借地上の建物を地主の承諾なく増改築してはならない」といった増改築禁止の特約が盛り込まれることが一般的です。
この特約がある場合は、増築や建て替えをするにあたって地主の承諾とそのための承諾料を支払うことが一般的です。
契約書に承諾料が明記されていなければ支払う義務はありませんが、当事者同士の話し合いのなかで決められます。
承諾料の相場は、借地権価格の5%程度といわれています。
〇譲渡承諾料(名義書換料)
借地上の建物を売却するなど、借地権を第三者に譲渡するときに地主の承諾を得る必要があり、譲渡承諾料を支払うことが一般的です(名義書換料ともいいます)。
譲渡承諾料の目安は、借地権価格の10%程度といわれています。
このように普通借地権では、取得時に土地代金がかからない反面、地代以外にも更新料や承諾料がかかることをおさえておく必要があります。
普通借地権は長期間の利用を前提としていますので、長い視点でみた場合、土地を購入する以上のコストがかかる場合もあります。
ローンの審査に通りにくい
普通借地権を取得するときのデメリットもあります。
借地上の建物の建築資金や借地権付きの建物の購入資金で住宅ローンを利用する際、審査が通りにくいことです。
融資を行う金融機関は、 土地や建物の担保価値を審査します。ローン返済が滞った場合に抵当権を実行し、不動産を換金することで融資したお金を回収するためです。
一般的な土地と建物を購入する場合、「土地の価値」と「建物の価値」をあわせたもので評価されます。
一方、借地権の場合、土地は所有しませんので、「建物の価値」と「借地権の価値」で評価されますが、借地権の価値は土地そのものの価値より当然低くなります。
また、金融機関からすると、借地人が地代を滞納したり、地主の承諾なく増改築するなどで借地契約が解除されるリスクがあります。
こういった点から、金融機関は借地権付き建物の融資には慎重にならざるを得ず、住宅ローン審査が厳しくなります。
借地権ではローンが組めない金融機関もありますので、利用できる住宅ローンが制限される場合もあります。
増改築や売却時にトラブルになる場合がある
建物を自ら所有していても、増築や建て替え、借地権の売却するには地主の承諾が必要となり、状況によってはトラブルになることもあります。
増築や建て替えは、建物の耐用年数を伸ばすものですので、契約の更新を望まない地主や将来の建物買取請求の価格などを考えると、地主と借地人の利害関係が対立しやすい行為ともいえます。
また、土地所有者である地主に相続が発生し地主が変わると、それまでの関係性が変わり立ち退きを求められるなどトラブルになる可能性もあります。
まとめ
普通借地権について解説しました。
〇普通借地権の特徴
存続期間 | 30年以上 |
契約の更新 | できる(1回目20年以上、2回目以降10年以上) |
契約終了時の建物買取請求 | できる |
契約方法 | 制限なし |
〇普通借地権のメリット
・土地の固定資産税、都市計画税の負担がない ・土地代がかからない ・契約更新できる限り、土地を活用できる |
〇普通借地権のデメリット
・土地を借りる費用(地代)がかかる ・ローンの審査に通りにくい ・増改築や売却時にトラブルになる可能性がある |
普通借地権は、借地権のなかでも借地人の利益を強く保護するものとなっており、長期間の土地活用も考えられます。
一方で、契約期間中にかかるコストや建物を利用・処分するには制約もありますし、土地を購入するより権利関係は複雑です。
借地契約をするにあたっては、所有権付きの土地建物を購入する以上にしっかりと検討する必要があります。