借地権は、建物の所有を目的として他人の土地を借りることができる権利です、
土地を借りる人(以下「借地人」)は、その対価として土地の所有者(以下「地主」)に賃借料(地代)を支払います。
借地権は土地がなくても建物を所有することができますが、デメリットや借地権の種類によって異なる点もあります。
この記事では、借地権の種類とそれぞれの特徴、デメリットについて解説します。
土地の権利が借地権の建物を購入、もしくは土地を借りて建物を建てることを検討している方は是非参考にしてください。
借地権はどんな種類がある?
借地権は、土地や建物の賃貸借に関するルールを定めた借地借家法という法律に基づく権利です。
借地借家法は、一般的に土地、建物を所有している貸主の立場が借主より強くなることが多いことから、借地人や借家人の立場を保護するためにつくられた法律であり、民法に規定される賃借権より優先して適用されます。
また、借地権の契約方法には地上権と賃借権があります(図表1)。
地上権 (物権) | 賃借権 (債権) | |
---|---|---|
契約 | 地上権設定契約 | 賃貸借契約 |
登記 | 土地に地上権登記 (地主の協力義務あり) | 土地に賃借権の登記も可能だがされていないことが多い(地主に協力義務なし) |
譲渡・転貸 | 地主の承諾不要 | 地主の承諾要 |
地上権は物権の1つで、物を直接支配し第三者に対しても権利を主張できる強い権利である一方、賃借権は債権の1つで、特定の人に対して契約の範囲内で一定の行為を請求できる権利です。
地上権と賃借権では、登記に関する地主の協力義務や建物の譲渡、転貸時の地主の承諾の要否などで違いがあります。
ただし、地上権は地主にとって不利な条件が多く、借地契約のほとんどは賃貸借契約となっています。
これらを踏まえたうえで、いくつか種類がある借地権について、それぞれの特徴を解説します。
旧借地法
借地契約の時期によって、現在の借地借家法に基づくものと、それ以前の借地法(旧借地法)に基づくものがあります。
旧借地法は、1992年7月31日までに土地を借りる契約をしている人に適用されます。
1992年に現在の借地借家法が制定されていますが、旧借地法で契約した借地権(以後「旧法借地権」)は、契約更新も旧借地法の内容に基づいて行われるため現在でも多くみられます。
旧法借地権の存続期間は建物の構造によって異なります(図表2)。
非堅固な建物 (木造) | 堅固な建物 (鉄骨造・鉄筋コンクリート造) | |
存続期間 | 20年以上 | 30年以上 |
存続期間より短い契約期間を定めた場合契約期間の定めなし | 30年 | 60年 |
非堅固な建物は20年以上、堅固な建物は30年以上となり、契約でこれより短い期間を定めた場合、契約期間の定めがない場合、それぞれ30年、60年になります。
また、借地人は契約の更新請求ができ、地主は正当な事由がない限り拒否できず、更新後の契約期間は、当初の契約と同じ期間となります。
つまり、旧法借地権は、更新を続けられる限り半永久的に土地を利用できる借地人にとって有利なものとなっています。
普通借地権
1992年に制定された借地借家法では5つの借地権が規定され、その1つが普通借地権です(図表3参照)。
借地借家法 | 普通借地権 | |
定期借地権 | 一般定期借地権 | |
事業用定期借地権 | ||
建物譲渡特約付借地権 | ||
一時使用目的の借地権 |
新法では新たに、契約が更新されない定期借地権が新設されましたが、普通借地権は、契約が更新される借地権として旧法借地権に近いものです。
土地上の建物の用途に制限はなく、居住用の一戸建てやマンション、店舗や事務所等事業用建物として土地を借りることができます。
旧法借地権との違いは、建物の構造に関係なく存続期間は30年となり、当事者の合意でこれより長い期間を定めることもできます。
更新後の契約期間は、1回目の更新は20年、2回目以降の更新は10年で、これより長い期間を定めることもできます。
旧法借地権と同様、契約を更新しない正当な事由がある場合を除き、地主は更新を拒否することはできず、長期的な土地活用が可能です。
定期借地権
定期借地権は通常「一般定期借地権」を指し、他に「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」があります。
定期借地権は、期間満了で契約は終了し更新がありません。その代わりに存続期間は50年以上と長期の期間となっています。
期間満了時には、建物を取り壊し、更地にして返還する必要があります。
また、定期借地権には、普通借地権で認められている「契約の更新」「建物再築による期間の延長」「期間満了時の建物買取請求」という請求をしない特約を付けることができます。
ただし、特約は公正証書などの書面で行う必要があります。
事業用定期借地権
事業用定期借地権は、店舗や事務所、工場、ホテルなど事業専用の建物を建てるための借地権で、アパートや賃貸マンションなど居住用の建物では使うことはできません。
存続期間は10年以上〜50年未満の間で設定でき、契約は公正証書によってしなければなりません。
期間満了により契約は終了し、更地にして返還する必要があります。
また、存続期間が10年以上30年未満の場合、「契約更新はしない」「建物再築による期間の延長をしない」「期間満了時の建物買取請求をしない」という特約が必須であり、存続期間が30年以上50年未満の場合は、特約を付けるかは任意となっています。
建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権は、借地権契約から30年以上経過した時点で借地上の建物を地主に売り渡す特約を付けた借地権です。
契約期間は30年以上で設定し、建物の譲渡によって契約が終了します。
建物の維持管理が適切に行われていない場合など地主が買取を拒否するケースも考えられ、その場合借地権は消滅せず継続することになります。
一時使用目的の借地権
一時使用目的の借地権は、工事現場の事務所やイベント用の仮設建物など一時的な使用の建物を建てるときに利用されます。
借地借家法は、借地人の権利を保護するための法律ですが、一時的な土地利用では借地人を保護する必要性が低いことから、一時使用が明らかな場合は借地人を保護する規定(存続期間や建物買取請求権など)は適用されません(借地借家法25条)。
ですので、契約期間についても10年以下の設定も可能で、契約の更新は原則としてありません。反対に契約期間が長くなれば一時使用目的の借地権とならない可能性があります。
借地権のデメリットは?
このように借地権は、他人の土地を借りて建物を建てることができる一方、土地を所有しないことからデメリットもあります。
ローンの審査に通りにくい
家を購入するとき多くの方が住宅ローンを利用しますが、借地権付きの建物の場合、審査が通りにくくなる点に注意が必要です。
住宅ローン審査は、借入する人の年収や年齢、勤務先など借入する人の属性のほか、不動産の担保価値を総合的に判断します。
金融機関は、融資の条件として土地や建物に抵当権を設定し、万一返済ができなくなった場合、不動産を売却して資金を回収できるようにしますので、融資の対象となる不動産の担保価値は重要になります。
この点、土地を所有する場合と比べて、借地権の場合「借地権と建物」の評価となり担保価値は低くなります。
担保価値を低く評価されれば、必要な資金の融資が受けられない可能性もあります。
また、借地権に対する金融機関の対応もさまざまで、新築か中古かで借入できる期間が違う金融機関、そもそも借地権では融資しないところもあります。
ですので、借地権付きの建物で住宅ローンを利用する場合、事前に資金計画をしっかりと確認する必要があります。
土地の所有者は別にいる
借地権は、他人の土地を借りて建物を建てることができる権利です。
土地の所有者が別にいるため、土地や建物の利用について一定の制限があります。
長期間、土地を借りる中で、途中、建物の増築や建て替えも考えられますが、通常、借地契約には「増改築禁止の特約」がついていますので、地主の許可が必要となります。
また、急な転勤などで建物を売却したい場合も地主の許可が必要です。
地主の許可が下りない場合、裁判所に代わりの許可を申し立てることができますが、状況によっては許可が得られない可能性もあります。
このように、借地上の建物を利用するうえでも、処分(売却)するうえでも制限がある点はデメリットといえます。
毎月地代が発生する
借地権付きの建物を購入する場合、土地の資金を必要としない分取得費を抑えることができますが、一方で、ランニングコストとして毎月の賃借料(地代)がかかります。
経済環境の変化によっては、当初契約時の地代が変わる可能性もあります。
借地権は長期の契約期間を前提としていますので、結果的に土地を購入する以上にトータルコストが高くなる可能性もあります。
また、借地契約の内容によって、契約更新時の更新料、建て替えや増築の際の承諾料がかかることもあります。
借地権の対抗要件について
「対抗要件」と聞くと難しく聞こえますが、簡単にいうと、第三者に対して自分の権利を主張(対抗)するための条件です。
借地権の対抗要件は、契約期間中、土地を借りる権利を地主以外の第三者に対して主張できるための条件です。
借地契約の期間中に、土地所有者が土地を売却、あるいは亡くなって相続が発生すると土地の所有者が変わります。
借地人としては、新しい所有者に対しても土地を借りる権利を主張できることが必要ですが、そこで問題となるのが借地権の対抗要件です。
もし、新しい土地所有者に借地権を主張できないとその権利を失う可能性もあります。
ここでは、借地権の対抗要件について解説します。
対抗要件は登記
借地権の対抗要件を備えるためには登記が必要です。
借地権の対抗要件
借地権の対抗要件をまとめると以下のようになります。
- 「借地権(地上権もしくは賃借権)を登記」または「借地上の建物を登記」する
- 建物の登記は表示登記でも所有権保存登記でもよい
- 建物の登記名義人と借地契約の名義人が一致している
賃借権を登記するには地主の承諾が必要となり難しい場合もありますが、借地上の建物は自らが所有するものですので地主の承諾なく登記できます。
「表示登記」は、建物を新築した際にはじめにする登記で、地番や家屋番号、種類、構造、床面積、登記原因を書き、建物を特定させる登記。
「所有権保存登記」は表示登記の次に建物の所有者が誰かを明示する登記です。
表示登記でも保存登記でも対抗要件となりますが、登記名義人と借地契約の名義人は必ず一致している必要があります。
建物が滅失した場合の対抗要件
借地上の建物が火災などで滅失してしまった場合、建物がなくなったことで借地権が主張できないとなると新たに建物を建てることもできません。
そこで、滅失から2年間は、滅失した日や新たに建物を建てる旨など必要事項を土地上の見やすい場所に明示することで借地権の対抗要件とすることができます(借地借家法10条2項)
地主が第三者に土地を売却したときに対抗要件が必要
借地権の対抗要件が問題となるのは、地主が第三者に土地を売却した場合です。
地主は借地人の承諾なく土地を売却でき、地主が変わったことで今までの関係も変わり、立ち退きを要求される可能性もあります。
そのような場合に、対抗要件を備えることで新しい地主に対しても借地権を主張することができます。
もし対抗要件を備えないまま土地が第三者に売却され、新しい地主から土地を明け渡すよう求められた場合、例外的な場合を除いて拒否することが難しくなります。
土地は財産的価値のある資産ですので、長期に及ぶ借地契約の期間中、売却されることも考えておく必要があります。
ちなみに、地主が亡くなり相続によって土地所有者が相続人等に変わった場合、相続人は借地契約上の賃貸人の権利義務をそのまま引き継ぎますので、対抗要件がなくても借地権を主張できます。
ただし、相続人が相続した土地を第三者に売却する場合は対抗要件を備えておく必要があります。
借地権の種類、デメリットを踏まえて活用しよう
ここまで借地権について解説しました。
借地権は、取得段階、借地契約期間中、借地権を売却する場合とそれぞれの段階ごとにデメリットや注意点があります。
借地権を取得する段階では、土地の購入と比べると取得費は抑えられるものの、住宅ローンの審査が通りにくいなど資金調達が難しい場合があります。
また、借地契約の期間中、建物の増築や建て替えなどで地主の承諾が必要となったり、地主が土地を売却した場合などに備えて登記しておく必要があります。
そして、建物を利用する必要がなくなり、借地権を売却するにも地主の承諾が必要です。
このように借地権は取得から売却に至るまで制約がともなう権利といえます。
これから借地権の契約をする、借地権付き建物の購入を検討している方は、これらのデメリットと借地契約後にかかるコストなども踏まえ判断してください。