一般的に、土地や建物などの不動産を売買したときには所有権移転登記、住宅ローン借入をしたときには抵当権設定登記などを行います。
不動産登記は、財産である土地や建物などの所在地や面積、所有者の情報を登記簿に記載し、誰でも閲覧できる状態にすることで、不動産取引の安全、促進を図る制度です。
登記できる権利は、所有権や抵当権だけでなく、借地権(地上権、賃借権)を登記することができます。
借地権は、建物を所有するために他人の土地を借りる権利ですが、借地権の登記はどういった場合に必要なのでしょうか。
この記事では、借地権を登記する目的やタイミング、メリットなどについて解説します。
借地権の「登記」が必要なタイミングは?
借地権には地上権と賃借権があり、いずれも土地を借りる権利という点では同じですが、権利の性質に違いがあります。
地上権は、他人の土地を工作物や竹木を所有するために使用・収益することを目的とした権利(物権)であり、物を直接支配できる強い権利です(民法265条)。
一方の賃借権は、賃貸借契約に基づく権利(債権)で、契約内容に基づき相手に一定の行為を請求できる権利です(民法601条以下)。
地上権は、借地権を譲渡するにも地主の承諾が不要であるなど借地人にとって強い権利となっており、活用されることは少なくほとんどは賃借権契約にもとづく借地権となっています。
この記事では賃借権に基づく借地権を前提に解説します。
では、借地権の登記はどういったタイミングでする必要があるのでしょうか。
借地契約を締結したとき
借地契約(賃貸借契約)を締結したときに借地権の登記が必要となります。
借地権は土地の所有者(以下「地主」)と土地を借りる借地人の賃貸借契約に基づいて設定されるものですが、数十年にわたる契約期間中に、地主が土地を譲渡したり、借地人が借地上の建物を譲渡することも考えられます。
そういった場合に、借地契約の当事者以外の第三者に対しても借地権を主張するために島沖が必要となります。
これを不動産取引における「対抗要件」といい、登記することで契約当事者以外の第三者に対してもその権利を主張することができます。
ただ、土地に借地権の登記をするには、地主の承諾を得たうえで賃借権設定登記をする必要がありますが、地主には登記に協力する義務はなく承諾が得られない場合もあります。
そのため、借地借家法10条では、借地上の建物の登記をすることで第三者にも対抗できるとしています。
つまり、地主の承諾がなくても建物の登記をすることで、対抗要件を備えることができます。
登記は建物が完成したタイミングで行いますが、建物表題登記(建物の場所や床面積、構造など建物の存在を示す登記)は、原則として建物の所有権を取得した日から1ヶ月以内にする必要があります。
建物表題登記が完了後、所有権保存登記(建物の所有者の情報等を示す登記)をします。
借地権を譲渡されたとき
借地権を譲渡されたときに登記をする必要があります。
借地権付き建物を購入すると、建物だけでなく借地権も譲り受けます。
このときに借地権付き建物の売買契約を締結し、売買代金の支払い(決済)、引渡しと同時に建物の所有権移転登記を行います。
なお、借地権を第三者に譲渡するには、地主の承諾が必要です(民法612条1項)。地主の承諾なく借地権を譲渡した場合、賃貸借契約を解除される場合がありますので(同2項)、売買契約前に地主の承諾の有無を確認する必要があります。
借地契約を解消したとき
借地契約を解消し、借地上の建物を解体し更地で返還するときに登記が必要となります。
建物を解体し、存在しなくなったことを証明する登記を滅失登記といいます。
滅失登記は、解体してから1ヶ月以内に手続きをする必要があり(不動産登記法57条)、建物所有者が自ら手続きすることもできますが、一般的には土地家屋調査士などに依頼します。
建物解体後の滅失登記は忘れがちですが、必要な滅失登記を行わない場合は罰則がもうけられているだけでなく、のちのち以下のようなトラブルになる可能性がありますので注意してください。
- 土地の売却ができない
- 新たに建替えしようとしても建築許可がおりない
- 存在しない建物の固定資産税の納付書がくる など
借地権を登記するメリットは?
借地権を登記することでどういったメリットがあるのでしょうか。土地を貸す側(地主)と借りる側(借地人)それぞれについて解説します。
貸主側は土地の返還請求に必要
貸主側のメリットとしては、土地の返還請求をする際に必要となります。
定期借地権の契約期間満了時に役立つ
借地権には、大きく普通借地権と定期借地権に分けられ、借地権の登記は、特に定期借地権の土地の返還請求をする際に役立ちます。
定期借地権は、普通借地権と異なり、契約期限満了によって借地契約は終了し、契約の更新はありません(借地借家法22条以下参照)。
借地人は、建物を解体し、更地にしたうえで土地を返還しなければなりません。
ただ、定期借地権の契約期間は50年以上と長期に及び(一般定期借地権の場合)、場合によっては借地人が土地の返還をしないケースも考えられます。
このとき、地主としては定期借地契約の内容にもとづいて土地の返還請求をするわけですが、50年以上という期間が経過していると契約書自体を紛失していたり、地主側に相続が発生し、書類の行方がよくわからないということも起こります。
この点、定期借地契約を公正証書で作成していれば、契約の存続期間内であれば公証役場で取得することが可能です。
ただ、定期借地権の中でも一般定期借地権は必ずしも公正証書による借地契約が求められておらず、契約書を紛失すると契約内容を証明するものがなくなり、土地の返還請求が難しくなる場合があります。
こういった場合に、借地権を登記しておくことで、定期借地権であることを証明でき、土地の明け渡し請求をすることができるメリットがあります。
建物が第三者に譲渡されても土地の返還請求ができる
借地上の建物が借地権付き建物として売買され第三者に譲渡されること、また競売等により建物の所有者が変わる可能性もあります。
このような場合に、借地権の登記をしていることで、借地権付き建物を譲り受けた第三者に対しても、定期借地権であることが証明できますので、契約期間が満了したときに土地の明け渡しを請求することができます。
借主側は第三者に権利を主張できる
次に、借主側である借地人が登記するメリットですが、地主以外の第三者に対し権利を主張できる点にあります。
借地契約の期間中に、地主から第三者に借地権の目的となっている土地が譲渡され、土地の所有者が変わることもあります。
借地人としては、新たな土地の所有者に対しても借地権を主張し利用できる必要があります。
このとき、借地上の建物を登記しておくことで、土地の譲受人に対しても借地権を主張することができます。
このように登記のメリットは、契約当事者以外の第三者に対しても権利を主張できる(対抗できる)点にあります。
借地権登記に必要な費用や手続き
借地権(賃借権)は、賃貸人(地主)の承諾がなければ登記することができません。ここでは賃借権の設定登記をするために必要な費用や手続きについて解説します。
登記に必要な書類について
登記に必要なもの
賃借権設定登記に賃貸人(地主)が準備する書類は以下のとおりです。
- 賃貸借契約書
- 印鑑証明書
- 不動産の登記済証(権利証)または登記識別情報
- 固定資産評価証明書
- 実印
- 本人確認書類
また、借地人側は、認印と本人確認書類が必要となります。
通常、登記手続きを司法書士に委任するため委任状を作成しますが、事前に書類を用意しておき、手続きをスムーズに行えるようにしましょう。
借地権登記の手続き
必要書類が準備できれば、以下のような流れで手続きをすすめます。
- 申請書と添付書類の準備
- 登録免許税を納付(申請書へ貼付)
- 不動産を管轄する法務局へ申請
- 法務局で審査
- 法務局にて登記完了証を受取り
図1は、定期借地権の賃借権の設定登記の記載事項の例です。
登記手続きが終わると、不動産登記簿には、賃貸借契約の成立日や賃料、賃借権の権利者(借地人)の住所、氏名が記載されます。
これ以外に、賃借料の支払い時期や存続期間、特約がある場合はこれらも記載されます。
参照元:所有者が異なる複数の土地を一体で事業用定期借地にする場合の留意点(公益財団法人 不動産流通推進センター)
登記にかかる費用
登記手続きにかかる主な費用は、登録免許税と司法書士報酬になります。
登録免許税は、不動産や会社を登記するときにかかる税金(国税)で賃借権設定登記の登録免許税は以下のように計算します。
不動産価格(固定資産税評価額)×税率(10/1000) |
固定資産税評価額は、土地の所有者に送られる固定資産税納税通知書に記載されていますし、役所で固定資産税評価証明を取得することで確認できます。
また、司法書士報酬については依頼先によって変わり、賃借権設定登記の申請業務とは別に、賃貸借契約書の作成を依頼する場合、別途費用がかかります。
借地権を相続登記する場合
借地人が亡くなり借地権付きの建物を相続した場合、相続人は、被相続人(亡くなった人)の権利義務を承継しますので(民法896条)、建物だけでなく財産的価値のある借地権も相続します。
この場合、借地人が相続人に変わることになりますが、地主の承諾や許可は必要なのでしょうか。
ここでは、借地権を相続したときの登記手続きについて解説します。
地主に許可をもらう必要はない
相続によって借地人が変わることについて、地主の承諾や許可は必要ありません。地主に対しては、相続によって借地権を取得したことを報告すれば足り、借地権を譲渡したり名義変更する際に支払う譲渡承諾料などの金銭も不要です
ただし、相続したのち、借地上の建物を利用しないため、第三者に売却するとなった場合には地主の承諾が必要となります
また、相続と同様に被相続人の財産を取得する方法として遺贈があります(民法964条)。相続は、被相続人の財産上の権利義務を、法定相続人(配偶者や子ども等)に移転することを指すのに対し、遺贈は、法定相続人以外の第三者に、遺言によって財産を無償で譲る行為を指します。
この点、遺贈によって借地権を取得した場合は、地主の承諾、譲渡承諾料が必要となります。
なお、借地権の相続登記をする場合は、借地上の建物について名義変更の登記をします。
借地権の相続税評価額
借地権付きの建物を相続したとき、建物だけでなく借地権も相続税の対象となります。
借地権には普通借地権と定期借地権、一時使用目的の借地権とありますが、それぞれ相続税評価額の計算方法は異なります。
ここでは普通借地権の相続税評価額について紹介します。
普通借地権の相続税評価額=自用地評価額×借地権割合 |
自用地評価額とは、所有者自らが使用していて第三者による利用制限がない土地の評価額をいい、相続税の土地評価における「利用区分」の1つです。
借地権割合は、更地評価額に対して借地権価額の占める割合を示すもので、借地としての利用価値の高い都心部や駅前などが高くなり、郊外や田舎など借地としての需要が少ない地域では低くなります。
自用地評価額や借地権割合は、国税庁のホームページで調べることができます(図2参照)。
一例として、図2の事例地で指定されている「450C」は路線価と借地権割合を示しています。
450は1㎡あたりの相続税路線価を表し(1000円単位)、この事例では450×1,000=45万円/㎡となります。
記号のCは借地権割合(70%)を表しています。
ですので、仮に事例地の土地面積が100㎡だとすると、借地権の相続税評価額は以下のようになります。
借地権の相続税評価額:45万円/㎡×100㎡×70%=3,150万円 |
ただし、土地の形状等によって奥行価格補正率等で評価額が修正されます。
また、この計算方法は路線価が指定されている地域に使う計算式で(路線価方式)、路線価が定められていない地域の相続税評価額を計算するときは、固定資産税評価額を用いた倍率方式を用います。
まとめ
借地権の登記について解説しました。
地主と借地人の賃貸借契約に基づいて設定される借地権は、長期間の土地利用を前提としていますので、その間、権利関係が売買や相続等で変わる可能性があります。
借地人の視点でみると、借地権を土地の譲渡を受けた第三者などに主張できるために登記が必要です
ただ地主の承諾を必要とする賃借権の登記がされることはあまりなく、借地上の建物の登記をすることで借地人としての地位を第三者へも主張することができます。
また、地主側の視点からみると、借地権と登記することで契約期間満了時に土地の返還請求がしやすくなる、第三者に借地権が譲渡されていても土地の返還請求ができるというメリットがあります。
登記には登録免許税や司法書士報酬などの費用が必要となりますが、長い借地契約の権利関係を明確にし、取引の安全に行うために必要なものです。
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