建物を所有するために他人の土地を借りる権利を「借地権」といいます。借地借家法にもとづく借地権は、契約の更新がある普通借地権と期間満了で契約が終了し契約の更新がない定期借地権、一時使用目的の借地権に分けられます。
さらに、定期借地権は土地利用の目的や、存続期間、借地契約の終了などの違いから3つの種類に分けられます(図表1参照)。
借地借家法における借地権の種類 | |
普通借地権(3条以下) | |
定期借地権 | 一般定期借地権(22条) |
事業用定期借地権(23条) | |
建物譲渡特約付借地権(24条) | |
一時使用目的の借地権(25条) |
定期借地権は期間満了により借地契約が終了し、原則として建物を取り壊したうえで更地にして土地を返還する必要がありますが、定期借地権のうち「建物譲渡特約付借地権」は少し異なります。
契約の更新がないという意味で定期借地権の1つとされていますが、実際には普通借地権に建物譲渡という特約を付けたものに近い特徴もあります。
この記事では、「建物譲渡特約付借地権」の特徴やメリット・デメリット、注意点について解説します。
建物譲渡特約付借地権とは?
建物譲渡特約付借地権とはどのような借地権なのでしょうか、他の借地権との違いも踏まえながらその特徴を解説します。
地主に譲渡して借地権を消滅させる
建物譲渡特約付借地権は、契約期間満了で終了する定期借地権の1つであり、契約終了時に借地上の建物を土地所有者である地主(以下「地主」)が買い取ることを約束した借地権です(借地借家法24条)。
借地契約書には以下のような特約を設けます。
【特約】 借地契約の期間満了時に貸主が相当の対価(時価)で建物を買い取る |
他の定期借地権と異なる点は、契約期間満了で終了するのではなく、期間満了後に地主が相当の対価で建物を買い取ることで契約が終了する点です。
そのため借地人は建物を解体し更地にする必要はありません。
また、他の定期借地権の契約では、公正証書等などの書面で契約しなければならないのに対して、建物譲渡特約付借地権は書面による契約は不要で口頭でも契約できます(借地借家法22条1項、23条3項参照)。
ただし、契約期間が長く建物譲渡の特約を付すことから、のちのちのトラブルを防ぐ意味でも契約書を作成することが望ましいでしょう。
契約の存続期間は30年以上
建物譲渡特約付借地権は存続期間は30年以上で設定しなければならず、建物を譲渡する時期と存続期間満了の時期は必ずしも一致する必要はありません。
例えば、存続期間を50年で契約し、30年以降50年までの間に、地主に建物を譲渡することで借地契約を終了させることもできます。
また、建物を譲渡する時期についても契約で自由に定めることができます。
- 借地権の存続期間満了時を建物譲渡の時期とする
- 30年経過後のある特定の時点を建物譲渡の時期とする
- 地主や借地人の意思表示等によって建物の譲渡(所有権移転)が確定する
地主は契約期間中、安定した賃貸料収入を得ながら土地活用ができる一方、借地人も居住用や事業用の目的に関係なく、長い期間を前提として土地を利用できます。
更新による期間の延長はなし
建物譲渡特約付借地権は、契約の更新による存続期間の延長はできません。建物の譲渡とともに借地契約は終了しますので、土地、建物を明け渡す必要があります。
そのため、建物や借地権の利用を相続したあとまで考えたい場合は、建物譲渡特約付借地権以外の借地権を検討したほうがよいでしょう。
ただし、借地契約の更新はされませんが、借地人や借家人など建物使用者が継続して建物の利用を請求した場合、期間の定めのない賃貸借契約、もしくは借地権の存続期間が残っている場合はその残りの期間を存続期間とする賃貸借契約が成立したものとみなされます。
ここまで建物譲渡特約付借地権の特徴を解説しましたが、活用例としては、開発事業者(デベロッパー)などが、賃貸マンションやビルを建設し、借地契約期間中、家賃収入で運用したのち、30年以上経過した日に地主に売却するといった事業などで活用されています。
また、最後に他の借地権との比較、建物譲渡特約付借地権の特徴をまとめました(図表2)。
借地権 | 存続期間 | 契約の終了 | 土地活用の 目的 | 契約方法 | |
定期借地権 | 一般定期 借地権 | 50年以上 | 期間満了 | 制限なし | 公正証書等 |
事業用 定期借地権 | 10年以上 50年未満 | 期間満了 | 事業用建物 に限る | 公正証書 | |
建物譲渡 特約付 借地権 | 30年以上 | 建物の譲渡 | 制限なし | 口頭でも可 | |
普通借地権 | 30年以上 | 更新される | 制限なし | 口頭でも可 |
建物譲渡特約付借地権のメリット
建物譲渡特約付き借地権にはどのようなメリットがあるか解説します。
契約期間を長く設定できる
建物譲渡特約付借地権の最低存続期間は30年であり、契約内容によってそれ以上の期間を設定することができます。
契約期間終了後、借地人は土地を引き渡す必要があります。
また、土地利用の目的も制限されませんので活用の自由度は高く、地主、借地人の条件があえば双方にとってメリットのある借地権といえます。
計画的に事業運営できる
建物譲渡特約付借地権は、一般定期借地権の最低存続期間(50年)と比べると最低契約期間が30年以上と短くなっており、また事業用にも利用できますので計画的に事業運営をすすめることができます。
契約期間を事前に定めることで、いつまでにどれくらいの収益を上げるか検討したうえで土地の活用をすすめることができます。
期間満了後は建物を買い取ってもらえる
借地契約終了後は建物を買い取ってもらえる点はメリットといえます。
建物譲渡特約付借地権は、最低契約期間が30年以上と一般定期借地権と比べると短く、住居用以外に事業用としても活用できます。
この点、地主に買い取ってもらうことで、耐用年数が長いビルやマンションなどの建物を建てた場合でも、解体費用がかかることもなく建物に投資した資金を回収し、次の事業資金などに活用することもできます。
建物の買取り金額について、借地借家法では「相当の対価」と規定しています。借地契約時に30年以上先の買取り価格を定めることは難しく、基本的には当事者同士の協議のうえ決めます。
そのため一般的には、譲渡する時点で以下のような基準をもとに話し合いをしますが、算出方法については予め合意しておくことが望ましいでしょう。
- 不動産鑑定士の評価額
- 固定資産税評価額
- 地代・賃料相場 等
なお、譲渡特約があるにもかかわらず、建物の状態が良くない等の理由から地主が買取りを拒否した場合、借地権は消滅することなく継続することになります。
また、建物の買取後に、借地人の状況によって建物を引き続き利用したい場合、請求することで建物の賃借人として利用できる点もメリットといえます。
建物譲渡特約付借地権のデメリット
メリットの一方で、建物譲渡特約付借地権のデメリットはどういったことが考えられるのでしょうか。
デメリットについては主に地主に関してのものになります。
短期での契約はできない
建物譲渡特約付借地権の最低存続期間は30年となっており短期での契約はできません。そのため、1度貸すと契約満了まで地主は土地を活用することはできず、また、借地人に契約違反などの特別な事由がない限り、途中で借地契約を解約することはできません。
建物を買い取る必要がある
建物譲渡特約付借地権では、契約終了時点で特別な事由がない限り、地主は建物を買い取る必要があります。
つまり、地主は契約終了時点で土地所有者から土地と建物の所有者に変わります。
この点、建物を自ら使用することも考えられますが、利用しない建物であっても買い取る必要があるため、建物の固定資産税など維持費を負担することになり、建物を利用せず解体するとしてもその費用がかかります。
また、契約終了時に借地人や借家人など建物使用者が引き続き利用を請求した場合、地主との間に期間の定めがない賃貸借契約や借地権の残存期間がある場合は、その期間を存続期間とする賃貸借契約が成立します。
こういった点を考えると、地主が今後の土地活用を考えるにあたって活用方法に制限がかかる可能性があります。
建物譲渡特約付借地権の注意点
ここまで建物譲渡特約付借地権の特徴やメリット・デメリットを解説しましたが、他の定期借地権のように契約期間の満了によって確定的に契約関係が終了しないため注意しなければいけない点もあります。
ここでは建物譲渡特約付借地権を利用するにあたっての注意点について解説します。
借地権が消滅しても強制退去を要求できない
建物譲渡特約付借地権は、存続期間満了後に、地主が建物を買取りすることで契約が終了します。
ただし、借地人もしくは借地人から転貸されている借家人が建物の利用を請求した場合、建物を使用している借地人や借家人を強制的に退去させることができません。
法定借家権が成立する
これは、借地借家法24条2項で、建物の使用者が借地契約が終了しても建物の利用を継続する必要がある場合を考慮して、地主との間に建物賃貸借契約(借家契約)を成立させることを認められているためです。
このように一定の要件を満たしたうえで建物使用者の請求で成立する賃貸借契約を「法定借家権」といいます。
〇法定借家権の成立要件
- 建物譲渡特約によって借地権が消滅したこと
- 建物使用者(借地人もしくは借家人)が地主に建物の賃貸借を請求すること
- 建物使用者(借地人もしくは借家人)が建物の利用を継続すること
そのため、借地契約は終了しても借地人や借家人は、継続して建物、土地を利用できます。
なお、このとき地主と建物賃借人の間で新たに定期建物賃貸借契約を締結し、契約期間を定めることも可能です(借地借家法38条1項)。
法定借家権の存続期間
法定借家権は期間の定めがない賃貸借契約もしくは、借地権の残存期間があるときは残存期間を存続期間とする賃貸借契約となります。
期間の定めがない賃貸借契約とは、契約期間の定めがなく貸主、借主双方ともいつでも解約の申し入れが可能ですが、賃貸人からは正当な事由がないと解約を申し入れることができません。
なお、借家契約の賃借料は、当事者同士の協議で決められない場合、当事者の請求に基づき裁判所が定めます。
退去は相当な事由がないと不可
建物譲渡特約付借地権が消滅したあと、建物使用者の請求によって借家契約が成立する場合、賃貸人側から建物を退去し明け渡しを求めるには正当な事由が必要となります(借地借家法28条)。
賃借人が賃料を払わないなど契約義務に違反した場合などは別として、賃借人側に落ち度がない場合に立ち退きを求めるには、単に地主が土地を使いたいといった理由では認められません。
立ち退きが認められる「正当事由」にあたるか否かは、賃貸人側、賃借人側双方の事情や状況を考慮して判断され、正当事由を補うものとして賃貸人が立退料を支払うことで認められる場合もあります。
建物所有権移転の仮登記しておいたほうがよい
建物譲渡特約付借地権を設定した場合、地主は借地上の建物の所有権移転の仮登記をしたほうがいいでしょう。
仮登記とは、将来の本登記に備えて登記上の順位を確保するための登記です。
建物譲渡特約付借地権といっても、実際に建物を譲渡し所有権を借地人から地主に移転させるのは30年以上先のことです。
その間、いつのまにか借地人が建物を第三者に譲渡したり、融資などのために担保に入れ抵当権を設定されたり、もしくはローンで購入した建物の返済ができなくなり建物の差押えが行われるなどの可能性もあります。
こういった場合、所有権移転の仮登記をしていれば、建物を譲渡する前に権利を取得した第三者に優先して建物の所有権を主張できます。
借地権の第三者への譲渡や抵当権の設定をするには地主の承諾が必要ですが、それでも所有権移転の仮登記はしておいたほうがよいでしょう。
まとめ
建物譲渡特約付借地権の特徴やメリット・デメリット、注意点について解説しました。
〇建物譲渡特約付借地権の特徴
- 地主に建物を譲渡して借地権を消滅させる
- 借地契約の存続期間は30年以上
- 更新による契約期間の延長はなし
〇建物譲渡特約付き借地権のメリット
- 契約期間を長く設定できる
- 計画的に事業運営できる
- 期間満了後は建物を買い取ってもらえる
〇建物譲渡特約付き借地権のデメリット
- 短期での契約はできない
- 建物を買い取る必要がある
〇建物譲渡特約付借地権の注意点
- 借地権が消滅してもた退去させられない
- 退去は相当な事由がないと不可
- 所有権移転の仮登記しておいたほうがよい
建物譲渡特約付借地権は、30年以上先に建物を買い取る特約を付ける借地権ですが、その時点での建物の価値や地主あるいは借地人の土地、建物の必要性など状況を予測することは簡単ではありません。
また、他の定期借地権同様、契約の更新はありませんが、契約終了後に請求によって法定借家権を認めているなど、契約の更新が可能な普通借地権に似た点もあります。
こういった点を考慮すると、建物譲渡特約付借地権を活用するにしても慎重な判断が求められます。
是非、参考にしてください。