マイホームや店舗など、建物を所有するために他人の土地を借りる場合がありますが、この土地のことを「借地」といい、土地を借りる権利を「借地権」といいます。
借地権は、借地人にとっては20年、30年と長期間土地を借りることを前提とした強い権利であり、土地の所有者(以下「地主」)にとっては、契約期間中、地代を得られる代わりに土地の利用は制限されます(図1参照)。
また、長い借地契約期間中に状況の変化はあります。
「転勤で借地上に建てた建物が必要なくなった」
「借地権付きの建物を相続したものの誰も住まない」
こういった場合、借地権付きの建物を誰かに買い取ってもらうことが考えられます。
ただし、借地権は、買い取ってもらうとしても所有権と異なり、以下のような点で難しい場合があります。
- 第三者への譲渡は地主の承諾が必要
- 購入者は賃借料や更新料、建替え等の承諾が必要
- 所有権ほど借地権は流通していない
こういったことから借地権を買い取ってもらう相手がなかなか見つからないこともあります。
この記事では、借地権を買取りしてもらう方法、地主との交渉を成功させるためのポイントについて解説します。
借地権を買取りしてもらう方法
借地権を買取りしてもらう方法は、買取りの相手やすすめ方によっていくつか考えられます。
土地の広さや地代、契約期間、地主との関係性など借地権の状況はさまざまですので、買取りを成功させるには最適な方法を選ぶ必要があります。
借地権を地主に買取りしてもらう
1つ目は、借地権を地主に買取りしてもらう方法です。
借地権の売却にあたって一番の利害関係者は土地所有者である地主ですので、最初に買取りの提案、交渉すべきでしょう。
地主にとってもメリットがある
借地権を地主に買い取ってもらうことで借地契約は終了し、地主は完全な所有権を手にすることができますので、自由に利用・処分することができるようになります。
特に地主が高齢な場合、相続なども踏まえ、土地(底地)を処分したいと考えていることもあります。
借地権がついた土地(底地)の権利を「底地権」といいますが(図1参照)、借地契約の期間中、地主は土地を利用できるわけではなく、底地権という土地の利用が制限された不完全な権利を所有している状態です。
借地権を買取ることでこの権利関係を解消することができます。
建物を買い取ってもらえる場合がある
借地契約が終了する場合、借地人は借地上の建物を解体し更地にしたうえで土地を返還する必要がありますが、建物の状態によっては、地主に借地権だけでなく建物も買い取ってもらえることがあります。
買取り金額は、周辺の土地の賃借料や借地権価格の相場を参考にしながら、最終的には地主との交渉によって決められます。
借地借家法14条は、借地権の第三者への譲渡や転貸に地主の承諾が得られないときに、地主に対する借地上の建物の買い取り請求をその第三者に認めており、地主は優先的に借地上の建物を買い取ることができます。
このような点から、借地権を買取りしてもらいたい場合、まずは地主に提案してみましょう。
第三者に借地権を買取りしてもらう
2つ目は、第三者の個人や不動産会社などに買い取ってもらう方法です。
借地権を第三者に買取りしてもらうには地主の承諾が必要となり(民法612条1項)、承諾なく借地権を譲渡した場合、借地契約を解除されることもあります(同条2項)。
また、契約内容にもよりますが、一般的には地主の許可をもらうときに、承諾料を支払うことが必要となります(名義書換え料ともいいます)。
借地権は、長期間の賃貸借契約を前提としており、地主と借地人の信頼関係がベースとなりますので地主の承諾を必要としています。
第三者に買い取ってもらう相手が不動産会社であれば直接交渉することもできますが、個人へ買い取ってもらうには購入希望者を探す必要があります。
借地権の買取り価格設定の難しさや、地主との交渉などの手続きを考えると、仲介手数料はかかりますが不動産会社を利用して買い取り先を探すことが現実的です。
一般的に借地権の買取りは所有権より難しくなりますので、依頼する不動産会社選びは慎重に行う必要があります。
借地権を業者に買取りしてもらう
3つ目は、借地権を業者に買取りしてもらう方法です。
買取り業者といってもさまざまな会社があります。再建築不可や事故物件、共有持分の買取りなど、一般的に売りにくい不動産でもノウハウと資金力を生かして買取りを行っている会社があります。
その中でも特に、賃貸管理や借地権事業部を持っている、借地や底地のコンサルティング実績が豊富な会社など、借地権の経験とノウハウをもった専門業者に買い取りをしてもらうことを検討すべきでしょう。
借地権の譲渡は、地主との交渉や価格設定を間違うとうまくいきません。
特に、借地権の買取り価格は、土地の市場価格以外にも次のようなさまざまな要因が影響します。
- 賃借料(地代)
- 更新料の有無、価格
- 建替え等の承諾料の価格
- ローン承諾の有無(購入者のローン利用の承諾)
- 周辺の地価・賃料の相場 など
そのため買取り価格にも幅が出やすく、より高い価格での買取りを成功させるためには複数の買取り業者に価格査定をしてもらうことがおすすめです。
複数の会社から、買取り価格の根拠やすすめ方が信頼できる買取業者をみつけましょう。
なお、買取り業者に直接買い取ってもらう場合、仲介手数料は必要ありません。
底地権と一緒に不動産会社に買取りしてもらう
4つ目は、底地権と一緒に不動産会社に買取りしてもらう方法です。
地主の承諾のもと土地(底地)と一緒に不動産会社に借地権を買い取ってもらう方法になります。
底地と同時に買取りしてもらうメリット
この方法のメリットは、買い主は借地権付きの建物ではなく、土地・建物の完全な所有権を取得できますので、買取りの需要は大きく上がります。
また、土地、建物の市場価格に近い金額で買取りしてもらえますので、借地権だけの買取りよりも高く買い取ってもらえます。
ただし、底地を同時に買取りしてもらうには地主の同意が必要です。
そのため、「地主が相続対策など土地の処分を考えている」「新たに契約期間が更新される時」など、地主が土地の売却を決断しやすいと考えられるタイミングで活用しやすい方法です。
底地と一緒に買取りしてもらうときの注意点
地主の同意が得られ買取りをすすめる場合、事前に、買取りが成立した際の売却収入の配分を地主と借地人の間でしっかりと決めておく必要があります。
そのため、調整に時間がかかったり、金額の折り合いがつかないとすすめることはできません。
また、契約手続きは、地主、借地人、買い主の3者ですすめる必要があり、契約終了後には賃貸借契約終了の覚書を交わす必要があるなどの当事者間の調整や手間が生じます。
なお、底地権と一緒に買い取ってもらうことで所有権の不動産として価値が上がりますので、不動産会社以外の個人や法人にも売却できる可能性が高くなります。
等価交換して買取りしてもらう
5つ目は、等価交換で買取りしてもらう方法です。
等価交換とは「借地人の借地権の一部」と「地主の底地権の一部」を同じ価値で交換することです。
等価交換することで、地主、借地人とも土地面積は減るものの、完全な所有権を手にできます。
例えば、図2は等価交換後に借地人が土地の60%、地主が土地の40%の所有権をそれぞれ取得するイメージです。
等価交換で買取りしてもらうメリットはいくつかあります。
買取りしてもらいやすくなる
借地人は利用できる土地面積は減りますが、完全な土地・建物の所有権として買い取りをすすめられる点です。
借地権付き建物より不動産市場での流通性、換金性が上がりますので、売れやすく、買取り価格も高くなる可能性があります。土地が分筆されますので土地面積が一定程度広い場合には活用しやすい方法といえます。
この方法も地主の同意が必要となりますが、地主にとっても複雑な借地関係を解消し、完全な所有権を手にすることで売却しやすくなるメリットはあります。
不動産譲渡税の負担がなくなる
土地や借地権といった不動産を譲渡した場合、不動産譲渡税がかかります。等価交換も借地権と底地の譲渡にあたりますので、不動産譲渡税の負担がありそうですが、借地権と底地の交換においては、同じ種類の固定資産を交換した場合の「固定資産の交換の特例」が利用でき、譲渡所得税がかからなくすることもできます。
この場合、確定申告は必要です。
借地権の買取り交渉を成功させるための3つのポイント
借地権の買取りの方法について紹介しましたが、通常の不動産売買と比べ権利関係が複雑な借地権の買取りでは、地主との交渉がカギを握ります。
ここでは「買取りの交渉」を成功させるポイントについて解説します。
不動産会社に仲介を依頼する
借地権の買取りを成功させるためには、仲介手数料はかかりますが専門的なノウハウをもつ仲介会社に依頼したほうがよいでしょう。
借地権を第三者あるいは地主に買い取ってもらう方法、底地と同時に買い取ってもらう方法などいくつか紹介しましたが、いずれも地主の承諾や同意が前提となりますので地主との交渉が重要です。
買取り価格や分配の仕方を決めるうえで、当事者だけですすめると専門的な知識が必要となるため、時間がかかりやすいだけでなく、もめる可能性も高くなります。
借地権の取扱い実績が多く、経験豊富な担当者が代わりに交渉することで、地主の承諾や同意が得られやすく、良い条件で契約をすすめられます。
ただし、不動産会社のなかには、所有権の不動産取引の実績は多くても借地権の取扱いが少なく、あまりノウハウを持ち合わせていない会社もあります。
依頼する会社は、借地権の取扱い・買取り実績などをしっかりと確認し信頼できる会社を選びましょう。
適度な価格交渉が重要
借地権の買取りを成功させるためには地主との交渉がポイントですが、なかでも価格に関する交渉は慎重に行う必要があります。
「できるだけ高く買い取ってもらいたい」と考えるのは当然ですが、必要最低限の交渉にとどめておかないと難易度が上がります。交渉が長引けば地主との関係が悪化する恐れもあります。
経験と実績が豊富な信頼できる仲介会社の査定金額をベースに、お互いが譲歩できる条件で契約することが大切です。
同時売却を提案する
買取りを成功させるには、利害関係の強い地主の利益やメリットを考えることがポイントとなりますが、いくつか方法を紹介したうち、もっとも有効な方法は、地主の土地と同時に買い取ってもらう方法です。
第三者に借地権を買い取ってもらう方法は、地主にとっては借地人が変わるだけで権利関係は変わりません。
契約内容によりますが、普通借地権であれば契約更新が前提であり(借地借家法3条以下)、地代は得られるものの借地人との複雑な権利関係は続きます。
一方、等価交換は、完全な所有権を手に入れることができますが、土地面積が変わりますので土地の面積や接道(前面道路との接し方)状況によっては、不動産の価値が下がったりそもそも交換自体が難しい場合もあります。
これらを踏まえると、借地権と同時に底地を買い取ってもらう方法が地主のメリットが大きいと考えられます。
〇借地権と底地を同時に買い取ってもらうメリット
- 需要が増え、売れやすくなる
- 底地だけで売却するより高く買い取ってもらえる
- 複雑な権利関係から解放される
- 土地を分筆するなどの手間がない
- 相続等に備え、資産を処分ができる
地主にもメリットがあることをしっかりと伝えたうえで交渉することが必要です。
借地権の買取りを行うメリット
最後に、借地権を買い取るメリットについて紹介します。
第三者や買取り業者に借地権を買い取ってもらううえで、所有権にはない借地権のメリットを知っておくことも大切です。
不動産が比較的安い
借地権付きの建物は、買取り価格も安くなりますので、都心部や街中の地価が高い場所に住みたい、建物を所有したいといった場合、少ない予算で購入できます。
類似の条件の借地権付きのマンションと所有権のマンションを比べても、およそ7〜8割の価格帯で取引されていることが多いです。
ただし、資金計画を考える際に住宅ローンの利用が一般の物件より厳しくなること、購入後に土地賃借料(地代)がかかることは踏まえておく必要があります。
土地の固定資産税がかからない
借地権付き建物を購入しても、土地所有者ではありませんので固定資産税の負担は建物だけになります。
土地を利用していても、固定資産税の支払い義務は毎年1月1日時点の土地所有者である地主にあります。
まとめ
借地権の買取り方法とポイントについて解説しました。
〇借地権の買取り方法
- 地主に買取りしてもらう
- 第三者に買取りしてもらう
- 業者に買取りしてもらう
- 底地権と一緒に不動産会社に買取りしてもらう
- 等価交換して買取りしてもらう
〇借地権の買取り交渉を成功させるポイント
- 不動産会社に仲介を依頼する
- 適度な価格交渉が重要
- 同時売却を提案する
それぞれの買取り方法には、メリット・デメリットがあり、必要な手続きや手間なども異なります。現在の借地契約の状況を踏まえ、最適な買取り方法を選ぶことが必要です。
また、「借地権付きの建物を所有する」借地人と「借地権付きの土地(底地)を所有」する地主は、借地権の買取りに関して利害関係があります。
ですので、借地権を買い取ってもらうには、まずは地主へ提案、交渉をするのがよいでしょう。
そのとき、地主の状況も考慮しながらメリットを感じてもらえる交渉が大切です。
そのためには、借地権売買の経験とノウハウを豊富にもつ不動産会社に依頼することが大切です。