借地権は「譲渡」できる権利ですが、譲渡するには条件があります。
譲渡する方法を理解しておかないと、地主とトラブルになるため注意しなければなりません。
また、地主が借地権の譲渡に承諾してくれないケースもあるため、承諾してくれないときの対処法を知っておくことも大切です。
本記事では、借地権の譲渡に必要な知識を詳しく解説していきますので、借地権の譲渡を考えている人はぜひ参考にしてください。
借地権の譲渡について
借地権を譲渡するときには、譲渡に関する基礎知識が必要です。
借地権の譲渡について把握しておかなければいけないのは、次の2つです。
- 借地権の譲渡とは借地権を第三者に移すこと
- 借地権の譲渡は転貸とは違う
借地権の譲渡についての基礎知識を理解し、譲渡をスムーズにおこなっていきましょう。
借地権を第三者に移すこと
借地権の譲渡とは、借地権の権利を第三者に移すことです。
借地権を移転するためには、借地上の建物の所有権も同時に移転しなければいけません。
借地権の成立要件は「建物を所有する目的で土地を借りて地代を地主に支払う」ことであるため、建物の所有権も移転しなければ地上権を譲渡することにはなりません。
借地権の譲渡と建物の所有権移転は借地権を持っている人が独断で地主の協力なしておこなえますが、地主の承諾なしに譲渡してしまうと借地権設定契約の解除を求められてしまう可能性があるため注意しましょう。
また、借地権の譲渡・建物の所有権移転を第三者におこなう場合は、地主へ承諾料を支払う必要があります。
借地権を譲渡するときの承諾料は、借地権価格の10%が目安です。
借地権価格とは、更地の評価額に借地権割合を乗じた費用で、借地権割合は国税庁のホームページ「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で調べることができます。
転貸とは違う
借地権の「譲渡」は、「転貸」とは違います。
転貸とは、物を所有している人から物を借りた人が、ほかの第三者に借りた物を貸すことです。
転貸を一言でいうと「また貸し」にあたります。
借地権の転貸として認められるには、借地上の建物を第三者に移転させるときに限ります。
借地上の建物の名義は借地人のままで、第三者に建物を貸しただけでは借地権の転貸にはあたりません。
たとえば、借地権を利用してマンションを建築した借地人が、建築したマンションを借地人の名義のままマンションの1室を貸す場合です。
このような場合は借地権の転貸にはあたらず、ただの建物賃貸借に該当します。
なお、転貸をするときには、地主の承諾と承諾料の支払いをしなければいけません。
無断で転貸してしまうと、借地権設定契約の解除をされてしまう可能性があるため注意しましょう。
地主が借地権の譲渡について承諾しないときの流れ
借地権を譲渡するときには地主の承諾を得なければいけませんが、承諾してくれないケースもあります。
地主が借地権の譲渡に承諾してくれないときには、裁判所を利用すれば地主の承諾に代わる許可を出してくれます。
地主が借地権の譲渡を承諾しないときの流れは、次のとおりです。
- 裁判所が許可してくれる
- 裁判手続きを行う
- 申し立てを行う3つの条件
- 裁判所が認可する基準
- 許可決定後の手続き
地主が借地権の譲渡を承諾してくれないとき、裁判所でどのような手続きをすればよいのか知りたい人はぜひ参考にしてください。
裁判所が許可してくれる
地主が借地権の承諾をしてくれない場合、裁判所に申し立てれば裁判所が許可してくれます。
もちろん裁判所の許可を得るためには申立内容が精査され、申立人である借地人に正当事由がなければ許可は出ません。
正当事由とは賃貸借契約を更新しない、解除するにあたって必要な事情のことです。
ただ単にお金が欲しいというだけで借地権を譲渡する場合の正当事由は弱く、借地権を譲渡しないと破産するなどの理由でお金が必要となれば正当事由は強くなります。
正当事由が強いにも関わらず、地主が譲渡の承諾をしてくれないときには、裁判所に申し出て地主の承諾に代わる許可を取得しましょう。
裁判手続きを行う
地主の承諾に代わる裁判所の許可は借地非訟事件の1つで、借地借家法で認められている権利です。
地主の承諾に代わる裁判所の許可を得るには、借地非訟の手続きをおこなわなければなりません。
借地非訟の手続きをするには、譲渡する借地権が存在している所在地を管轄する地方裁判所に、必要書類を提出し費用を払う必要があります。
裁判所に提出する書類は、次のとおりです。
- 申立書
- 資格証明書(申立人もしくは相手方が法人の場合)
- 委任状(弁護士に委任する場合)
- 固定資産税評価証明書(土地と建物両方が必要)
- 現場の住宅地図
- 賃貸借契約書 など
地主の承諾に代わる裁判所の許可を得るときに必要な申出費用は、次の計算式で算出された額の収入印紙を用意し払います。
【借地の範囲が当該土地の全部のとき】 固定資産評価額 ÷ 2 【借地の範囲が当該土地のうちの一部のとき】 固定資産評価額 × 一部の土地の面積 ÷ 全体の土地の面積 ÷ 2 |
なお、上記費用に加え郵便切手の予納も必要で、4,500円も追加して支払う必要があります。
郵便切手の予納は、相手方1人増えるごとに1,000円ずつ増えていきます。
申し立てに必要な書類の費用を支払うと1ヶ月半程度で裁判所から期日が指定され、法廷と同じように地主と向かい合って裁判のような手続きをおこないます。
地主の承諾に代わる裁判所の許可は、書類審査では終わらないことを理解しておきましょう。
申し立てを行う3つの条件
裁判所に地主の承諾に代わる裁判所の許可を得るためには3つの条件があり、条件をすべて満たしていないと申し立てを受け付けてくれません。
地主の承諾に代わる裁判所の許可を得るときに必要な3つの条件は、次のとおりです。
- 譲渡の前におこなう
- 譲渡の相手が決まっている
- 借地上に建物がある
譲渡をすでにおこなっている場合は無断でおこなった譲渡であり、許可を取らずに無視して手続きしたことを示しています。
これでは許可を取得する意思がないものとみなされるため、地主の承諾に代わる裁判所の許可は取得できません。
また、譲渡する相手が決まっていない段階では、申し立てはできません。
譲渡する相手の属性が変わってしまうと、裁判所の判断も変わってしまうからです。
たとえば、一般の企業に譲渡するのと、反社会的勢力の企業に譲渡するのでは判断が変わることはわかると思います。
そして、借地上に建物がなければ申し立てできません。
借地上に建物がなければ借地権が成立しないため、申し立てをする意味がなくなってしまいす。
裁判所が認可する基準
裁判所が地主の承諾に代わる許可には、一定の基準があります。
裁判所が認可する基準は、次のとおりです。
- 基本的に承諾料の支払いを条件にする
- 借地の期間が残り少ないときは許可が下りない
- 譲渡後の使用目的も判断の基準となる
裁判所が借地人の申し立て内容を吟味して問題がなければ、地主に代わる許可を出しますが、許可を出すときには基本的に地主への承諾料の支払いを条件にしてきます。
裁判所から提示される承諾料の金額は、裁判所の選定した鑑定委員会が金額を決定します。
決定された金額は、おおよそ借地権価格の10%に相当する金額になるケースがほとんどです。
また、申立内容が正当だとしても借地期間が残り1年など、借地期間の残存期間が少ない場合は許可がおりません。
借地権の残存期間が少ない状態で許可を出してしまうと、地主に不利になる場合が多いため許可を得られにくくなります。
そして、譲渡の相手が借地上の土地をどのように使うかも、許可の判断基準になります。
借地権譲渡後に建物を建て替えを予定している場合、地主に不利になるケースもあるからです。
譲渡の相手方の内容だけでなく、譲渡後の利用方法も影響するため、裁判所に申し立てをするときには総合的な判断をされると考えておきましょう。
許可決定後の手続き
裁判所からの許可は通常、許可決定から14日で確定されます。
裁判所から譲渡許可が出た場合、決定された承諾料を地主に払い、譲渡先と譲渡契約を締結し、譲渡契約締結後に譲渡先に建物の所有権を移転します。
借地権は通常登記しませんが、建物の譲渡とともに借地権が移転したものとみなされるため、登記をしなくても第三者に借地権の存在を主張することが可能です。
なお、裁判所の許可が出た後、14日以内に地主側が即時抗告をおこなうケースがあります。
即時抗告とは控訴のようなもので、地主が反論の書面を出すことで再審理となる手続きです。
即時抗告されると、その間決定が確定しなくなりますが、再審理の結果問題ないと審理されれば借地権の譲渡契約を締結が可能です。
借地権を子供に譲渡するときの注意点
借地権は子供に譲渡するときにも、注意しなければいけないことがあります。
子供に借地権を譲渡するときの注意点は、次のとおりです。
- 地主に承諾を得る
- 建て替えを行うときは承諾が必要
借地権を譲渡するときには、譲渡先が子供であってもルールを守らなければいけません。
再度、借地権の譲渡のルールを確認し、トラブルにならないようにしておきましょう。
地主に承諾を得る
借地権を譲渡するときには、子供であったとしても地主の承諾を得なければいけません。
そして、地主の承諾だけでなく地主への承諾料の支払いもする必要があります。
借地上の建物に子供と同居するだけであれば、特別な手続きはありません。
また、子供が法定相続人で借地権を相続で取得する場合も、地主への承諾と承諾料の支払いは必要ありません。
しかし、相続で借地権を受け継いだときには、借地権の権利が移転したことを地主にきちんと伝えておきましょう。
法律上、地主の承諾が必要がないとしても、移転の連絡がないとトラブルに発展してしまうケースがあります。
建て替えを行うときは承諾が必要
子供ために借地権上の建物を建て替える場合も、地主の承諾と承諾の支払いが必要です。
子供ためだからといって勝手に建て替えると、借地権設定契約の解除されてしまう可能性があります。
また、承諾料も子供のためだとしても支払わなければいけません。
建て替えのときに必要な承諾料の目安は、更地価格3〜5%です。
借地権の譲渡時には地主の承諾が必要
借地権の譲渡とは第三者に借地権を譲り渡すことで、譲渡するときには地主からの承諾が必要です。
子供に借地権を譲渡するときにも、地主からの承諾を取得しなければいけません。
また、承諾を得るためには承諾料を払う必要があり、譲渡するときには借地権価格の10%程度を支払う必要があります。
譲渡したいのにも関わらず地主が承諾してくれない場合は、裁判所に申し立てすることで地主の承諾に代わる許可を取得することが可能です。
どうしても承諾してくれないときには、最終手段として裁判所を利用するのもよいでしょう。