借地権を譲渡する場合には、地主に譲渡承諾料を支払わなければいけないケースがあります。しかし、譲渡承諾料とはなにか、いくら払えばよいのかわからないという人は多いはずです。
譲渡承諾料を支払わないと、トラブルが発生してしまうため注意しなければいけません。
ここでは譲渡承諾料とはなにか、いくらが相場なのか、支払いが必要・不要なケースなどを解説していきますので、譲渡承諾料について詳しく知りたい人はぜひ参考にしてください。
借地権の譲渡承諾料とは?
借地権の譲渡承諾料とは、借地権を譲渡するときに地主に支払う費用です。
譲渡承諾料には費用の目安があるため、いくら支払わなければいけないのか理解しておくことが大切です。
譲渡承諾料についてきちんと理解していないと、地主とのトラブルが発生してしまうため注意しなければいけません。
借地権を譲渡するときに必要な費用
譲渡承諾料とは、借地権を譲渡するときに必要な費用です。
第三者に借地権を売却するときには、譲渡承諾料を地主に支払わなければいけません。
なぜ地主に譲渡承諾料を支払わなければいけないのかは、民法の規定を確認すれば理由がわかります。
民法の規定には、次のような条文があります。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。 |
引用:e-Gov「民法」
地上権は賃借権の一種であるため、民法の規定により地主の承諾がなければ譲渡できません。
地主から譲渡の承諾を得る代わりに、借地人は譲渡承諾料を地主に支払います。
地主の承諾を得ずに第三者に借地権を譲渡してしまった場合、地主は民法612条2項の規定により借地権設定契約を解除できます。
借地権の譲渡承諾料の相場について
借地権の譲渡承諾料の相場は、借地権価格の10%程度です。
借地権価格は、次の計算式で算出します。
借地権価格 = 更地価格 × 借地権割合 |
※普通借地権の借地権価格計算方法
更地価格とは実勢価格のことであり、借地権の付いた土地が借地権のない場合にいくらで売れるのか表した数字です。
実勢価格を調べるには、国土交通省のホームページ「土地総合情報システム」で調べるとよいでしょう。
土地総合システムでは成約事例のデータを調べられ、おおよその実勢価格を知ることができます。
土地総合情報システムで実績価格を調べるときには、調べる土地に似たサンプルデータを多く集める必要があります。
調べようとしている土地と条件が違うものをサンプルに選択してしまうと。実勢価格がわからなくなるため注意しましょう。
借地権割合は、国税庁のホームページ「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で調べることが可能です。
借地権割合は30%〜90%まで設定されており、路線価図にアルファベットのG~Aと表記されています。
調査したい土地の前面道路に記載されている、アルファベットに対応する割合を確認すれば借地権割合がわかります。
調査したい土地が角地など前面道路が2本以上ある場合には、一番借地権割合が高いアルファベットを採用して計算しましょう。
なお、定期借地権の借地権価格の計算は複雑であるため、税理士などの専門家に計算してもらうことをおすすめします。
借地権の譲渡承諾料が必要なケース
借地権の譲渡承諾料が必要なのは、借地権の売買のときだけではありません。
借地権の譲渡承諾料が必要なケースは、次のとおりです。
- 譲渡するケース
- 贈与するケース
- 遺贈するケース
どのようなケースに該当するときに、地主に承諾料を払わなければいけないのか理解しておけば、地主とのトラブルを避けることが可能です。
譲渡するケース
借地権を第三者に譲渡する場合は、地主へ譲渡承諾料を支払わなければいけません。
譲渡する場合、金銭の授受があったかどうかは関係なく、借地権を移転するかどうかが基準になります。
そのため、借地権を無料で譲渡したり格安で譲渡したりしても、地主の承諾がなければ譲渡することはできません。
地主の承諾を取得せずに譲渡してしまうと、借地権設定契約を地主から解除されてしまうため注意しましょう。
贈与するケース
借地権を贈与する場合は、地主へ譲渡承諾料を支払わなければいけません。
贈与とは、財産を渡す人が無償で譲渡し、受け取る人が無償で受け取ることを承諾したときに成立する契約のことです。
借地権を贈与するときにも地主の承諾が必要であり、贈与する相手が親族や友人だったとしても承諾を得なければいけません。
借地権を贈与した場合にも、譲渡承諾料を支払う必要があります。
また、借地権は財産であるため、贈与すると受け取った人に贈与税が課税されることにも注意しなければいけません。
贈与税の税率は最大で55%であるため、贈与せず課税されない価格で譲渡したほうがよいケースもあります。
遺贈するケース
借地権を遺贈する場合は、地主へ譲渡承諾料を支払わなければいけません。
遺贈とは、遺言により法定相続人以外の特定の人に財産を相続させることです。
遺贈も譲渡に該当するため、地主の承諾がなければ遺贈による借地権の移転はできません。
遺贈は相続と違うため、地主の承諾だけでなく譲渡承諾料の支払いも発生することには注意しましょう。
借地権の譲渡承諾料が不要なケース
借地権を譲渡するときには、基本的に地主に譲渡承諾料を払わなければいけませんが、一部の条件では承諾料の支払いが不要になるケースもあります。
借地権の「譲渡承諾料が不要」なケースは、次のとおりです。
- 借地権が地上権のケース
- 相続するケース
どのようなケースで譲渡承諾料の支払いが不要になるのか理解しておけば、不要な承諾料を地主に払ってしまうということが防止できます。
借地権が地上権のケース
借地権には地上権という権利もありますが、「地上権の譲渡」には地主の承諾は必要ありません。
借地権は債権ですが地上権は物権であり、権利の性質が違います。
債権は権利として弱く特定の人にしか権利を主張できず、物権はすべての人に対して権利を主張できる強い権利です。
そのため、債権である借地権は地主の承諾を得なければ権利を譲渡できず、物権は地上権を所有している人の独断で譲渡が可能です。
地上権を譲渡するときには地主の承諾が必要ないため、当然譲渡承諾料を支払う必要もありません。
相続するケース
「借地権を相続」するケースは譲渡に該当しないため、地主へ譲渡承諾料を支払う必要はありません。
相続は契約内容や借地人としての立場が、そのまま法定相続人に引き継がれます。
譲渡とは違い、地主としては貸している借地権の内容に変わりがありません。
そのため、相続のときには地主の譲渡承諾は必要なく、承諾料も必要ありません。
ただし、譲渡承諾が必要ないといっても、相続が発生したことは必ず地主に伝えるようにしましょう。
借地権設定契約の内容は変わらなくても、地主は借地権をもっている人が変わったことについて知りたいはずです。
それにも関わらず相続があったことを地主に連絡しないと、借地人と地主との関係性が悪化してしまいます。
借地権にかかわる譲渡承諾料以外の費用
地主に承諾料を払わなければいけないのは譲渡のときだけではなく、そのほかにも承諾料を支払わなければいけないケースがあります。
借地権にかかわる譲渡承諾料以外の費用は、次のとおりです。
- 建て替え承諾料
- 条件変更承諾料
- 転貸承諾料
承諾料には決まった金額がないもののある程度の相場が決まっており、取得する承諾によって金額が異なります。
どのような承諾を取得するときにいくら費用が発生するのか理解し、地主から承諾を取るときに知識を活用していきましょう。
建て替え承諾料
借地権上にある建物を建て替えるときには、地主に承諾を取得し承諾料を支払わなければいけません。
借地権の更新前に借地上の建物を建て替えすると、借地借家法第7条により借地権の期間が20年延長されます。
しかし、地主によっては、20年借地期間が延長されることに抵抗がある人もいることでしょう。
そのため、建物を建て替えるときには、地主の承諾が必要であるとされています。
また、地主の承諾とともに承諾料の支払いもしなければいけません。
建物の建て替えに必要な承諾料の目安は、更地価格の5%~12%です。
あくまで目安であるため、どの程度承諾料が必要になるのかどうかは地主との折衝で決まります。
条件変更承諾料
借地権設定契約の条件を変更するときには、地主に承諾を取得し承諾料を支払わなければいけません。
借地権の条件変更とは木造などの非堅固建物を所有する目的から、鉄筋コンクリート造などの堅固建物を所有する目的に変更することです。
非堅固建物から堅固建物へ変更する場合、借地期間が20年から30年に変更されるため、地主にとって大きな変更となります。
そのため、借地権の条件変更をおこなうときには、地主から承諾を取得しなければいけません。
条件変更の承諾を取得するときには、一般的に更地価格の10%程度とされています。
裁判所の判例でも更地価格の10%を基準としているため、地主との折衝は10%を基準にして話し合いをしていきましょう。
転貸承諾料
借地権を転貸するときには、地主に承諾を取得し承諾料を支払わなければいけません。
借地権の転貸とは、借地人が第三者に借地を又貸しすることです。
たとえば、借地人が第三者に借地を貸して、その第三者が建物を建築することです。
そのため、借地人が建物を建築し、建築した建物を貸す場合は転貸に当たらず、ただ単に借地人が建物に住む人と借家契約を締結しているだけということになります。
借地権の転貸をするときには地主の承諾が必要であり、転貸承諾料を支払わなければいけませんが、転貸承諾料は金額の目安が決まっていません。
転貸承諾料について地主と話し合う前に、専門家に借地人と地主の状況や借地の内容などを精査してもらってから進めていきましょう。
借地権を譲渡するときには譲渡承諾料が必要
借地権を譲渡するときには地主の譲渡承諾を取得しなければならず、併せて譲渡承諾料を支払わなければいけません。
譲渡承諾料の目安は、借地権価格の10%です。
借地権価格は更地価格と借地権割合を乗じた数字であり、どちらの数字も自分で調査できます。
借地権を譲渡するときには譲渡承諾料を自分で計算し、地主との折衝をおこなうことが大切です。
基準を知らないまま交渉するよりも、スムーズに交渉が進むことでしょう。