土地を借りて使用する借地権は、所有権と同様に売却できます。また、借地権の売却では、一般的な不動産を売却したときと同様に、税金やその他の費用がかかります。
借地権の売却は、土地や建物の売却とは異なる事情がいくつもあるため、十分に理解を深める必要があります。
借地権を売却するなら、不動産の商慣習に詳しい不動産会社や税金に詳しい税理士などに相談しましょう。
この記事では、借地権の売却に伴う税金やその他費用の紹介、借地権の売却で利益もしくは損失があった場合の節税特例について解説します。
借地権を売却する際にかかる税金や費用
借地権の売却には不動産会社の報酬である仲介手数料以外に、いくつかの税金その他がかかります。
売買契約時の税金は仲介する不動産会社、不動産登記時の税金は司法書士が税額を計算して教えてくれます。指示された額の現金もしくは収入印紙を購入しておきましょう。
なお、譲渡所得税額に関しては確定申告の書類に記入して提出する必要がありますが、税理士に依頼すれば手続きを間違うことはありません。
印紙税
借地権や借地上建物の売却手続きで使用する売買契約書には、それぞれの売却金額に応じた印紙税を収入印紙で貼り、印紙に押印やサインなどの消印をして納税します。
印紙を貼る位置は契約書の1ページ目もしくは署名欄の目立つ位置が一般的です。また、消印のやり方は契約後に収入印紙を剥がして再利用できないように、収入印紙と台紙にまたがって跡が残るようにします。
押印する印は、氏名・屋号・社名が入っているものであればよく、署名(サイン)も同様に誰が記したのか判別できるものが適しています。つまり、印紙と台紙にまたがっていてもチェックや二重線は好ましくなく、鉛筆や消えるペンなども使わないようにしましょう。
正しい消印のやり方
なお、下表は文書に記載された金額に対応する印紙税額表からの一部抜粋です。
不動産の譲渡(売買や贈与など)に関する印紙税額
記載された契約金額 | 印紙税額 |
50万円以下のもの | 200円 |
50万円を超え100万円以下のもの | 500円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 5,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 10,000円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 30,000円 |
但し、上記の税額の対象は平成26年4月1日〜令和6年3月31日までに作成された文書とする
抜粋:印紙税額(令和5年4月現在)|国税庁
収入印紙の入手は、郵便局・法務局・市役所・コンビニなどで販売していますが、購入窓口によって印紙の額面の種類や在庫枚数が異なるため、購入を急ぐ場合にはご注意ください。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、不動産の売却によって得た利益に対して課される所得税および住民税(令和19年までは所得税の2.1%の復興特別所得税がさらに課される)です。不動産取引で利益が出なかった場合には課税されません。
そして、現在の税制では給与所得者(いわゆるサラリーマン)の場合、不動産所得がある場合には給与とは別に計算して課税し合算します(分離課税)。
譲渡所得(不動産を売却して得た利益)は下記の式で計算します。
譲渡所得 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得税額は、譲渡所得に下記の2つの区分(短期譲渡所得と長期譲渡所得)によって判定した税率を掛けます。双方の違いは下表をご覧ください。
項目 | 短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 |
不動産の所有期間 | 5年以下 | 5年超 |
合計税率 以下内訳所得税率住民税率 | 39.630% 30.630%09.630% | 20.315% 15.315%05.000% |
抜粋:No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税) 国税庁
なお、所有期間の判定は実際の所有期間ではないため注意が必要です。
所有期間の始期は購入時ですが、所有期間の終期は売却時ではなく売却した年の1月1日時点です。そのため、所有期間の判定は実際の所有期間よりも短くなる点に気をつけましょう。
譲渡書所得税の判定方法について、以下に具体例で例示します。
- 実際の購入日:2010年5月5日
- 実際の売却日:2015年8月8日
- 終期の判定日:2015年1月1日
上記のように、実際に不動産を所有した期間は約5年3か月です。しかし、譲渡所得税の算定基準になる所有期間は約4年5か月と判定され、短期譲渡所得の区分になるのです。
また、譲渡所得の計算式にある取得費および譲渡費の例は下表をご参照ください。
取得費(購入費用) | 購入時の仲介手数料・司法書士報酬・登録免許税・不動産取得税・印紙税・固定資産税清算金・特別なリフォーム費用・土地の改良造成費など※借地権の場合には、借地契約費用・更新料・承諾料などを含む |
譲渡費用(売却経費) | 売却時の仲介手数料・司法書士報酬・登録免許税・印紙税・測量費・建物取り壊し費・特別広告料など※借地権の場合には、更新料・承諾料などを含む |
但し、状況によっては経費になる場合とならない場合があるため、経費として計上できるかは税理士や税務署へご相談ください。
登録免許税
不動産の所有権や抵当権などの権利関係は法務局に登録されており、不動産については権利変動を登記しておかないと第三者に権利を主張できません。
また、借地権は建物の登記が要件であり、借地権を適法に主張するためにも必ず登記をしないといけないのです。
登記は自分でも申請できますが、難解な権利関係を迅速で正確に登録する必要があるため、通常は司法書士に依頼します。
いわゆる「登記費用」というのは手続きを代行する司法書士への報酬と登記申請時に納税する登録免許税を合わせたものを指します。
登録免許税は、税額分の収入印紙を登記申請書と共に法務局へ提出するか、金融機関で現金で支払った領収書を法務局へ提出すれば納税は完了です。
司法書士費用は地域や手続きの煩雑さによりさまざまです。
一方で、登録免許税は登記内容・固定資産税評価額・控除制度の有無などにより明確に定められています。
例えば、ローンで購入したマイホームを登記する際の登録免許税は下記のとおりです。
- 建物の所有権移転登記:固定資産税評価額 × 0.1〜0.3%
- 建物の抵当権設定登記:住宅ローン借入額 × 0.1〜0.3%
※軽減税率の適用は、上記いずれも令和6年3月31日まで
仲介手数料
仲介手数料とは、仲介によって契約を成立させた不動産会社へ支払う成功報酬で、宅地建物取引業法で定められた上限額を超えない限り、報酬金額は当事者間で自由に決められます。なお、下表は仲介手数料の法定上限額です。
200万円以下 | 物件価格(税抜き)× 5% と消費税 |
200万円超〜400万円以下 | 物件価格(税抜き)× 4% と消費税 |
400万円超 | 物件価格(税抜き)× 3% と消費税 |
物件価格が400万円を超える場合の速算式は下記です。
物件価格(税抜き)× 3% + 6万円 と消費税
例えば、税抜き物件価格が5,000万円なら、仲介手数料の上限額は税込み171.6万円です。
(税抜き物件価格5,000万円 × 3% + 6万円)× 税込み110%
譲渡承諾料
借地権や借地上建物を売却するためには、地主からの承諾が不可欠であると法律で定められています。そして、地主から承諾を得るためには、地主に対して「譲渡承諾料」を支払うのが一般的です。
なお、承諾料については法定給付ではなく古くから続く商慣習のひとつですから、借地人が承諾料を拒むことはできます。
しかし、借地契約で承諾料の規定に合意している場合や、規定がなくても過去に承諾料を支払った実績がある場合には、承諾料を支払わないために借地契約が解約されるリスクは少なからずあるでしょう。
※相続によって借地権を得る場合には承諾料は不要です。
この承諾料は、別名「借地権名義変更料」と呼ばれており、相場金額の目安は借地権価格(借地権の評価額または売買価格)の10%程度とされます。
場合によっては、借地人の申し立てに基づいて裁判所が状況を調査し、地主が承諾しない理由に正当性がなければ裁判所が地主の承諾に代わる許可を出すことがあります。
借地権を売却したときにかかる税金を控除するためには?
昨今は、自己居住用不動産や借地権の売却で大きな利益が出るケースは、東京の一部地域を除いては少ない傾向にあります。そのため、控除特例よりも不動産取引の損益と別の所得を相殺して節税するケースを知っておくとよいでしょう。
なお、損益が出ると特例が自動的に適用されて税金が安くなることはなく、自ら確定申告で税務署へ申告する必要があります。
税金控除特例を活用する
不動産や借地権を売却した金額から、購入代金と購入経費および売却経費を差し引いて利益が出れば譲渡所得税がかかります。
自己居住用不動産(マイホーム)もしくは借地権を売却した場合には、譲渡所得から最大で3,000万円までなら非課税になる特例がありますが、これを「3,000万円特別控除」と呼びます。
この特例を受けるには下記の要件などを満たす必要があります。
- 売却するのは売主の居住用不動産もしくは借地権
- 買主が配偶者・直系血族・同族会社でない第三者
- 前年や前々年に同様の控除特例を使っていない
売却時まで継続して売主がその不動産に居住していなくても、居住しなくなってから3年後の年末までに売却すれば、3,000万円特別控除が使えるのが特徴です。
借地権の売却で損失が出た場合
借地上の建物や借地権の売却で損失が出た場合に、一定の要件を満たせば下記の特例を受けて所得税や住民税などが節税できる場合があります。
- 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
損益通算とは不動産取引による損失とその他の所得を相殺することです。また、繰越控除とは控除しきれない損失を次の期またその次の期というふうに、一定年数にわたって所得と相殺し続けることです。
それぞれの特例の概要について解説します。
居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
マイホーム(旧居)を令和5年12月31日までに売却し、新しいマイホーム(新居)を購入した場合に、旧居の譲渡損失が生じたなら、一定の要件ものとでその譲渡損失をその年の給与所得など他の所得と相殺できます。
さらに、初回の損益通算で控除しきれない譲渡損失は、その翌年以後3年内は繰越控除できます。
特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
令和5年12月31日までに住宅ローンが残るマイホームをローンの残高を下回る価額(オーバーローン)で売却して譲渡損失が生じたとき、一定の要件のもとでその譲渡損失を最大4年間は損益通算と繰越控除ができます。
なお、この特例は新たなマイホームに買い換えなくても適用できます。
「オーバーローン」とは、不動産の売却金で住宅ローンが全額返済できない状態のことです。
通常は、売却金で住宅ローンを一括返済し、抵当権を抹消してから買主へ所有権を移転しますが、売却金でローンが返済できなければ抵当権が抹消できず、買主へ所有権が移転ができなくなるため、売却自体を中止しなくてはならないのです。
借地権を売却するときの注意点
借地権を売却するなら、地主の承諾や確定申告の準備もしておきましょう。
特例を受けるときは確定申告を忘れずに行う
節税に利用できるさまざまな特例はできる限り利用したいのですが、特例は自動適用されません。
利用したい特例があれば確定申告をして、特例の要件に合致することを自ら証明しなければならないのです。
確定申告時期は、不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日までと決められています。申告時期に間に合うように適切に必要書類を集めましょう。
確定申告の用紙は税務署に備え置かれており、窓口などで誰でも入手できます。一方で、最近では国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用してネット上で手続きが完結するオンライン申請をする方が増えています。
いずれも特例の要件に合致する証明書を集めて間違いなく申告しなくてはならないため、税理士へ確定申告の代行を依頼する方もいます。
地主の承諾を受ける必要がある
結論を言えば、借地権の売却(譲渡)には地主の承諾が必要ですが、その理由を解説します。
借地上にある借地人が所有する建物は借地人が自由に譲渡できます。建物が譲渡されると、借地権も付随して新所有者へと譲渡されます。つまり、借地権は地主の承諾がなくても譲渡できるのです。
一方で、賃借権譲渡の成立要件として賃貸人(地主)の承諾が必要です。しかも、承諾のない賃借権譲渡は契約違反とされ、正当な賃貸借契約の解除理由になる場合があります。
つまり、建物の譲渡に地主の許可は要らないが、賃借権の譲渡には地主の許可が要るため、
やはり賃借権の譲渡を伴う建物の譲渡には地主の承諾が必要という結論になるのです。
借地権を売却する際は、利益・損失に関わらず確定申告すると節税になる場合が多い
借地権を売却すると印紙税・登録免許税・譲渡所得税のほかに、仲介手数料や譲渡承諾料が要る場合があります。
税額は売却金額や固定資産税評価および控除特例などで明確に決まっており、仲介手数料は法定の上限額を超えない範囲で当事者が任意に決定します。譲渡承諾料は地域の商慣習が大きく影響するため、地元をよく知る不動産会社などに相談しておきましょう。
売却によって利益が出ても損失が出ても、確定申告によって節税をしましょう。
マイホーム売却の利益なら3,000万円の控除があり、損失は他の所得との相殺を当年度とそれ以降3年間は繰り返せます。
納税額を誤れば追徴を受けるため、計算ミスなどがないように確定申告を税理士に依頼するのもよいでしょう。