「借地契約」をする場合には、地主も借地人も借地契約条件の妥当性に不安があることでしょう。地代の相場の基準や計算方法が分かれば、専門家でなくても目安が分かるようになるため、のちのちの安心感にもつながります。
地代相場は「固定資産税・都市計画税の約3倍」もしくは「更地価格の1.5〜3.0%」とするケースが一般的です。ただし、適正な地代はその土地の利用目的に応じた利便性や周辺環境などによって影響を受けるため、一概に計算式で確定できるものではありません。
本記事では、地代相場を決定するさまざまな条件の紹介や路線価および固定資産税評価額などの公的指数から計算する方法、地代の値上げや値下げに関する考え方や注意点を解説しています。
借地権に基づく地代相場が決まる基準は?
借地の地代は、その土地が持つ不動産価値(用途に対する利便性や環境)によって決まりますが、多くの方が使いたいと思う条件がたくさん備わっていることが、その土地の需要の高さに直結します。
地代を決定づけるさまざまな土地の条件や、用途ごとの目安になる基準について解説します。
土地の条件によって詳細は異なる
地代は、借地人が借地に求める用途に対してその土地がどれほど好条件であるか、その度合の高さで決まります。
そして、好条件かどうかを判断する材料とその理由は以下の図表1のとおりです。
借地の所在地 | ・駅やバス停などからのアクセス、駅や地名の人気度 |
借地の面積 | ・用途に対して必要充分の広さがあるか |
借地の形質 | ・建物の形状や規模および駐車場台数や間取りなどの自由度・高低差による造成、擁壁、スロープや地盤改良の必要性・地形が悪いなら路線価や固定資産税評価額などの土地評価は低い |
借地の用途 | ・建てる建物の用途や規模、事業許可が規制される地域かどうか・借地が農地なら使用するには農地法の転用手続きが必要 |
借地の道路付け | ・接道間口幅や道路幅員は、用途や集客など業態の広さに影響・路線価(接する道路ごとの土地評価指数)から地代を推測できる |
借地の周辺環境 | ・騒音、臭気、交通量、景観、利便性、治安、嫌悪施設などが影響 |
借地の契約内容 | ・権利金の金額、契約期間、使用用途、更新料や承諾料の有無と金額、原状回復方法、その他の禁止事項など |
借地は、借地人にとって都合のよい条件が多いほど需要が高くなるため、相場よりも地代を高く設定しても借り手がつきます。
一方で、競合するライバル物件が多い地域や時期には熾烈な値引き競争になり、地代が相場よりも安くなる可能性があります。
借地上の建物が住宅か店舗によって相場が異なる
地代の相場は、借地の用途が居住用なのか事業用(店舗や事務所)なのかによって地代相場が異なります。
居住用の借地は、類似する居住用土地の地代と比較し、さらに路線価や固定資産税評価額などの公的指数および売却相場などから得た更地価格から査定します。
一方で、店舗や事務所などの事業用では、居住用の計算方法に加えて期待利回り(借地の事業が生み出す利益率)を加味して計算します。
そのため、特殊な需要や利益が見込まれる場合には、地代相場や公的指数とは全く異なる結果になるケースがあるのです。
なお、居住用と事業用の年間地代の相場は、以下の図表2のような範囲が一般的とされています。
年間地代の相場
居住用 | 更地価格の2〜3% |
事業用 | 更地価格の4〜5% |
借地権に基づく地代相場を調べる方法
地代相場の調べ方とは、地代の基準を簡易的に設定するためのもので、あくまで目安として理解すべきです。
その瞬間のリアルな地代を出す場合には、過去の取引事例と現在募集中のライバル物件の地代設定を参照しましょう。
公租公課から計算する
「公租公課」とは、国や地方自治体によって徴収される税金の総称で、租税公課と呼ばれることもあります。
公租は法人税・所得税・住民税などの税金であり、公課は健康保険料・社会保険料など税金以外の負担金です。
地代相場は、公租公課の金額を使って下記の式で計算します。
地代 = 公租公課(固定資産税・都市計画税)× 適正倍率(約3倍) |
適正倍率は、一般的に固定資産税の約3倍といわれます。しかし、地代の相場はこのような公的指数だけで決まるのではなく、借地の需要やその土地本来の価値および時期や景気などの影響を受けて決まります。
ですので、固定資産税の約3倍でとどめずに、実情に照らした根拠のある補正を加えて正確に検証することが大切です。
積算法から計算する
積算法とは、その土地で事業をした場合に見込まれる利回り(期待利回り)をもとに地代を計算する方法です。その場合には下記の式を使います。
地代(年額)= 土地の更地価格 × 期待利回り(約2%) + 必要諸経費 |
積算法では、経営目線で見積もった事業利益や実際の維持管理にかかる必要諸経費などを含むため、公租公課や路線価などの公的指数をもとに計算する方法よりも、実情に近い精度があります。
ただし、期待利回りの設定次第で金額が大きく変わるため、地主の意向が強く反映される計算方法だともいえます。
実際に、不動産や事業などに詳しくない個人が事業利益や必要経費を計算するのは困難です。そのため、積算法のような専門的な査定を行うには、不動産会社や不動産鑑定士の助力が必要になるでしょう。
路線価から計算する
路線価とは、土地に面する道路ごとに土地評価額の単価(1平米当たり1,000円単位で表記)を割り当てたものです。そして、路線価は公示地価(国土交通省)・基準地価(都道府県)・固定資産税評価額(自治体)などと同様の公的指数であり、路線価については国税庁が毎年7月1日に公表しています。
路線価による土地の評価額は実際に土地が売り買いされる実勢価格ではなく、実勢価格に近いとされる公示地価の約80%になるよう設定されています。そのため、路線価による土地評価額を80%で割れば公示地価(実勢価格に近い金額)がでるため、実勢価格を把握するために使われることがよくあります。
路線価は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」というサイトに掲載されており、パソコンやスマートフォンとネット回線さえあれば、24時間誰でも無料で閲覧可能です。
路線価のデータは、以下の図表3のようにマップの道路部分に記載されています。この単価は、土地の所有権の場合の路線価であり、土地の借地権の路線価については簡単な計算が必要です。
引用:上連雀3の「57045」/ 財産評価基準書 路線価図・評価倍率表|国税庁
まず、土地の所有権と借地権の路線価の計算方法は、以下の図表4をご参照ください。
所有権の路線価 | ・土地に面した道路に書かれた数値に、土地面積を掛けて計算 |
借地権の路線価 | ・道路に書かれた数値の右端にあるアルファベットを、マップ上枠の借地権割合表に照らして借地権の単価を得て、その数値に土地面積を掛けて計算 |
例えば、道路に「370D」とあれば、1平米当たりの所有権の路線価は37万円 / 平米です。
アルファベットDは60%であり、1平米当たりの借地権の路線価は22.2万円 / 平米です。
実際に、路線価が370D、面積が1,000平米、年間の必要経費が15万円の事業用更地の地代相場を計算します。
更地価格 =(路線価37万円 × 土地面積100平米) = 3,700万円
さらに、更地価格から地代を計算する方法は下記の計算式を使います。
年間地代相場 = 更地価額 ×(1 – 借地権割合)× 6% = 3,700万円 × 40% × 6% = 88.8万円
地代相場66.6万円は更地価格の2.4%です。このように路線価から計算した場合には、更地価格の1.5〜3.0%になるのが一般的です。
賃貸事例比較法を使う
賃貸事例比較法は、近隣の類似する土地でできるだけ新しい複数の賃貸事例を比較して、地代の相場を推測する方法です。
できるだけ多くの類似事例を集めることからはじめますが、類似の借地取引が多い地域では有効でも、人口や産業が乏しい地域では事例が集まらないため不向きです。
実際には、下記の順で補正や修正を施して地代相場を算出します。
- 多数の類似事例を収集する
- その中から適切な事例を選択する
- 類似事例の賃料に「事情補正」と「時点修正」をする
- さらに「地域要因の比較」と「個別的要因の比較」で補正する
賃貸事例比較法は、このような補正や修正がされたいくつかの類似事例を比較考慮して地代の相場としますが、専門的で奥深い補正や考察を要するため不動産鑑定士などの専門家が行います。
収益分析法を使う
収益分析法は、ある事業の運営によって得られるであろう総収益を分析し、対象とする借地が一定期間に生み出すと期待される純収益(減価償却後のものを収益純賃料という)を求め、そこに必要諸経費等を加えて借地の地代相場を求める手法です。
なお、このときの必要諸経費には下記のものを含みます。
- 維持管理費(運用経費、消耗品費、修繕費など)
- 公租公課(固定資産税および都市計画税)
- 損害保険料(火災保険および地震保険、設備機器の損害保険)
- 空室や滞納などの損失相当額
- 減価償却費
- 貸倒準備金
収益分析法は、土地を事業用として利用する対価としての地代を決める際に適した方法です。しかし、売上や純利益の設定および勘定科目ごとの正確な数字を算定するのは難しいため、こちらの方法も不動産鑑定士などの専門家に依頼して行うことが一般的です。
また、おもに事業用地の地代相場の把握で使われる方法であるため、居住用地として使用する借地の地代相場把握には使えません。
借地権に基づく地代は定期的な見直し必要?
借地の地代は、契約締結時から時間が経てば相場から乖離するのは当然です。
そのため、地主と借地人の双方から地代の改定を申し出ることは問題ありません。
地代の改定交渉の考え方や注意点について解説しています。
環境によって相場は大きく変化する
地代相場は、時代の流れや世界情勢、好不況や政策や物価変動、さらに周辺環境の変化や取引事例などのさまざまな要因に影響を受けて変動します。
例えば、近くにショッピングモールができた住宅地は利便性が上がり、住みやすさや人気度ランキングで上位の地域は人気が上がります。こうした要因により地価や地代が上がるのは、住宅用地として需要が増すからです。
一方で、スーパーやコンビニが撤退した地域もしくは化学工場ができて臭気が漂うようになった地域などは、需要が減って地価や地代が下がります。
このように、過去に設定した地代でも時の経過や環境の変化によって実情と合わなくなります。
その土地が持つ利便性や経済価値に比べて地代が高過ぎれば借地人に負担を強いることになり、安過ぎれば地主の収益が下がるのです。
お互いが無理のない良好な関係で末永く付き合っていくために、数十年という長期で使用する借地では、契約締結後にも定期的な地代の見直しが必要になる場合があるのです。
地代の見直し時期としては、次のような変化がきっかけになることがあります。
- 固定資産税や都市計画税の変動(自治体の評価替えは3年ごと)
- 土地や建物の流通価格が上昇
- 近隣の地代と乖離が大きくなった
- 借地契約期間の更新時
借主の合意があれば値上げは可能
地代の改定はどちらか一方から持ちかけますが、原則として双方が合意しない限り勝手に新たな地代として適用されることはありません。さらに、「値上げしたい」または「値下げしてほしい」などの通知だけで地代の改定を強要するのはトラブルのもとです。
地主が値上げを希望する場合は、近隣で高い地代の取引事例が出たときや契約期間の更新時など、キリがよく分かりやすいタイミングで交渉を持ちかけるとよいでしょう。
ただし、口頭による通知や簡単な通知書の送付だけでは相手方は納得しません。
望ましい方法は、地代が上がっても生活や事業に支障がないかの検討や借地人自身の近隣調査などで時間を要するため、それ相応の熟慮・猶予期間をとることです。
また、値上げを希望する根拠や、値上げ幅の妥当性を裏付ける公平なデータを用意して、分かりやすくまとめた報告書を添えて値上げの意向を伝えるべきでしょう。
加えて、一気に値上げするのではなく段階的に上昇していくプランや、更新料および承諾料を調整して別の負担を和らげるなど、相手が合意しやすくなる交換条件を用意して交渉に臨むべきでしょう。
地代相場の把握は公的指数を参照するが、取引事例・景気・周辺環境の影響も考慮すべき
地代は、立地条件・地形や面積・道路付け・周辺環境などにより、周辺の競合物件との優劣を加味して決定します。また、土地の用途が居住用か事業用かによって参照するデータや分析する視点が変わります。
地代相場は「固定資産税・都市計画税の約3倍」もしくは「更地価格の1.5〜3.0%」という基準が一般的ですが、土地の利用目的に応じた利便性や周辺環境を考慮して補正することが大切です。
地代の交渉によって長期間お付き合いする相手方との関係が悪化しては本末転倒です。
また、交渉に臨むためにはデータ収集や分析など不動産の専門知識が必要になります。借地に関して不安や疑問があれば、借地取引の経験が豊富な不動産会社へ相談するのもおすすめです。