借地権に基づく借地契約の締結では、借地人から地主へ高額の権利金を支払います。この権利金は法的根拠のない出費なのですが、借地権に特有の事情によって今でも各地で商慣習として根付いています。
権利金の額には一定の基準があるものの絶対ではなく、「地主と借地人の合意」で決定します。権利金相場の計算方法を知れば、高額請求でないか自分でも容易に判断できるため安心です。
この記事では、権利金の意味や相場の計算方法をはじめ、借地契約に関係する権利金以外の費用についても解説しています。
借地権の権利金とは?
権利金は、借地人が建物を所有する目的で地主へ地代を支払って土地を賃借する場合に、借地契約の締結に際して地主へ支払う一時金です。
権利金の金額の設定方法や、権利金に類似する金銭支出である礼金との違いを解説します。
借地権設定の対価として地主に支払うお金
権利金は、地主が所有する完全な所有権の一部である借地権を、借地人が取得する対価として地主へ支払う金銭です。権利金は、一旦は地主が金額を仮で設定しますが、成立するためには借地人と双方の合意が必要です。
なお、権利金は借地権の購入代金という意味合いがあるため払いきりです。保証金のように一旦は地主へ預け、借地契約の解約時に返金されるような性質はありません。
権利金を授受する手続きは、1992年(平成4年)8月1日より前の「旧借地法」でもそれ以降の「借地借家法」でも規定されていません。
それにもかかわらず、古くから権利金という商慣習がなくならずに続いている理由は、借地権が地主の土地利用にとって長期間かつ大きな制約になるため、借地権設定者には金銭的な補填が必要だと考えられてきたからです。
ちなみに、借地借家法に定められた手厚い借地人保護の権利は下記のとおりです。
- 借地権の存続期間は最短30年(同法3条)
- 借地上に建物がある場合、地主からの借地契約の更新拒絶には正当な理由が必要(同法5条1項、6条)
- 借地権の契約期間が満了して借地契約が更新されない場合は、建物を地主に時価で買い取ってもらえる(建物買取請求権、同法13条)
- 借地借家法の強行規定に反する特約や借地権者に不利な条項は無効(同法9条、16条)
このように、借地契約が始まれば建物がある限り半永久的に土地を貸し続け、いつになったら自己使用できるか分かりません。しかも、契約を終了させるには建物を時価で買い取らなければならない可能性があるなど、地主の負担はとても大きいのです。
そのため、権利金は借地契約における地主の負担分を金銭で補う行為として定着し、権利金の授受が業界のルールとして、今も全国的に根強く残っているのです。
ちなみに、借地借家法で新たに設けられた「定期借地権」は借地契約期間が満了すれば更新せず必ず土地が返還されるため、地主にとって定期借地契約のデメリットはほとんどありません。定期借地権では地主のデメリットを補う必要がなければ、権利金を授受する必要はないのです。
権利金と礼金の違いについて
権利金とよく似た種類の金銭支出として「礼金」があります。礼金とは、借主が貸主に対し不動産を貸してくれることへのお礼の意味合いで渡すお金です。他方、権利金には借地権の購入代金のような意味合いがあり、権利金と礼金とではお金を支払う根拠が異なります。
一方で、権利金も礼金も契約締結時の初回に1度だけ支払って返金されない部分は同じで、保証金や敷金のように契約終了時点で精算して返金されるものとは異なります。
借地権の権利金の相場は?
借地契約の権利金額には、基準となる相場があります。権利金相場の意味や計算方法を解説します。
借地権価格を目安にする
借地契約の権利金は借地権を譲り渡す対価と見なされており、権利金の額は借地権価格と同額程度として参考にできます。権利金の額は、一般的に下記の式で表されます。
権利金の額 = 更地価格 × 借地権割合(おおむね60%~90%)
このときに用いる借地権割合は路線価図の記載から調べられますが、路線価図は「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」というサイトに掲載されています。インターネットにつながったパソコンやスマートフォンがあれば、全国の路線価データを誰でも無料で閲覧が可能です。
なお、路線価とは土地に面する道路ごとに査定した土地評価指数で、不動産鑑定士の調査に基づく公平な土地の評価基準として、国税庁が毎年7月1日に公表しています。路線価のおもな用途は、相続した不動産の相続税額を計算するために不動産の相続税評価額を調べる目的での使用です。
路線価の指数は、1平米当たりの単価を1,000円単位でアルファベットとともに地図上に記載してあります。
仮に、路線(道路)に記載された指数が「370C」なら、1平米当たりの路線価は37万円で、借地権割合は以下の図表1から70%と分かります。
記号 | A | B | C | D | E | F | G |
借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
権利金の相場は更地価格の60%~90%程度
地主は、借地契約によって自分の土地が長年にわたり使用できず、借地人が申し出ない限り土地が返ってこない上に、相続によって次世代へもその制約を引き継ぎます。
一方で、借地人はその土地を所有しているかのように、排他的に専用使用できる強い権利を得られます。権利金の相場価格が更地価格(土地の流通価格)の60%~90%と高額に設定されるのは、そのような理由からです。
なお、この借地権割合は「土地の利便性」「事業の期待利回り」「賃貸市場での需要」が高ければ90%に近づきます。
例えば、東京などの大都市圏の商業地や主要駅前などは90%と高い数値です。反対に、人口が少なく需要が乏しい土地は30%など低い数値になることがあり、場合によっては路線価や借地権割合が設定されていない地域もあります。
通常であれば権利金の額はまず地主が仮で設定しますが、借地契約の条件として設定するためには、借地人との合意がなければ認められません。
借地権の権利金は義務なのか?
借地契約の締結時に行われる借地人から地主への権利金の支払いは、法定されたの借地人の義務ではありません。相場よりも高額の権利金を支払った場合や、権利金の授受がない場合の対処について解説します。
法律で定められている訳ではない
権利金の授受は、旧借地権にも借地借家法にも請求の根拠や支払いを促す規定がありません。つまり、権利金の制度は単に過去に自然発生的にできた制度が、今もなお受け継がれている非公式の制度といえます。
しかし、権利金の商慣習や相場金額が根強い地域なら、権利金の値引きや支払い自体の拒絶は、借地契約自体が成立しない可能性を高めるため慎重に考慮すべきでしょう。
このように、借地契約で権利金の授受が当然にある地域で権利金を設定しない借地契約があると、また別の問題が起こります。
それは、本来あるべきはずの権利金の支出が免除された借地人は権利金の分だけ得をした、つまり地主から贈与を受けたのと同じだと見なされて、贈与税が課税(認定課税)される場合があるのです。
ここで、権利金が当然の地域で権利金の授受がない借地契約について、贈与税の認定課税がされないケースのうち2つを抜粋して解説します。
賃貸借ではなく使用貸借と見なす場合
借地契約締結時の一時金としての権利金授受がない場合で、地代を発生させない無償貸与もしくは借地の固定資産税および都市計画税よりも低額の地代なら「使用貸借」と見なし認定課税になりません。
権利金分を含む相当の地代を支払っている場合
権利金の支出がなくても、権利金に代わる支払いがあれば贈与とはいえないため、認定課税にはなりません。なお、相当の地代とは借地権部分(建物の底地)にその他の底地部分を加えた土地全体の使用料です。これは、通常の地代に権利金に相当する部分を上乗せした金額を意味しています。
相当の地代 = 更地価額 × 6%
このように、権利金に代わる相当額の金銭を地代に含んで支払っていれば、権利金の免除(贈与)には当たらないため認定課税にはなりません。
地主と借地人の合意で決まる
権利金の額は、目安はあるものの絶対ではないため、合意金額が払いすぎかどうかは即時判断できるものではありません。しかし、権利金額が相場よりもはるかに高額なら、権利金の設定が適切ではなく地主に有利な条件になっている可能性があります。
但し、権利金の授受については任意の手続きであり、権利金額の統一基準や過払いだと思われる場合の返還に関する強制力はありません。しかも、契約締結が終わり既に地主へ支払っている場合には、双方合意の上で授受が終わっているものと判断されるため、権利金の過払い分を取り戻すのは非常に困難です。
ちなみに、借地契約が地主の都合によって途中解約になった場合には、借地契約の残余期間や途中解約による借地人の経済的損失などを鑑みて、相当額を返還する場合があります。
借地権の取得に必要な権利金以外の費用
借地契約では、権利金以外にもいくつかの費用がかかります。代表的なものとして、地代・手付金・保証金について解説します。
地代
地代は、土地を使用する権利の対価として地主へ支払うお金です。地代の相場は土地の用途が居住用か事業用かによって以下の図表2のように異なります。
地代の相場(年額)
居住用 | 更地価格の2〜3% |
事業用 | 更地価格の4〜5% |
居住用借地はマイホームを建てて居住するために使いますが、事業用借地はその土地で事業を営んで収益を上げます。そのため、事業が生み出す利益が大きいと思われる好条件の土地は、地代が居住用借地よりもはるかに高値になるケースがあるのです。
手付金
手付金は、借地契約が成立したことを証明する意味で地主へ支払うお金で、権利金額の5〜10%が基準です。ほとんどの手付金は「解約手付」の役割があり、地主はもらった手付金の2倍を払い借地人は支払った手付を放棄しなければ、自己都合による契約解除ができません。そして、決済時には下記のように権利金額から手付金額を差し引いた残金を支払います。
残金決済(95~90%) = 権利金 – 手付金(5~10%)
特に、マイホームの購入では住宅ローンを使うケースがほとんどであり、借地契約の締結から残金決済準備までには約1か月の期間がかかります。そんなとき、決済までの期間に気持ちが変わって借地契約が解除されれば、相手方が残金決済へ向けた時間と労力が無駄になってしまいます。
手付金は、双方が契約解除しづらくすることで残金決済までの気変わりを抑え、契約を安定させる効果があります。
保証金
保証金は、借地契約時に借地人から地主へ差し入れられる預り金で、地代の滞納その他の金銭的な請求に対して地主の権限で充当できるお金です。地主が借地人に代理して行った緊急対応があり、あとで借地人へ実費を請求したものの支払いがない場合に精算できます。
賃貸借契約における「敷金」も借地契約の保証金と同様の意味があり、金銭債権が未回収の場合に単独意思で充当できる預り金です。
保証金も敷金も、未回収時に即時で充当できるのではなく、契約が終了する時点で未回収の金銭債権があれば精算しますが、なければ返還されるお金です。
借地契約の権利金は土地を長期間占有される地主へ金銭的な補填をするため
権利金は、借地契約をする借地人から地主へ契約締結に際して支払う一時金で、借地契約によって被る地主の負担分を金銭で補うために古くから今まで定着している商慣習です。
権利金は、国税庁の路線価図を参照して「更地価格 × 借地権割合」で計算しますが、最終金額は地主と借地人の合意で決定します。なお、権利金が常識的な地域では権利金支払いを拒絶するのは困難です。
権利金をはじめ、地代・手付金・保証金などの金額調査や交渉は、間違った理解でトラブルにならないように、借地取引の実績が豊富な不動産会社に任せることをおすすめします。