貸家建付借地権(かしやたてつけしゃくちけん)という言葉はあまり聞きなれないと思いますが、貸家建付借地権は借地権の1つです。
借地権とは、建物の所有を目的として土地を借りる権利をいい、契約時に設定した存続期間の更新ができる「普通借地権」と更新がない「定期借地権」に大きく分けられます。
借地権は、土地の所有者(以下「地主」)から土地を借りて、借地人自ら建物を建て住居としたり、事業を営んだりするケースがある一方、アパートや賃貸マンションを建てて第三者に貸し付ける状況も考えられます。
このような借地上の建物を貸し付けているときの借地権あるいは定期借地権を「貸家建付借地権」といいます(図1参照)。
この記事では、貸家建付借地権の特徴や検討する際の注意点について解説します。
貸家建付借地権とは?
「貸家建付借地権」とはどういった権利なのでしょうか、その特徴について解説します。
貸家の敷地に供されている借地権
貸家建付借地権は、借地上の建物が貸家に供されている場合の借地権です。貸家には、戸建て住宅やアパート、マンションといった賃貸住宅のほか、テナントビル、オフィスビルなども該当します。
所有者の利用が制限される
貸家建付借地権において、建物所有者は建物を貸し付けている範囲において、土地、建物の利用が制限されます。
また、地主との関係においても、一般的に借地契約では増改築禁止特約がもうけられますので、建物を建て替える場合には地主の承諾が必要となります。
建物の賃貸人であると同時に、土地の借地人でもありますので、土地を活用して何かを行う場合には、借地借家法民法、借地契約の内容に応じて地主の承諾が必要となります。
相続税評価額を安くできる
貸家建付借地権は借地権の1つですので、借地人が建物を所有し土地を利用している分、地主の土地利用は制限されます。
そのため、相続税の評価額は更地より低くなりますので、地主にとっては相続税対策になります。
貸家建付借地権の評価額の計算方法
借地権は、相続や贈与の対象となる財産的価値のある権利です。借地契約の期間中、借地人に相続が発生した場合、借地上の建物だけでなく借地権も相続財産として評価する必要があります。
借地上の建物を貸し出している貸家建付借地権の評価額の計算方法は、一般的な借地権とは少し異なるため、ここでは、最初に「借地権の評価額の計算方法」を紹介し、それを踏まえ「貸家建付借地権の評価額の計算方法」について解説します。
借地権の評価額の計算方法
借地権の評価額は、自用地評価額と借地権割合から求められます。
借地権の評価額=土地(自用地)の評価額×借地権割合 |
借地権割合とは、土地(更地)の評価に対して借地権の価値がどれくらいの割合を占めるかを表すものです。
借地としての需要が高い都心部などでは借地としての価値が高い分、借地権割合は高くなり、反対に田舎や郊外など借地としての需要が少ない地域では低くなります。
借地権割合は、地域ごとに定められており国税庁のホームページ(路線価図・評価倍率表)で確認できます。
自用地の場合の土地評価額
自用地の評価額を計算する方法は、路線価方式と倍率方式があります。
・路線価方式
路線価方式は、路線価(その道路(路線)に面する宅地の1㎡あたりの標準的な価額)が指定されている地域の評価方法です。
路線価は、毎年7月に公表され国税庁のホームページで確認できます。
図2の事例地を例にすると、「450C」は路線価と借地権割合を示しています。路線価は千円単位の表示となりますので、この事例地の場合、450×1,000円=450,000円/㎡が路線価となります。路線価と土地面積から土地評価額を計算することができます。
ただし、この路線価は標準的な土地を表したもので、土地の形状によっては奥行価格補正率などで価格が補正される場合があります。
・倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていない地域(倍率地域)の土地評価額を算出するときに用いられる方法です。一般的には、都市部から離れた郊外、市街化されていない地域が倍率地域となっています。
倍率方式の自用地評価額の計算方法は次のとおりです。
土地(自用地)評価額=固定資産税評価額×国税庁が定める評価倍率 |
地方税である固定資産税評価額は、各自治体が発行する固定資産税評価証明で、評価倍率については、国税庁のホームページで確認できます。
貸家建付借地権の評価額の計算方法
ここまで借地権の評価額の算出方法について解説しました。これを踏まえ、貸家建付借地権の評価額は、次の計算方法で算出できます。
貸家建付借地権の評価額=土地(自用地)評価額×借地権割合×(1-借家権割合×賃貸割合) |
自ら建物を利用している場合と比べて、貸家建付借地権は建物を賃貸している分、つまり建物賃借人が利用する範囲について、借地権が制約されていると考えられます。
借地権が制約されている分、評価は下がります。
どの程度評価額が下がるかは、借家権割合と賃貸割合を乗じて求めます。
借家権割合は、貸し付けている建物を相続した際の相続税評価額の計算に算入する割合で、全国一律30%となっています。
一方賃貸割合は、貸家における賃貸に供されている割合で、課税時期における全居室の床面積のうち賃貸されている床面積の割合で算出します。
賃貸割合=賃貸されている各独立部分の床面積の合計/家屋の独立部分の床面積の合計 |
貸家建付借地権を検討する際の注意点
貸家建付借地権と似ている言葉に「貸家建付地」があります。
貸家建付地は、地主自らが土地上に建物を建て、その建物を第三者に貸している場合の土地をいいます(図3参照)。
つまり、土地上の建物所有者が借地人の場合、貸家建付借地権となり(借地人視点)、建物所有者が地主の場合、その土地が建家貸付地となります(地主視点)。
建家貸付借地権と建家貸付地の相続税評価額等を検討する場合、借地人の権利(貸家建付借地権)と地主の土地(貸家建付地)という意味で視点が異なります。
ここでは、地主視点の貸家建付地の評価も含め、貸家建付借地権を検討する際の注意点について解説します。
駐車場は貸家建付地と認められない
借地上に建物を建てずに駐車場として利用する場合、貸家建付地もしくは貸家建付借地権としての評価はどのようになるのでしょうか。
・貸家建付地としての評価
まず、駐車場は平面駐車場だけでなく立体駐車場も貸家には分類されません。そのため、駐車場は貸家建付地として認められず、駐車場と利用している土地を相続した場合、自用地(更地)として評価されます。
では、住宅やマンションを建てて、その敷地内にある駐車場の場合どのような取扱いになるのでしょうか。
この点について、過去の裁決事例として以下のようなものがあります。
「貸家(住宅やマンション等)の敷地内に併設された駐車場であって、かつ駐車場の契約者および利用者がすべて貸家の賃借人であり、駐車場が貸家入居者専用の駐車場として使用されているなど、駐車場の貸付の状況が貸家の賃貸借と一体となっていると認められるような場合には、全体として貸家建付地として評価することができる。」
※裁決事例(国税不服審判所(東裁(諸)平22第112号)
つまり、マンションに隣接する駐車場でマンションの賃借人が駐車場契約者および利用者である場合は駐車場部分も貸家建付地として評価されます。
ただし、例えば、余っている駐車スペースをマンション賃借人以外の人に貸しているような場合には、駐車場の一部もしくは全部が貸家建付地として評価されなくなることがあります。
・貸家建付借地権としての評価
借地権が成立するためには建物の所有を目的として土地を借りることが必要です(借地借家法1条)。駐車場は建物には該当せず、駐車場として土地を借りる場合、借地権は発生せず借地借家法の適用はありません。
参照元:No.4627 貸駐車場として利用している土地の評価(国税庁)
使用貸借に伴う貸家建付借地権の考え方
身内や親族に土地・建物を無償で貸す場合もあります。このような無償で貸し付ける契約を使用貸借契約といいます(民法593条)。
法人とその会社の経営者の間や親子間で締結されることが多く、契約書が存在しないこともあります。
では、土地を使用貸借している場合、貸家建付地ならびに貸家建付借地権の評価はどのようになるのでしょうか。
借地権は、土地を有償で賃貸借した場合に成立しますので、無償の場合、借地上の建物所有者には借地権が発生しません。
借地権が発生しませんので、土地の評価について貸家建付地として評価されません。
では、貸家建付地として認められるにはどの程度の賃料が必要なのでしょうか。
この点、使用貸借契約では、借主は通常の必要費を負担する(民法595条1項)とされており、固定資産税の負担は通常の必要費に含まれます。
そのため、貸家建付地として認められるためには、固定資産税と同程度の賃料では足りず、固定資産税に加えその他の必要経費に相当するだけの賃料の支払いが必要となります。
貸家建付借地権としての評価については、前述の通り、使用貸借の場合、借地上の建物所有者に借地権が発生しません。
賃貸併用住宅を建てるケース
借地上に建物を建て、賃貸併用住宅として利用するケースです。賃貸併用住宅は、1つの建物に自分や家族が居住する部分と第三者に賃貸する部分がある住宅です。
この場合の貸家建付地ならびに貸家建付借地権の評価はどうなるのでしょうか。
・貸家建付地としての評価
土地上に賃貸併用住宅を建てた場合、賃貸住宅の床面積に相当する部分のみ貸家建付地として評価され、自ら使用する部分については自用地として評価されます。
そのため、共同住宅などを建てる十分な広さがある土地を所有する場合、賃貸併用住宅を建てることで自ら住みながら評価額を抑えることもできます。
・貸家建付借地権の評価
次に、借地人が借地上に賃貸併用住宅を建てた場合の貸家建付借地権の評価についてです。
この場合、貸家建付借地権の評価額の計算方法で解説したように、借家権割合(一律30%)と賃貸割合に応じて評価額を計算します。
建物全体を貸している場合と比べると、自ら居住する部分については賃貸割合から除かれますので、その分借地権の評価額は上がることになります。
貸家建付借地権による相続税対策の注意点
ここまで解説してきたように、建物を自ら利用するのではなく第三者に貸し付ける貸家建付借地権では通常の借地権より評価額を下げることができ、相続税対策になります。
例えば、賃貸マンションを経営し賃貸割合が80%であれば、およそ24%の相続税評価額を下げることができます(借家権割合30%×賃貸割合80%=24%)。
ただし、相続税対策をするうえでマンション経営などをする場合にも注意点があります。
事業運営がうまくいくとは限らない
1つ目の注意点は、事業運営は必ずしもうまくいくとは限らない点です。
確かに、アパートやマンションを建てることができる一定規模の土地であれば、借地権といえども相続税の負担は少なくないでしょう。
ただ、相続税対策のためだけにアパートやマンション経営に乗り出すと失敗する可能性があります。
マンション経営のリスクとして、空き室のリスクだけでなく家賃の滞納や下落、借入した金利が上昇、災害などのリスクがあり、事業がうまくいかなれければ相続税対策以上の損失になる可能性もあります。
また、経済的な面だけでなく、マンション経営では入居者間のトラブルや建物の維持管理の負担もあります。管理会社に委託するにしても管理コストや管理会社の選定も重要になります。
こういったリスクや負担をしっかり検討したうえで判断するようにしましょう。
事前に土地賃貸借契約を確認しておく
2つ目の注意点は、借地契約における土地賃貸借契約の内容をしっかりと確認することです。
借地借家法上建物の利用目的に制限がなくても、賃貸借契約の内容で制限されている事項がないかを確認する必要があります。
また、借地上の建物を売却したり貸したりする場合には、地主の承諾が必要となりますので、承諾を取得するタイミングも把握しておいたほうがよいでしょう。
賃貸借契約上、一般的に無断で転貸した場合以外にも契約書で定めた方法以外の土地の利用をした場合なども契約解除事由になりますので、契約違反となると借地権自体を失う可能性もあります。
融資が受けられるか確認しておく
3つ目の注意点は、建物の建築、購入費用などで融資を受けられるかを確認しておくことです。
借地権の場合、自分が所有する土地上の建物ではありませんので、融資を受ける際に担保評価や融資可能額は厳しくなります。
融資する金融機関は、返済ができなくなった場合に備えて抵当権を設定して、万一の際に回収できるようにしています。
この点、借地権付きの建物は、所有権の土地上の建物と比べ売却しにくい、土地利用に一定の制限がある等の点から担保評価は低くなります。
借入自体は可能でも、長期間の返済期間で組めないなどの条件がつく可能性もあります。
また、担保評価の基準や金利水準も金融機関によって異なりますし、変動金利であれば金利上昇のリスクがあります。
融資が受けられるかにあわせ、ローン返済を問題なくしていけるかをしっかりと検討する必要があります。
まとめ
貸家建付借地権の評価額や注意点にあわせ、貸家建付地の評価額について解説しました。
貸家建付借地権は自ら建物に居住する場合と比べ、賃借人が利用する部分について制限されますので借地権の評価額を下げることができます。
また、貸家建付借地権は、借地上の建物を第三者に賃貸することで収益を上げることも可能です。
ただ、建物を第三者に貸し出すにあたって、借地権ならではの融資や事業運営のリスクもありますので活用には慎重な判断が必要となります。