「借地権」は、建物を所有する目的で他人の土地を借りる権利です(図1参照)。
借地権は土地所有者(以下「地主」)と借地人の間で借地契約を締結しますが、借地契約で設定した存続期間終了後に更新できる普通借地権(借地借家法3条以下)と更新がない定期借地権(同22条以下)に大きくわかれます。
普通借地権は存続期間30年以上、一般定期借地権は50年以上といずれも長期にわたる契約期間を前提としていますので、その間借地人や地主に相続が発生する場合もあります。
このとき借地上に建てられた建物だけでなく、借地権も相続、譲渡できる財産上の権利ですので、借地権の相続税を算出する必要があります。
一方、借地として活用されている土地についても、更地と異なり、地主は土地を自由に活用できない分土地としての評価が下がります。
そのため、地主に相続が発生した場合、借地権が設定された土地として相続税評価額を算出する必要があります。
このように、借地権や借地権が設定されている土地の相続税の評価の際に使われるのが「路線価」と「借地権割合」です。
この記事では、路線価、借地権割合の調べ方から相続税評価額の計算方法について解説します。
借地権割合とは?
借地権割合の意味、調べ方について解説します。
土地の何割が借地なのか示す数字
借地権割合は、土地(更地)の価値に対して借地権の価値が何割占めるかを示す数字です。
借地権において、土地の価値は、借地権が付いている土地(底地といいます)の価値と借地人が有する借地権の価値に分けられます(図1参照)。
借地権割合は、この借地権としての価値がどれくらいあるかを示すもので、その土地が借地として利用されるときの価値を表すものとも言えます。
そのため、都市部や駅近くなど借地としての需要、利用価値が高い地域は借地権割合が高く、逆に、地方や郊外など借地としての需要が少ない地域では借地権割合は低くなります。
相続税や贈与税を計算するときに利用する
借地権割合は、相続税や贈与税を計算するときに用いられます。
借地権は土地を利用する権利ですが、財産的価値のある権利であり、相続が発生した場合には、相続税評価額を計算しなければなりません。
借地権の相続税評価額を計算する際に借地権割合が必要となります。
借地権割合を調べるときに使う路線価図とは?
路線価とは、道路に面する土地の1㎡当たりの土地評価額です。
国税庁が毎年公表しているもので、相続税や贈与税の算出に使われますが、借地権割合を調べるときに路線価図を用います。ここでは路線価図について解説します。
国税庁のサイトで確認できる
路線価と借地権割合は、国税庁のサイト「財産評価基準 路線価図・評価倍率表」で調べることができます。
路線価は、それぞれの地域の路線(道路)ごとに指定されていますので、知りたい場所の住所から検索します。
該当する道路沿いに数字とアルファベットの数字で書かれた地図が表示されます(図表2参照)。
参考に図表2(東京都杉並区の路線価図)の事例地で確認すると「450C」という表示がされています。
この東西に走る道路(路線)沿いの土地の路線価が450(1000円単位)であることを示しています。
つまりこの場所の路線価が、1㎡あたり450,000円ということが分かります。
次に借地権割合の確認方法です。
路線価図では、路線価とともに借地権割合を調べることができます。借地権割合は、相続税評価額等を算出するために国が地域ごとに指定しており、7つの区分に分かれています(図表3参照)。
記号 | 借地権割合 |
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
一般的に、都心部の需要の高い一等地などは借地権割合が90%と高く、地方の農業地域など車が欠かせないような地域などは借地権割合が30%と低くなります。
なお、借地権の取引慣行がない地域もあり、そういった地域では借地権割合を20%として考えます。
前述の事例地における「450C」と記載されている場所の借地権割合は「C」すなわち70%ということになります。
参照元:財産評価基準 路線価図・評価倍率表(国税庁)
道路に面した土地の1㎡当たりの価格が路線価
路線価図で土地1㎡あたりの評価額が分かりますので、路線価に土地の面積を乗じることで、該当する土地の相続税評価額を計算することができます。
例えば、先ほどの事例地が100㎡だった場合の相続税評価額は以下のようになります。
相続税評価額=450,000(路線価)×100㎡(地積)=4,500万円 |
なお、相続税評価額は、相続税や贈与税算出に使われる価格ですので、実際に取引されている市場価格(実勢価格)とは異なります。
実勢価格を把握するために相続税評価額が使われることもありますが、土地の実勢価格は売買時の市況や取引事例などをもとに決まります。
土地の形状等で評価額は変わる
ただ、この計算式で求められる評価額は一般的な整形地の評価となりますが、実際には土地の形状などはばらばらです。
そのため土地形状や間口の長さ、がけ地の有無によって、評価額を補正することができます(図表4参照)。
土地の補正率 | 土地の形状 |
奥行価格補正 | 奥行が短いあるいは長い |
側方路線影響加算 | 角地の土地 |
二方路線影響加算 | 前面と裏側にも路線がある |
不整形地補正 | 土地が長方形や正方形ではなく不整形 |
間口狭小補正 | 間口が狭い |
奥行長大補正 | 間口に対して奥行が長い |
がけ地補正 | がけ地である |
図表5
例えば、先ほどの事例地が普通住宅地で間口が5mしかない土地であった場合、補正率は0.94となります(図表5参照)
そのため、相続税評価額は、以下のように補正することができます。
相続税評価額(補正後)=4,500万円×0.94=4,230万円 |
このように面倒でも土地の評価額を算出する際に補正をしっかりと行うことで相続税評価額を下げることができます。
参照元:奥行価格補正率表(国税庁)
路線価が指定されていない地域もある
ここまで路線価にもとづく相続税評価額の算出方法を解説しましたが、場所によって路線価が指定されていない地域もあります。そのような地域を「倍率地域」といいます。路線価は一般的に市街地で指定されるため、郊外の農村地域などは路線価の指定がありません。
このような地域での評価額は固定資産税評価額と国が指定する倍率表をもとに算出します。
図表6
図表6はある地域(東京都八王子市)の倍率表です。この場所(宅地)の倍率は「1.2」となっていますので、固定資産税評価額に1.2を乗じたものが相続税評価額となります。
倍率表は、路線価図、借地権割合と同じホームページに公表されています。
また、固定資産税評価額は、毎年送られてくる納税通知書に記載されている課税明細書で確認、もしくは市町村の役所で固定資産税評価証明書を取得することができます。
借地権割合から求める相続税評価額の計算方法は?
路線価、借地権割合の調べ方を解説しましたが、ここでは借地権や底地、また土地上の建物を他人に貸し出している場合の相続税評価額の具体的な計算方法について解説します。
- 借地権
- 底地
- 貸家建付地
- 貸家建付借地権
借地権の相続税評価額
借地権付き建物を相続した場合、建物だけでなく借地権の相続税評価額を算出します。
借地権の相続税評価額は以下の計算式で求められます。
借地権の相続税評価額=自用地評価額×借地権割合 |
例えば、自用地評価額が1,000万円、借地権割合が60%の場合、
借地権の相続税評価額=自用地評価額1,000万円×60%=600万円となります。
底地の相続税評価額
底地(借地権が設定されている土地)を所有する地主に相続が発生した場合の評価額を計算する方法です。
底地の相続税評価額=自用地評価額×(1-借地権割合) |
例えば、自用地評価額が2,000万円、借地権割合が60%の場合、
自用地の相続税評価額=自用地評価額2,000万円×(1-60%)=800万円となります。
貸家建付地の相続税評価額
貸家建付地とは、自分の土地上に建物を建て、それを他人に賃貸している場合の土地のことです(図表7参照)
図表7
この場合、自分の土地上に建物を所有しているものの、建物を利用する賃借人が建物と土地を利用する範囲で地主は土地を自由に利用できず、制限されていると考えられます。
そのため、貸家建付地の評価をするうえでも、制限されている点を考慮した評価額を算出する必要があります。
貸家建付地の評価額は以下の計算式で求められます。
貸家建付地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) |
借家権割合とは、相続税を計算する際に貸家建付地の評価する際に用いられる一定割合のことで、国税庁のホームページで確認することができます。全国一律30%となっています。
また、賃貸割合とは、相続税が課税されるタイミングで、実際に賃貸に供されている貸家の割合で、アパートやマンションでいうと空き家以外の賃貸中の部屋の割合といえます。
このとき賃貸割合は賃貸中の戸数を基準とするのではなく、専有面積(床面積)の割合で算出します。
例えば、30㎡の部屋が4つ、20㎡の部屋が4つあるマンション(全床面積200㎡)で、20㎡の部屋2つが空き家(空き家の床面積40㎡)の場合の賃貸割合は、80%(160/200㎡)となります。
これらを踏まえ、自用地評価額が2,000万円、借地権割合が60%、借家権割合が30%、賃貸割合が100%の場合の貸家建付地の相続税評価額を計算すると、
自用地評価額2,000万円×(1-60%×30%×100%)=1,640万円となります。
賃貸割合が高いほど貸家建付地の評価額は下がり節税につながります。
参照元:No.4614 貸家建付地の評価(国税庁)
貸家建付借地権の相続税評価額
貸家建付借地権は、地主から借りた土地上に建物を建て、他人に貸し出している場合の借地権です(図表8参照)。
貸家建付地と似ていますが、貸家建付地が土地上の建物を貸している場合の土地の評価(地主目線)であるのに対し、建家貸付借地権は借地上の建物を貸している場合の借地権の評価(借地人目線)である点で異なります。
図表8
建家貸付借地権では、借地人は地主から土地を借りていますが、土地上の建物を他人に賃貸している分、借地権が制限されていることになります。
こういった状況で借地人に相続が発生した場合、借地権が制限されている部分について相続税評価額が変わります。
貸家建付借地権の評価額は以下の計算式で求めることができます。
貸家建付借地権の評価額=自用地評価額×借地権割合×(1-借家権割合×賃貸割合) |
本来有する借地権の評価額から借家権割合と賃貸割合の分の評価額を下げることができます。
自用地評価額が2,000万円、借地権割合が60%、借家権割合が30%、賃貸割合が100%の場合の貸家建付借地権の相続税評価額を計算すると、
自用地評価額2,000万円×60%×(1-30%×100%)=840万円となります。
借地権割合から相続税評価額を計算するときの注意点
借地権割合や路線価から相続税評価額を計算するときの注意点について解説します。
計算ミスや確認ミスがないようにする
1つ目の注意点は相続税評価額の計算や確認ミスがないようにするという点です。
路線価、借地権割合とも国税庁のサイトで確認できますが、同じ地域でも路線によって当然評価が異なります。
また、路線価が指定されている地域と指定されていない倍率地域が混在している地域もあります。
間違えると相続税評価額は大きく変わりますので慎重に確認してください。
個人で計算するのが難しいときは専門家に頼る
2つ目の注意点は、個人で判断が難しい場合は専門家を活用することです。
専門的な知識やノウハウを持っている税理士であれば、正確に算出してくれるでしょう。
もし、相続に伴って不動産の売却を考える場合には、売却を依頼する不動産会社で税理士などの専門家を紹介してくれる場合もあります。
また、標準的な土地であればいいですが、土地形状や周辺の道路状況が特殊なものは、評価額の補正が必要となることがあります。
そのためには、土地の形状などを正確に把握することも必要ですので、専門家に依頼したほうがよいでしょう。
まとめ
相続が発生した場合に必要となる路線価、借地権割合の調べ方から相続税評価額の計算方法について解説しました。
- 借地権の相続税評価額=自用地評価額×借地権割合
- 底地の相続税評価額=自用地評価額×(1-借地権割合)
- 貸家建付地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
- 貸家建付借地権の評価額=自用地評価額×借地権割合×(1-借家権割合×賃貸割合
借地権は長期間の借地契約を前提とする権利ですので、契約期間中、借地人だけでなく土地所有者(地主)にも相続が発生する可能性があります。
また、借地権に活用される土地は、都心部や駅近くなど好立地のエリアも多く、土地や借地権の評価額も高くなりますので節税対策を考えることも必要です。
借地人、地主それぞれの立場は異なりますが、節税対策としてどういったことが考えられるか、ぜひ参考にして頂ければと思います。