不動産取引のなかで土地を借りる場合に「借地権」や「賃借権」あるいは「地上権」という言葉が使われます。
借地権が直接規定されている「借地借家法」と賃借権や地上権が規定されている「民法」は、借地借家法が民法の特別法という関係にあります。
つまり、借地借家法に規定されている内容は民法に優先して適用され、借地借家法に規定がないものは民法が適用されるという関係になります。
借地借家法は民法と異なり、特に立場の弱くなりがちな借地人の権利を保護することを目的として作られたもので、民法より優先して適用されます。
「借地権」「賃借権」あるいは「地上権」いずれも他人の土地を借りるという意味では共通していますが、使われ方や権利の性質は異なる点もあり、実際に土地を利用する場面でも違いが生じます。
この記事では、借地権、賃借権、地上権の違いについて、また、ほとんどの借地権は賃借権に基づくものとなっており、賃借権を設定するメリットデメリットについて解説します。
借地権・賃借権・地上権の違いとは?
借地権、賃借権、地上権はどのような権利か、それぞれの違いを踏まえ解説します。
借地権について
借地権は、建物の所有を目的として他人の土地を借りる権利です(借地借家法1条)。
借地権を設定するために、土地所有者(以下「地主」)と土地を借りる借地人との間で借地契約を結びますが、存続期間や契約更新の違いによって大きく普通借地権と定期借地権にわけられます(図表1参照)。
借地権の種類 | 存続期間 | 利用目的 | 契約の終了 | |
普通借地権 | 30年以上 | 用途制限なし | 契約の更新あり(更新を拒絶する正当事由が必要) | |
定期借地権 | 一般定期借地権 | 50年以上 | 用途制限なし | 期間満了 |
事業用定期借地権 | 10年以上50年未満 | 事業用の建物に限る | 期間満了 | |
建物譲渡特約付借地権 | 30年以上 | 用途制限なし | 建物譲渡によって終了 |
普通借地権と定期借地権は種類によって存続期間が違いますが、もっとも大きな違いは契約更新の有無です。
普通借地権が地主側に契約更新を拒絶する正当な事由がない限り更新ができるのに対し、定期借地権は契約で定めた存続期間満了で契約が終了します。
借地権は、長期間土地を借りることができる権利である一方、土地を所有する場合と異なり契約期間中にはさまざまな制約もあります。
契約内容にもよりますが、借地上の建物の大規模修繕や増築、建て替えなどには地主の承諾(承諾料)が必要となり、また借地上の建物を売却したり、他の第三者に賃貸したいとなった場合にも地主の承諾が必要です(民法612条)。
このような借地権には、賃貸借契約にもとづく賃借権と地上権設定契約にもとづく地上権があります。
賃借権について
賃借権は賃貸借契約に基づいて他人の土地を使用できる権利です(民法601条)。
賃借人(借地人)は土地を使用できる権利を得るとともに、賃借料(以下「地代」)を支払う義務を負います。
民法には「債権」と「物権」という2つの概念があり、「物権」が物を直接的かつ排他的に支配する権利であるのに対し、「債権」は特定の人が特定の人に特定の行為をすることを請求できる権利です。
つまり、債権は契約の相手方に対して、契約内容に基づく行為を求めることができるにとどまり、物を直接支配する物権より弱い権利といえます。
賃借権は債権の1つであり、契約の相手方である地主に対して、賃貸借契約の内容にもとづいて土地の使用を請求できる権利です。
そのため、借地権(賃借権)を譲渡するにも地主の承諾が必要となります(民法612条1項)。
地上権について
地上権は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利です(民法265条)。
地上権は賃借権と異なり、物を直接的・排他的に支配する物権の1つであり、賃借権と比べて強い権利となっています。
そのため、地上権にもとづく借地権を有する場合、譲渡、転貸するにも地主の承諾は必要ありませんし、建物の増改築も自由にできます。
ただし、地上権は借地人にとって強力な権利であるため、借地契約において活用されるケースは少なく、そのほとんどは賃貸借契約に基づく借地権となっています。
借地権(借地借家法) | 賃借権 (民法601条以下:債権) |
地上権(民法265条以下:物権) |
賃借権を設定するメリット
借地権を活用するにあたって、地上権ではなく、多くの場合賃貸借契約(賃借権)に基づいて設定されますが、賃借権を設定するメリットはどういった点が考えられるのでしょうか。
借地権を検討するうえで知っておきたいメリット・デメリットについて解説します。
価格が安く設定されている
借地権付きの建物は、所有権の建物と比べ価格が安く設定されており、購入資金を抑えられる点がメリットです。
土地が所有権である建物と比べ70〜80%の価格で購入することができますし、特に定期借地権の建物では残りの借地権の残存期間によっては、さらに購入価格を抑えることができるケースもあるでしょう。
また、借地権が設定されている土地は、地主が立地条件のよい土地を手放したくない場合も多く、借地としてのニーズが大きい好立地にあることが少なくありません。こういった交通・生活利便性が高いエリアで土地を購入しようとすると、それだけの購入資金を準備しなければなりません。
この点、借地権付きの建物等であれば、好立地のエリアでも予算を抑えながら購入できます。
更新すれば長期的に借りられる
借地権を設定する2つ目のメリットは、契約更新によって長期間土地を利用できる点です。
普通借地権の場合、契約期間が満了しても契約の更新が可能です(借地借家法4条以下)。借地人が契約の更新を希望する場合、地主側に契約更新を拒絶する正当な事由がない限り契約を更新することができます。
つまり、土地を所有していなくても、長期間土地を活用することで生活基盤を作ったり、事業活動を行うことができることは借地権のもっとも大きなメリットといえるでしょう。
ただし、契約更新には更新料が必要となるため事前に必要資金を検討しておく必要があります。
また、定期借地権は、地主側の立場に配慮した借地権であり、契約更新はされず期間満了で終了します。この際借地人は、建物を解体し土地を更地にしたうえで返還する必要があります。
賃借権を設定するデメリット
次に、賃借権で借地権を設定するデメリットについて紹介します。
毎月一定の賃料を支払う必要がある
借地権を設定するメリットとして購入資金を抑えられる点を紹介しましたが、一方で契約期間中、土地賃借料(地代)を支払う必要があります。
地代は、賃貸借契約時に地主に支払う権利金の額によって変わり、地価や近隣の相場などを参考にしながら、最終的には地主と借地人の合意のもと決まります。
ローンを活用して購入する場合、ローン返済以外に地代の支払いがランニングコストとして継続的に発生しますので、予め資金計画はしっかり考えておく必要があります。
また、借地借家法32条では、地代の増減額請求権を認めています。長期間に及ぶ契約期間中、経済状況等の変化によって地価や周辺の地代相場が変わる可能性があるためです。
そういった場合に、契約当事者間で実情からかけ離れた地代による不平等が生じないために、一定の基準のもと地代の増額あるいは減額請求が認められています。
そのため、経済状況によっては契約当初に定めた地代が高くなる可能性があります。
借地契約の期間は長期にわたりますので、地代を負担することで土地を購入するより経済的負担が大きいということも起こりえます。
地代以外にかかる契約期間中にかかる承諾料や更新料なども含め、長期の視点で考えることが大切です。
地主の承諾が必要なシーンが多い
2つ目のデメリットとして、さまざまな場面で「地主の承諾」が必要となる点です。賃借権はあくまでも賃貸借契約の内容の範囲内で土地を利用できる権利であり、地上権のように土地そのものを直接支配する権利ではありません。
この点、土地賃貸借契約では一般的に建物の増改築をする際に地主の承諾を必要とする「増改築禁止特約」を定めます。
増改築禁止特約は、借地上の建物を増改築することによって建物の耐用年数が長くなり、借地権の契約更新や借地契約終了時の建物買取請求(借地借家法13条)の買取り価格などで地主にとって不利になることから規定されるものです。
つまり、建物を増築したり、建て替えたりする場合に地主の承諾を得る必要があります。
また、何らかの状況の変化によって、建物とあわせて借地権を売却したいとなった場合にも、地主の承諾が必要となります。
賃貸借契約が契約当事者間の信頼関係をベースにする継続的な権利関係であることから、賃借人(借地人)が賃貸人(地主)の承諾なく、賃借権を譲渡したり、転貸することを禁止しています(民法612条)。
このように借地上に所有する建物を維持管理、処分するうえで地主の承諾が必要となりますが、状況によっては承諾が得られない場合や承諾料でなかなか合意できない場合も考えられます。
借地権は、地代の支払いが必要であるとはいえ、地主にとっても長期間土地の利用を制限されるという意味で大きな負担があります。
そういった点も踏まえながら、借地契約期間中、地主との良好な関係性を保っておくことが大切といえます。
売却するときに難しい場合がある
3つ目のデメリットとして、借地権の売却が難しい点が挙げられます。
借地契約を締結する際には、長期の土地利用を前提として契約しても、途中状況の変化により借地権を売却しなければならないということもあります。
この点、借地権付き建物を売却するには地主の承諾が必要ですが、地主の承諾が得られても売却自体が難しい場合があります。
ここまで解説したように、借地権には地代の負担や建物の利用や処分に地主の承諾を要するなどのデメリットがあります。
また、購入者の立場から考えると、購入を検討する際に住宅ローンの活用が一般の所有権の物件より難しいこともあります。
物件にもよりますが、売却したいとなった場合に売却できない可能性が一般の所有権の物件より高いことはデメリットといえます。
借地権の売却に難しさを感じる際には、借地権専門や特化の不動産会社に相談することがおすすめです。
賃借権と地上権は権利の強さが違う
賃借権と地上権の違いについて、借地契約において具体的にどういった違いがあるかについて解説します。
賃借権は地主の許可が必要
賃借権は土地賃貸借契約に基づく権利ですので、契約当事者である地主に対して契約内容に基づく権利と義務があります。
借地権が設定された土地を底地といいますが、底地の上に賃貸借契約に基づく借地権が設定されているイメージです(図2参照)。
つまり、借地人は土地を借地契約の範囲内で土地を利用できるだけであり、借地権の価値以外の部分は、地主の権利(所有権)は残っています。
そのため、借地権の譲渡をはじめ、建物の増改築についても地主の承諾が必要となります。
地上権は地主の承諾を得る必要がない
地上権は賃借権と異なり、借地権を譲渡、転貸するにも地主の承諾は必要ありません。物権である地上権は、土地を直接的・排他的に支配できる強い権利ですので、地主に対しても承諾が不要となっています。
また、地上権は地主に登記義務があるため、登記簿上に「地上権設定」と記載され地上権が設定されている土地であることがすぐに分かります。
さらに、賃借権に抵当権を設定することはできませんが、地上権は担保として抵当権を設定することもできます。
この点、賃借権の場合、借地権付きの建物に抵当権を設定することはできますが、地主の承諾が必要となります。
まとめ
借地権、賃借権、地上権の違いやメリット・デメリットについて解説しました。
借地権には、賃借権と地上権にもとづくものがありますが、その権利の性質上、土地を借りて建物を所有するにしても、建物の維持管理や処分について大きな違いがあることが分かって頂けたのではないでしょうか。
ただし、実際には地上権に基づく借地権は、その権利性の強さから利用されることは少なく、多くは賃借権に基づく借地権となっています。
賃借権に基づいて借地権を設定する場合にもメリット・デメリットがあります。
〇賃借権に基づく借地権のメリット
- 購入価格を抑えられる
- 立地が良い場所でも活用できる
- 長期間の土地利用ができる
〇賃借権に基づく借地権のデメリット
- 毎月賃料(地代)を支払う必要がある
- 建物の増改築や借地権の譲渡に地主の承諾が必要
- 売却するときに難しい場合がある
借地権は長期間の契約期間を前提として設定されますので、建物の増改築や譲渡だけでなく、借地人や地主に相続が発生する可能性もあります。
相続が発生することで地主と借地人の関係性が変わることもありますので、こういった点を踏まえ参考にして頂ければと思います。