借地権は、建物を所有するために他人の土地を借りる権利です。
借地権自体は、土地、建物のように実体はありませんが、売却や相続の対象となる財産的価値のある権利です。
ただ借地権は他人の土地を借りる権利ですので、売却するとなると通常の不動産とは方法や価格設定の仕方に違いがあります。
本記事では、借地権を売却するための方法、借地権の評価方法について解説します。
借地上に所有する建物の売却や、相続した借地権の処分を検討している方は参考にしてください。
借地権の売却方法
図1は借地権付き土地のイメージです。地主が所有する土地(底地といいます)上に借地人が借地権とともに建物を所有する権利関係となります。
借地権には賃借権と地上権と2種類あります。
地上権は、民法における物権といい第三者にも権利を主張できる強い権利で、売却や増改築するにも地主の承諾は必要がありません。
一方の賃借権は、賃貸借契約に基づき、地主に対して一定の権利を請求できる権利(債権)であり、売却、増改築等するにも地主の承諾が必要です(民法612条1項)。
借地権は、地上権のような強い権利の設定に地主が同意することは少なく、そのほとんどは賃貸借契約による賃借権になります。
これらを踏まえたうえで借地権を売却する5つの方法について解説します。
地主に交渉して売却する
借地権を第三者に売却するには地主の承諾が必要となります。
この承諾を得る際に、借地権の目的である土地(底地)を所有する地主に買い取ってもらうよう交渉することができます。
地主は借地権を買い取ることで、借地権を処分するとともに完全な所有権を手にできますので、状況やタイミングによっては地主にもメリットがあります。
ただし、地主は必ずしも買い取るわけではありませんので、買取価格を含めた交渉と状況次第といえます。
地主が将来の相続に備えて借地権の処分を考えている場合、契約更新時期などは、買い取りの交渉がしやすいタイミングといえるでしょう。
第三者に対して売却する
2つ目の方法は第三者に売却する方法です。
【第三者に売却する流れ】
- 借地権譲渡の承諾
- 不動産会社に依頼(媒介契約)
- 売却活動
- 売買契約締結
- 決済・引渡し(所有権移転登記)
売却相手が個人でも不動産会社でも、第三者に売却するには地主の承諾が必要です。
借地権の買い手が見つかっても地主の承諾がなければ売却することはできず、通常売却を承諾する条件として譲渡承諾料(名義書換料)が求められます。
譲渡承諾料は法的な根拠はなく、すべての借地権譲渡で必要とされるわけではありませんが、一般的、慣習的には借地権の譲渡をスムーズにすすめるために支払われています。
また、契約期間中に建物を建て替える場合、地主に建て替えの承諾料を払うのが一般的です。建て替え承諾料は、法律上の規定があるわけでなく、契約書に明記されている場合を除き地主との交渉、話し合いで決めることが通常です。
将来的に借地上の建物を売却するなどの予定がある場合は、建て替え承諾料の負担についても柔軟に対応しておくと売却がすすめやすいといえます。
このように借地権の売却では、通常の土地建物と異なる点が多くあるため、借地権売買の実績・経験豊富な不動産会社に依頼したほうがトラブルも少なくすすめることができるでしょう。
買取業者に売却する
3つ目の方法は、買取業者に売却する方法です。
一般的に、借地権付建物は地代や承諾料がかかる、土地利用に制限があるなどの点から、所有権の物件と比べると売却の難易度が上がり、なかなか買い手が見つからないこともあります。
こういった場合は買取業者に買い取ってもらうことを考える必要があります。
買取業者は、買い取った不動産にリフォームなどを施し、再販することを目的としています。借地権や底地、それ以外にも再建築不可物件など何らかの問題がある物件を含め、資金力とノウハウを活用してさまざまな物件を買い取ってくれます。
老朽化した古家など借地上の建物を解体するには地主の承諾が必要ですが、解体費用を買取業者の負担ですすめることができる場合もあります。
また、買い取りの場合、仲介手数料が不要であるとともに、現金決済、契約不適合責任の免責、状況によっては建物内の残置物をそのままで引渡しができることもあります。
地主との交渉がスムーズにいけば、一般の個人に売却する場合と比べ売却をスピーディーにすすめることができます。
底地権と一緒に売却する
4つ目の方法は、底地権と一緒に売却する方法です。
つまり、借地上の建物の売却だけでなく、地主が所有する土地も同時に売却をすすめる方法になります。
前述のとおり、借地権の第三者への売却は一般の物件より難しく、なかなか売れない場合もあります。
地主に売却する方法もありますが、地主には買取の義務はなく経済的にも状況的にも難しい場合があります。
また、買取業者への売却は、一般個人への売却と比べ売却価格は低くなってしまいます。
そこで、地主の合意のもと、底地と同時に借地権の売却をすすめるのがこの方法です。
この方法のメリットは、底地と同時に売却することで、買主は借地権ではなく完全な土地、建物の所有権を取得できますので、買い手もみつかりやすく高い売却価格が期待できる点です。
また、借地権を第三者に売却する場合、一般的に地主に譲渡承諾料を支払う必要がありますが、それが必要ない点もメリットといえます。
【底地権と同時に売却する手続き】
- 地主と借地人の間で同時に売却する意思を確認
- 不動産会社に売買仲介依頼(媒介契約)
- 販売活動
- 売買契約(買い主と地主・借地人間)
- 引渡し・所有権移転登記
- 賃貸借契約終了の覚書
売買契約の注意点として、契約書に「不可分一体の契約」の特約を入れる必要があります。
不可分一体の契約とは、売主である地主と借地人が買い主に対して連帯債務を負うことを意味し
売買契約後、地主もしくは借地人の債務不履行や契約解除などがあった場合、買い主は借地権あるいは底地のみという不完全な権利を取得することになります。
それを防ぐため、一方の契約が不成立となった場合は契約自体が無効となるこの特約を入れておきます。
また、売買契約の取引が完了すれば地主と借地人の借地契約(賃貸借契約)も終了しますので、その確認のため賃貸借契約終了の覚書を交わします。
等価交換で売却する
5つ目の方法は、等価交換により完全な所有権として売却する方法です。
不動産において「等価交換」は、土地と土地、土地と建物など同じ価値のものを交換することを意味します。
借地権の等価交換は、地主の底地権、借地人の借地権をそれぞれ分筆し、その一部分を等価値で交換する方法です(図2参照)。
等価交換により交換割合に応じた完全な所有権の土地になり、地主と借地人の権利関係は解消されます。
地主の同意は必要ですが、複雑な権利関係を解消でき、借地人、地主とも自由に土地を処分することができ土地の価値も上がります。
比較的土地の面積が広く、借地人が建物の建て替えを検討している場合などに検討しやすい方法です。
土地の面積は減りますが、借地人は借地権ではなく土地所有権として売却をすすめていけるため、買い主も融資が受けやすく、購入希望者がみつけやすくなります。
なお、交換後、借地上の建物が借地人と地主双方の敷地にまたがってしまうなど、建物の解体が必要な場合、解体費用は借地人の負担となることが一般的です。
【底地と借地権の等価交換の流れ】
- 借地人と地主間で等価交換について合意
- 底地、借地権それぞれの評価額を調べる
- 底地と借地権の交換割合を決める
- それぞれ分筆登記をする
- 不動産等価交換契約書を締結
- 所有権移転登記
なお、不動産を譲渡すると不動産譲渡税がかかりますが、等価交換では、固定資産である土地や建物を同じ種類の資産と交換したときは譲渡がなかったものとする特例(「固定資産の交換の特例」)の適用を受けることができ、譲渡所得税がかかりません。
引用:No3505借地権と底地を交換したとき
借地権の売却相場は?
では借地権を売却するときの価格はどのように決まるのでしょうか。売却価格の相場や価格を左右するポイントについて解説します。
借地権の売却相場は更地価格×借地権割合
借地権の価格には、借地権を売買するときの価格と相続税や贈与税の算出に用いられる借地権評価額があります。
税額を計算する借地権評価額は明確な計算方法が決められているのに対し、売買に用いる借地権価格はさまざまな要因によって変わります。
ここでは、借地権の売買時の価格について解説します。
借地権価格の価格相場は、更地価格と借地権割合で計算されます。
借地権価格=更地価格×借地権割合 |
借地権割合は、更地の評価額に対して借地権が占める割合です。
その土地の借地としての価値を示す指標といえ、土地の賃貸需要が高い都心部や繁華街などの借地権割合は高くなります。
ですので、地方や郊外の賃貸ニーズが少ない土地では借地権割合も低く、更地価格の半分以下になるケースもあります。
借地権割合は、国税庁の路線価図・評価倍率表で確認でき、場所によって7段階に分けて指定されています(図表3)。
記号 | 借地権割合 |
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
借地権割合の指定がない地域は、借地権の取引慣行がない地域として、一般的に20%として算出します。
借地権の売却価格が決まるポイント
借地権の売買価格は、税額算出のための土地評価額とは異なり一律に決まるものではありません。
権利関係が複雑な借地権売買においては、土地利用に関するさまざまな条件が総合的に判断して決められます。
- 地代の有無・金額
- 更新料の有無・金額
- 建替承諾料の価格
- 建物の築年数
- 土地の立地
- 地主との関係性
- 抵当権が設定されているか
こういった要素を総合的に判断して売買価格を決めていきます。
地代や更新料、承諾料などが高いほど購入希望者は現れにくくなりますし、建物の築年が経過しているほど借地権価格は低くなります。
また、借地権を高く売却するためには地主の協力が不可欠ですので、契約期間中も関係性を大切しておきましょう。
事前に見積もりを取得しておく
借地権をできるだけ高く売却するには、複数の不動産会社に査定を依頼し相場を把握することが大切です。
借地権の価格はさまざまな条件を考慮して判断することから、会社によって評価が分かれることもあり、1社の見積もりだけでは適正な売却価格が分からない可能性があります、
1社の査定結果に依存するのではなく、複数の不動産会社の査定価格、算出根拠を比較し、売却価格を判断することが大切です。
また、借地権売買は、地主との交渉を含め経験や実績がある、借地権に精通する不動産会社に依頼しないと失敗する可能性があります。
複数の不動産会社に査定を依頼し会社や担当者を比較することで、より高い価格で売却してくれる不動産会社を選びやすくなります。
借地権の売却でよくある疑問
最後に、借地権の売却でよくある疑問をいくつかピックアップしました。
借地権付き建物は相続できるのか?
借地権付き建物を相続することはできます。
借地権を相続により取得する場合、地主の承諾は必要ありません。
相続人は、賃借料(地代)や賃貸借契約期間をそのまま引き継ぐことになります。
一方、生前贈与や遺贈によって借地権を取得する場合は、地主の承諾、譲渡承諾料は必要となります。
借地人が地主の底地権を買い取ることは可能?
借地人が地主の所有する底地を買い取ることは可能です。
状況に応じて借地権の付いた土地を手放したい、相続を考えて整理したいと考える地主もいますので、買取の提案が地主のメリットとなることもあります。
地主から借地権売却の承諾がもらえないときは?
これまでの説明の通り、借地権を第三者に売却するには地主の承諾が必要であり、承諾なく売却したとき地主は契約を解除することができます(民法612条1項・2項)。
では地主から借地権の譲渡の承諾をもらえない場合はどうするか。
借地借家法19条では「第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないときは、裁判所は借地人の申し立てにより地主の承諾に代わる許可を与えることができる」としています。
借地人は、この手続きを利用することで地主の承諾が得られない場合でも売却できることがあります。
まとめ
借地権の売却方法、売却相場について解説しました。
借地権をより確実により高く売却するポイントは、地主との関係性を良好に保つこと、不動産会社選びに失敗しないことといえます。
借地権の売却方法として5つ紹介しました
- 地代の有無・金額
- 更新料の有無・金額
- 建替承諾料の価格
- 建物の築年数
- 土地の立地
- 地主との関係性
- 抵当権が設定されているか
いずれも地主の承諾もしくは協力が必要となります。
ですので、借地権を売却するには契約期間中から地主と良好な関係を築いておくことが大切です。
また、借地権の価格設定や売却手続きは、一般的な所有権の不動産売買と比べると難易度も高く、交渉も必要となります。
借地権売却を依頼する不動産会社や買取先の不動産会社の選定は重要であり、経験と実績が豊富でしっかりと動いてくれる不動産会社をまず探しましょう。