建物が建っている土地は、建物と同じ所有者ではなく地主から借りて使用しているケースがありますが、このときの土地を使用する権利を借地権といいます。
借地権には「地上権」と「賃借権」の2つがあり、成立要件や地主との関係および費用や活用方法など、異なる点が多数あります。不動産の権利は、当事者以外にも適法に権利を主張できなければ揉め事の原因になる場合があるため、要件や違いを理解しておく必要があるでしょう。
この記事では、借地権とそのなかの地上権や賃借権の違いや注意点、またそれぞれが適法に成立する要件や現代の活用例などを解説します。
借地権と地上権とは?
借地権には「地上権」と「賃借権」の2つがありますが、いずれも建物を所有する目的で土地を借りて使用する権利です。それぞれの意味や違いについて解説します。
借地権は建物の所有を目的とした権利
借地権とは、土地の上に建物を所有することを目的に地主(土地の所有者)から土地を借りる権利です。
つまり、駐車場にするために借りる土地など、建物を所有しない場合の権利は借地権とはいいません。なお、借地権は「地上権」と「賃借権」の2つに分かれます。
土地を借りる際には、地主と借地人とで契約を結びます。
契約は、民法上は当事者間の意思を口頭で確認し合うだけでも有効に成立しますが、実務上は契約条件その他の決め事を記載した契約書を作成します。そして、両者が記名押印をした契約書をそれぞれが手元に保管し、後日の紛争を予防するのが一般的です。
地上権は他人の土地を使う権利の一種
地上権者とは、他人の土地において工作物(建物などの人工物)または竹木(竹や樹木など)を所有するためにその土地を使用する権利です(民法第265条第1項)。
地上権は、その土地(物)を直接的に支配して誰に対してもその存在を主張できる強い権利(物権)であり、地主の承諾がなくても地上権者の単独の意思だけで地上権の譲渡や転貸および担保設定ができます。また、借地上の建物を地主の承諾なしに売却できます。
地上権は、主に橋梁・高圧線・高速道路・太陽光発電パネル・トンネル・地下鉄などの工作物が上または下を通過する土地に設定されますが、実際に地上権が設定されているケースはそう多くありません。
他方、賃借権とは権利者が義務者(人)に対して行動を促す請求権(債権)であり、その存在は契約当事者間でしか主張できません。
また、債権の譲渡や転貸(又貸し)は権利者からの「通知」もしくは義務者の「承諾」がなければ第三者に対して主張できません(民法第612条)。
一般的な土地の賃貸借契約の多くは債権としての借地権であり、賃借人の地位の譲渡や転貸をするには必ず賃貸人の許可が必要です。
借地権に含まれる地上権と賃借権の違いは?
「地上権」と「賃借権」の違いは、存続期間・地代の有無・地主の承諾・登記の有無などです。
それぞれの違いについて解説しますので、参考にしてみてください。
地上権と賃借権の特徴的な違いは、次の図表1をご参照ください。
借地権 | ||
地上権 | 賃借権 | |
権利の種類 | 物権(物を直接支配する) | 債権(人の行動を請求する) |
存続期間 | 30年以上 | 上限50年但し、建物所有が目的の場合<普通借地権>・30年以上 <定期借地権>・一般定期借地権:50年以上・事業用定期借地権:10年以上50年未満・建物譲渡特約付借地権:30年以上 |
登記義務の有無 | 義務ではないが第三者への対抗要件になるため、登記すべき | 契約書にて当事者や契約内容が明らかなため、登記は不要 |
担保設定の可否 | 地主の許可なく設定可能 | 設定はできるが、金融機関からの要請で地主の承諾を得ることが必要となる |
地主の承諾 | 地上権の譲渡や転貸に地主の承諾は不要 | 賃借権の譲渡や転貸に地主の承諾は必要 |
金銭の授受 | 初回に補償金の授受があるケースが多い | 地代を毎月支払う |
地上権と賃借権のそれぞれについて、さらに詳しく解説します。
存続期間の違い
賃借権の存続期間および更新期間は、50年が上限です。
この上限は「強行規定(当事者の意思にかかわらず強制的に適用される規定)」であり、従前の存続期間や更新期間が50年を越えていても、次回の更新時には上限50年に引き直されます。
但し、建物を所有する目的で土地を賃借する場合には借地借家法が優先適用されるため、下記の存続期間になります。
<普通借地権>
- 30年以上
<定期借地権>
- 一般定期借地権:50年以上
- 事業用定期借地権:10年以上50年未満
- 建物譲渡特約付借地権:30年以上
一方で、地上権の存続期間については民法に規定はなく、契約期間についてはとくに制限なく設定できます。
建物の所有を目的とする地上権については民法よりも優先して借地借家法が適用されるため、存続期間は30年よりも長くなります。
地代の有無について
地上権は、地上権者が地主に対する金銭の支払いが法律で義務付けられている訳ではありませんが、高速道路や高圧線などを設置するにあたって地上権を設定する場合には、地上権者が地主へ補償金などの一時金を支払う商慣習があります。
賃借権は、土地を無償で貸す「使用貸借」を除き、金銭の授受をともなう「賃貸借」の場合には、賃借人は賃貸人(地主)に対し賃貸借契約によって合意した賃料を指定期日・指定方法で支払います。
地主の承諾について
地上権者は地主の承諾を得なくても地上権を第三者に譲渡もしくは転貸ができます。
一方、土地の賃貸借では地主(賃貸人)の承諾がない限り、賃借権の譲渡や転貸はできません(民法第612条)。
しかし、地主の承諾が要らない地上権の譲渡なども、事前準備や契約手続きにおいて地主の協力を仰ぐことが多々あります。
そのため、地上権の移行手続きの成立要件ではないものの、手続きをスムーズに進めるためには事前に地主へ説明をしておくほうがよい場合もあります。
借地権の家の増改築や建て替えなどで地主から承諾を得る場合には、その地域の商慣習に習い承諾料をおさめる場合が少なくありません。
承諾料の金額は土地の流通相場価格の数%など地域・時期・状況などにより変動しますが、安心取引のためにもその地域や借地権に詳しい不動産会社に相談するのがよいでしょう。
登記の有無について
地上権も賃借権も登記することができます。
いずれも登記は義務ではないものの、地上権に関しては登記がなくとも成立しますが、第三者に地上権を確実に主張するためには登記しておく必要があります。地上権はすべての人に対する権利(物権)であり、物権の変遷や内容は公示しないと第三者に対抗できない(公示の原則)からです。
さらに、物権についての第三者対抗要件は下記のとおりです。
- 不動産に関する権利変動は「登記」
- 動産に関する物権譲渡は「引渡し」
なお、地上権の登記は、相続登記のように一定期間内に登記しなければペナルティを課せられるなどはありません。しかし、登記によって地上権を明示しておけば、当事者間および第三者との紛争の予防効果が高いため、登記をしておくことは将来にわたって揉め事を避ける意味でも重要だといえます。
※2024年(令和6年)4月1日から相続登記申請の義務化が決定しています。
地上権が認められるケースは少ない?
地上権は地主に不利なケースがあるため、実際に活用されるケースはあまりありません。
土地を立体的に活用する際の「区分地上権」と、社会的損失を避けて土地・建物の活用を促進する「法定地上権」について解説します。
地主にとって不利になるため認められないケースが多い
地上権は、物に対する直接的で強い支配権です。
地上権の譲渡・転貸・担保などの変動に関しては地主の承諾が不要とされるため、地上権の存在自体が地主にとって不利な条件になる可能性があるのです。
比較の一例として、住宅ローンで資金を調達して購入した家は、ローンの返済ができなくなった場合でも家を競売して貸付金が回収できるように、金融機関が家や土地に抵当権を設定します。
その家が地上権に基づく場合には、抵当権の設定に地主の承諾は不要です。
それに対し、その家が賃借権に基づく場合は借地権への抵当権設定には地主の許可が必要です。
借地人が住宅ローンを払えなければ土地の利用権が競売によって誰かの手に渡る恐れがあるため、賃借権の担保設定に応じてくれる地主はほとんどいないでしょう。
一方で、その家は自分のものですから単独の意思で抵当権の設定ができるうえに、建物の登記があれば借地権の登記をしていなくても、売買によって建物の所有者が変わった場合でも借地権の存在を第三者に主張できます(借地借家法10条第1項)。
ちなみに、地上権は「区分地上権」と「法定地上権」の2つに分かれます。それぞれについて以下で解説します。
区分地上権
「区分地上権」とは、土地を立体的に活用するのを目的として、地上や地下の空間の一定の範囲に対して設定される地上権です。
例えば、鉄道の高架や、地下鉄など土地の上空や地下を利用するために地上権を設定する場合はこの区分地上権に該当します。区分地上権の設定条件は、高圧線なら地上から地上何mまでの空間を使用できるという内容になります。
ちなみに、大都市圏の浅い地下部分は地下鉄や地下街などがすでに設置済みです。そこで、地下空間の有効活用を目的として、2000年(平成12年)に「大深度地下使用法(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)」が制定されました。
以前は、地価の高い大都市圏での地下鉄建設では莫大な地上権設定料が当たり前でした。そのため、地下鉄や高速道路は公道の下などの限られた場所しか敷設できないなど、予算・設計・工期などの弊害があったのです。
「大深度地下」とは、通常では利用されないほどの非常に深い地下部分のことです(大深度地下とは:国土交通省)。地下40mより深いもしくは地上の建物の基礎を支える地盤から10mより深い地下空間を指しています。仮に1階の階高を4mとすれば、実に地下10階よりも深い部分ということになります。
この定めがある地域なら、深度条件を満たせば土地の所有者殻の承諾は不要であるため、補償などの支出もなく利用できるようになりました。
法定地上権
「法定地上権」とは、競売によって建物の所有者と土地の所有者が異なってしまった場合でも、一定要件を満たせば建物所有者に地上権(土地の使用権)の存在が推定されるものです。
民法によって自動的に地上権を認めることで、むだに建物が解体撤去されずに存続する状況をつくり、社会的損失を避けようという目的があります。
<法定地上権の4つの成立要件>
- 抵当権設定時には土地の上に建物が建っていた
- 抵当権設定時に土地と建物の所有者が同じだった
- 土地と建物の片方もしくは双方に抵当権が設定されていた
- 競売によって土地と建物が別の所有者になった
<土地と建物に抵当権が設定されていて、競売で建物だけが売れた場合>
この場合の競落人には建物を購入しても土地を利用する権利がないため、建物を競落しても使えません(社会経済上の不利益)。
そのため、この場合には法律で競落人に土地の利用権が付与されます。
<土地に抵当権が設定されたあとに建物が建ち、競売で建物だけが売れた場合>
土地の所有者がローンを滞納して土地を競売された場合にも、その建物には法定地上権が成立しません。
つまり、建物所有者は土地の競落人(競売で土地を買った新所有者)に対して、有効な地上権を持たないままで建物を所有していることになります。
この場合に、土地の競落人は建物所有者に対して建物の解体・撤去を求めることになるでしょう。しかし、土地を競売に掛けられる建物所有者ですから、解体撤去費用を用意できないケースがほとんどです。そのため、法定地上権が成立しない建物を土地と一括で競売し、債権者は売却代金を優先して土地の債務に充てることができようになったのです(民法第389条)
地上権や賃借権をよく知ってトラブルを未然に防ぎましょう
借地権とは、土地の上に建物を所有することを目的に地主から土地を借りて使用する権利で、「地上権」と「賃借権」があります。
地上権は大きな人工物が通る土地に対して設定するなど目にする機会は多くありませんが、賃借権はロードサイドの大型店が土地を借りて事業をおこなう際に利用します。
地上権についてすみずみまで詳しく知る必要はありません。
しかし、区分地上権として特定のエリアで建物の高層化が緩和される「空中権」や地下鉄やゲリラ豪雨に備える地下放水路に利用される「大深度地下」は、地上権の新たな活用法として知っておくとよいでしょう。