借地に家を建てて住んでいるものの、借地の賃貸借契約期間が満了した場合には家や庭はどうすればよいのか、具体的に理解している方はそれほど多くありません。
原則として、借地は返還時に建物やその他の工作物を解体し更地の状態で地主へ返還しなければなりません。
建物の解体は誰に頼んで費用はいくらかかるのか、建物を解体しないで誰かに売れないものかなど、疑問をもつ方は多いはずです。
この記事では、借地を地主へ返還する際の更地化と付属する登記手続き、解体費用の相場や見積もり内容に関する注意点などについて解説します。
借地権の返還方法
借地契約が満了する際には、単に借地を返還するだけでなく下記の手続きができないか検討しましょう。
- 更地に戻して返還
- 建物買取請求を行う
- 借地権を第三者に買い取ってもらう
- 地主に借地権を買い取ってもらう
上記それぞれについて解説します。
更地に戻して返還
借地は、土地の賃貸借契約が満了して土地を返還する際には、原則として借地上の建物を解体して更地に戻さなければなりません。
ほとんどの場合に、土地の賃貸借契約書には「賃借人は土地を原状に復して返還する」という文言があるはずです。
なお「原状に復す」とは土地の賃貸借契約が開始した時点(更地)に戻すことです。つまり、借地人が設置した建物や工作物は、全て解体撤去および適切な手続きが済んでいる状況を意味します。
その際には、借地人が建物の解体費用などを全額負担することになるので、事前にその点を理解しておきましょう。
建物買取請求を行う
「建物買取請求」とは、土地を借り受けたあとで借地人が土地上に設置した建物を、地主に買い取ってもらうよう求めることです。
法的には「借地権の存続期間が満了して契約の更新がないときは、借地人から地主に対し、建物その他借地権者が自己の負担で土地に設置した物を時価で買い取るよう請求できる」(借地借家法第134条)とあります。
地主に建物を買い取ってもらえるなら建物を解体する必要がなくなるため、解体の手間や費用を負担せずに済み、なおかつ売却金が手元に残ります。
この建物買い取り請求権は、借地人が請求すれば地主の同意は不要であり、反対に地主が建物の買取を拒否することもできない「形成権」です。
なお、形成権とは権利者の一方的な意思表示だけで、一定の法律効果を発生もしくは消滅させられる権利を意味します。
ただし、借地人が地代を滞納したことによって借地契約が解除された場合に、借地人の権利を保護する必要はないと判断し、建物買取請求権が否定された判例(債務不履行による土地賃貸借契約解除と建物等買取請求権の有無|最判昭和35年2月9日民集14巻1号108頁)が過去にあります。
借地権を第三者に買い取ってもらう
借地権には一定の価値があるため借地権は売買や相続ができ、借地権の売却では地価の数十パーセントの売値になる場合があります。
そのため、借地契約の期間満了後に地主に建物を買い取ってもらうだけではなく、借地契約期間内に第三者へ売却するという選択肢も検討できるのです。
ただし、借地権及び借地上の建物を売却するには地主の承諾が必要であり、その際には地主へ承諾料として借地権売却金額の10%程度を支払うのが一般的です。
地主に借地権を買い取ってもらう
借地権および借地上建物を任意で売却する相手は、第三者だけではなく地主も含まれます。
借地権は、第三者にとっては土地を賃借して使用できる権利となりますが、一方で、地主が借地権を買い取れば土地を完全に自由に使えるようになるため、制約のない完全な所有権が手に入ることになります。
もしも、借地契約を更新せず早く土地の返還を願う地主なら大きなメリットになり、借地権の売却価格は第三者よりも地主のほうが高値になる場合が少なくありません。
ただし、全ての地主が安定した地代収入を捨てて土地の返還を受けたいと願っているわけではありません。地主への借地権売却は、地主から打診された場合でなければ買い取ってもらえる可能性は低いといえるでしょう。
借地権を返還する際の流れ
借地権の返還では、まず土地の賃貸借契約書を読んで解約に関するルールを確認しましょう。
借地契約を締結したのが1992年8月1日よりも前なら「旧借地法」、それ以降は「借地借家法」に基づいた契約になっています。
2つの借地法では借地契約の終了や更新について大きな違いがあるため、まずは土地賃貸借契約の締結時期を確認することが大切です。
地主と借地人が合意した特約のなかに、借地法の原則とは異なる特殊な条項がないかも併せて確認しておきましょう。
地主に交渉する
借地を返還するつもりなら、今回の借地契約期間の満了をもって借地契約の更新をしない旨を地主へ書面で宣言します。
いつ頃までに、どのようなスケジュールで返還するつもりなのか、おおまかな予定だけでも先に伝えると、地主側の考えもまとまりやすいため好ましいでしょう。
反対に、急に確定事項として伝えた場合に、事前相談もなく単独で決定して事後報告されると、不快感を抱く地主もいる点には注意しましょう。
ただし、建物解体の一択で伝えると、建物買取・再利用に関して地主側が考慮する時間がなくなり、解体費を抑えて建物の現金化ができるなど借地人側のチャンスもなくなります。地主が建物を買い取る場合に借地人側には下記のメリットがあります。
- 解体費用を削減して建物や設備が現金化できる
- 事業がある場合に返還期日ギリギリまで商売できる
- 什器備品の処分が不要でそれらも買い取ってもらえる
解体業者に工事を依頼する
借地を更地にするには、建物やその他の工作物を解体して廃材の撤去(搬出・運搬・処分)および整地をしなければなりません。これら全てを個人でするのは難しいため、更地化は解体業者に依頼するのが一般的です。
更地化は、解体業者から見積もりをとって打ち合わせをしてから作業に入りますが、建物の規模や現地の状況によっては作業が完全に終了するまでに数カ月を要することも珍しくありません。
作業が借地契約期間の満了日を過ぎてしまわないように、あらかじめ余裕をもったスケジュールを立てて計画的に進める必要があります。
また、解体費用の見積もり金額は解体業者によって異なるため、更地化の費用を安く抑えるためには、面倒でも複数社から見積もりを取って比較することが大切です。そして、対応がよくて価格が安く解体実績が豊富な業者を選んで依頼しましょう。
解体業者の選定以外にも、更地化の費用を安く抑える方法として下記があります。
- 自治体の補助金・助成金を申請する
- 不要品は自分で処分して残置物を減らす
それぞれについて解説します。
自治体の補助金・助成金を申請する
多くの自治体では、建物の解体に関する補助金や助成金の予算があります。ただし、自治体の年度予算には上限があるため、受給資格はおおむね自治体の予算内での先着順です。
また、受給できる条件や1件の申請に対する受給上限金額が決まっており、解体工事着手前の申請が要件になっている場合があります。
そのため、建物を解体する予定なら早めに役所の窓口へ行き、申請順位の保全や受給条件の相談をしておきましょう。
不要品は自分で処分して残置物を減らす
機材・家電・家具などは、リサイクルショップや中古販売サイトでの売却およびゴミ処理場への持ち込みを推奨します。
売却金が得られるだけでなく、解体業者側の処分量を減らして解体費用総額が抑えられます。
借地を返還する
借地の返還は、地主に対する義務としては建物その他の工作物を撤去して整地し、更地にして返還すれば足ります。しかし、建物を解体したあとに「建物滅失登記」をしておかなければ、次にその土地の上に建物を建てる方の建築許可が下りないため注意が必要です。
建物滅失登記とは、建物を解体したあとで建物が滅失していることを証明する登記で、一般的には土地家屋調査士に有償で依頼します。
建物の新築や増築によって法務局内には新たな建物登記簿が作成されますが、建物滅失登記はその登記簿を閉鎖する手続きです。
なお、この登記は不動産登記法によって、建物の解体後1カ月以内に行うよう定められています。
仮に、建物を解体して建物が建っていないのに建物滅失登記をしていない場合には、10万円以下の過料に処される場合があります。
法務局と自治体の課税システムが連動しているため、建物滅失登記をしなければ建物に対する固定資産税および都市計画税は引き続き請求されてしまうのです。
借地権を返還する際の解体費用
解体・更地工事では、以下の要素の有無や程度で費用が変わります。
- 土地面積や建物の延床面積
- 建物の構造(木・鉄骨・鉄筋コンクリートなど)
- 大型の解体重機やダンプカーが侵入できる場所かどうか
- 解体業者が考える作業人数・作業日数など
- 付帯作業の有無(防音・防塵・アスベスト養生・汚染土壌入替・埋蔵物撤去など)
上記のうち、建物の構造や依頼する解体業者による価格差について解説します。
建物の構造によって費用が異なる
解体や整地などの更地化費用は、比較のために少なくとも解体業者2〜3社から取得します。そして見積もり内容の説明を受けて、各社が想定する作業内容や難易度やリスクなどを把握しましょう。
解体する建物の構造による単価の違いは下表をご参照ください。
解体費用の構造による相場単価
木造 | 坪単価:3〜4万円 |
鉄骨造 | 坪単価:4〜6万円 |
鉄筋コンクリート造 | 坪単価:6〜8万円 |
ただし、解体費用は上記に加え、廃棄物の処理費用や現場への重機の侵入経路・特殊な養生の必要性・土地の高低差など、構造以外の事情によって費用が大きく跳ね上がる場合があるため注意が必要です。
また、近隣でクレームがあれば作業時間を1日数時間に限定したり、使用する重機を静かなものにするか重機を使わない仕様に変更したりしなければならず、想定よりも工期が延びる場合もあります。
近年の傾向として解体費用は少しずつ上がってきていますが、その要因としては下記が考えられます。
- 人件費増額(人手不足や最低賃金の底上げなど)
- 原油価格の高騰(紛争や景気など国際情勢の変化)
- 大気汚染防止法の改正の影響(排ガスやアスベスト)
- 近隣対策費の増額(近隣クレームの増加)
依頼する業者によっても費用が異なる
解体業者によっては、見積もり金額に数十万円もの開きがでることも珍しくありませんが、その差異はおもに下記が原因です。
- 単に業者ごとの作業単価に高いか安いかの違いがある
- 見積もり必要最低限の想定であとから追加費用がかかる
- 想定する工期や人員にあらかじめ余裕をもたせてある
- 解体業者が重機を所有しておらずレンタル費用が高い
- クレーム予防のために近隣対策や養生を徹底している
- 植木やブロック塀や花壇などの撤去処分を含んでいる
見積もり内容で注意すべきは、見積もり範囲が建物などの解体費用のみで、養生費・樹木抜根費・廃材撤去費・近隣対策費などを含んでいない場合です。
1社の見積もりだけでは更地化にどのような作業が必要なのかなどの全体像が把握しづらいため、複数社の見積もりをとって確認する必要があるのです。
借地返還時の更地化は原則必要なので相見積もりなどで上手に費用を抑えよう
「借地の返還」では、更地に戻す以外にも地主への建物買取請求や第三者への敷地権売却などを検討する余地があります。
ただし、第三者への売却は地主の承諾が必須であり、地主への承諾料を要する場合を想定しておくべきです。
借地返還の手続きは、まず地主へ更新しない旨を書面で通知して買取などの検討したのちに、解体で決定なら解体業者の手配をします。
解体費用を安く抑えるには、相見積もりをとり、自治体の補助金・助成金を利用して、廃棄やリサイクルは極力自分で行いましょう。
なお、借地権の第三者への売却や地主との交渉を誰かに依頼するなら、借地権取引の実績が豊富な不動産会社や専門業者に依頼するほうがよいでしょう。