借地権に基づく土地の賃貸借契約を締結する際に、借地人から地主へ権利金を支払わない条件の契約内容になっている場合があります。そのような場合には、権利金が免除された分は地主から借地人へ贈与が行われたと見なされ、借地人側に認定課税が課されることがあります。
ただし、認定課税されるかどうかは権利金の有無だけではなく、地主や借地人が個人か法人か、または一定の届出を行っているかなど総合的な判断が大切です。
当記事では、「認定課税」の概要や贈与と見なされる理由、また認定課税が行われない条件や基準金額などを解説しています。
借地権の認定課税とは?
借地権の認定課税とはどのような課税制度で、何に対してどのような理由で課税されるのかについて解説します。
権利金に相当する金額の贈与があったと見なされるときに課税
「認定課税」とは、通常ならあるはずの金銭授受がないために何らかの利益(贈与や所得など)を得たと見なされる側に対して、その金額に相当する贈与税や所得税などを課税する制度です。
借地契約を締結する際に、通常ならあるはずの「権利金の授受がない」場合や、権利金額が「その地域の標準的な金額よりもはるかに少額」の場合に、借地人が贈与を受けたものとして贈与税が課税されます。
ここでまず、借地に関して授受される権利金その他の給付金について解説します。
建物を所有する目的で土地を長期間借りる場合には、土地の賃貸借契約を締結しますが、その際の敷金や礼金などは、地域の商慣習にしたがって決定します。借地契約では、次の図表1のような金銭を授受するのが一般的です。
保証金(敷金) | ・借地人が地主へ無利息で預けているお金で、解約時に精算金がなければ同額が返金される・目的は、地代の滞納やその他に借地人から地主へ支払うべきものがある場合に備えるためのもの |
権利金(礼金) | ・借地人が地主へ契約締結時のみ支払うお金・借地人が土地を貸してくれる地主へのお礼として古くからある商慣習・権利金の相場は地域によるが、更地価格の30〜90%が一般的 |
承諾料 | ・借地人が地主へ承諾を求める際に支払うお金・借地上建物および借地権の譲渡(贈与や売却)、ローンで建物を購入する際の建物への抵当権設定、その他 |
更新料 | ・借地契約の契約期間を更新する際の礼金・建物で3年以下・土地で5年以下などの期間が決まった短期賃貸借では、地域によって更新料がない場合もあるが、長期間土地を占有されてしまう借地契約では更新料が設定されていることが多い |
立退料 | ・期限のない借地契約は、借地人が継続使用する意思がある限り半永久的に借りられる権利といえる・地主が土地の返還を望む場合に借地人から借地権を買い取ることがあるが、これを一般的に立退料という |
上記いずれの金額もその土地がある地域ごとの標準的な金額にならって設定されますが、最終的な金額は地主と借地人との合意で決まります。
敷金や礼金は、土地の借り手を急いで探している場合などでは、一時的に少額に設定して借りやすい条件で募集することもあります。
借地権を設定してもらう対価に権利金の収受を行う
借地契約における権利金とは、地主に借地権を設定してもらい土地が借りられる感謝のお礼であるとともに、土地が長期間使用されていつ返還されるか分からない地主のデメリットを補うための対価だと解されています。
権利金の金額は、下記の式を基準とする場合が一般的です。
権利金の金額 = 土地の更地価額 × 土地の借地権割合 |
このときの「借地権割合」とは、国税庁の路線価図のなかで示される公的指数の一部です。この路線価のおもな目的は土地価格の評価のためであり、相続税や贈与税などを算定する場合に用いられます。
路線価は、毎年7月1日に国税庁が発表する指数で、公示地価(国土交通省)・基準地価(都道府県)・固定資産税評価額(自治体)などと並ぶ公的指数のひとつです。
路線価による土地の評価額は、土地が実際に売買される実勢価格ではなく、実勢価格相当とされる公示地価の約80%を基準にしています。そのため、不動産会社が土地の売却査定を行う際に、実勢価格を裏付ける公的データとして路線価を参照するのが一般的です。
なお、路線価は「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」というサイトに日本全国の路線価データが掲載されており、パソコン・スマートフォン・タブレットなどの端末とインターネット環境があれば、誰でもいつでも無料で閲覧できます。
以下の図表2にある路線価が表すものは土地評価額を求める際の1平米あたりの土地単価で、土地に面する道路ごとに1,000円単位で記載されています。
引用:上連雀3の「57045」/ 財産評価基準書 路線価図・評価倍率表|国税庁
路線価図に表記された数値が「360D」なら1平米あたり360 × 1,000円、つまり路線価の単価は36万円/平米です。
そして、記号Dは以下の図表3を参照し60%になるため、その土地が所有権ではなく借地権の場合には、土地単価が60%(上記例なら路線価の単価は21.6万円/平米)になるという意味です。
権利金の金額に戻りますと、土地の更地価格にこの借地権割合を乗じたものを権利金額の基準とします。
例えば、更地価格が3,000万円で借地権記号がDなら、権利金額の基準は更地金額の60%の1,800万円です。
借地権の認定課税がなされるケース
借地契約において、通常あるべき給付が基準よりも少額もしくは免除された場合には、どのケースも贈与税の認定課税がなされるわけではありません。
借地権の認定課税は以下の図表4にあるとおりですが、地主および借地人それぞれの事情も充分考慮して判断します。ただし、地主および借地人が法人もしくは個人などにより給付の事情が異なるため、状況に応じた認定課税の判断基準について解説します。
借地人 | |||
---|---|---|---|
個人 | 法人 | ||
地主 | 個人 | 地主 :なし借地人:認定課税 | 地主 :なし借地人:認定課税 |
法人 | 地主 :認定課税借地人:認定課税 | 地主 :認定課税借地人:認定課税 |
それぞれの場合について以下で解説します。
地主が個人のケース
地主が個人の場合に、借地人との関係が親密であれば権利金をもらわずに土地を貸すことはよくあります。
地主が個人のケースで「地主側」が認定課税されることはありません。
その理由は、個人の場合には法人とは異なり、必ずしも経済的な利害だけで行動するわけではなく、親密な相手に完全なる無償で財産や使役を提供することが多々あるからです。しかし、借地人側については個人・法人のいずれであっても認定課税されます。
地主が個人、借地人も個人の場合
借地人は、地主へ支払わなかった権利金分だけ贈与を受けたとして認定課税を受け、権利金相当額に対して贈与税が課されます。
地主が個人、借地人が法人の場合
借地人は、地主へ支払わなかった権利金分だけ贈与を受けたとして認定課税を受け、権利金相当額に対して法人税(所得税)が課されます。
地主が法人のケース
地主が法人の場合には、地主側に法人税の認定課税がかかります。
その理由の前提として、法人は利益を追求するために存在する法人格であり、経済的合理性(利益追求に対して常に合理的)に沿った行動をするものと推定されます。
そのため、権利金が常識的な地域で権利金の授受がない場合に、経済的合理性の観点で判断すれば「権利金の収入を得ないのは、他に何らかの利益が得られると見込んでいるから」という推定が働くのです。
この場合には、何らかの利益額は本来あるべき権利金と同等額になると見なし、権利金相当額に対して法人税が認定課税されます。
地主が法人、借地人が個人の場合
借地人が地主法人とは無関係の個人や法人の場合には、地主は権利金相当額の寄付をしたと見なします。
一方で、借地人が地主法人の役員もしくは従業員の場合には、地主へ支払わずに済んだ権利金分だけ臨時的な給与所得(ボーナス)を受けたとして認定課税を受け、権利金相当額に対して所得税が課されます。
地主が法人、借地人も法人の場合
借地人は、地主へ支払わなかった権利金分だけ贈与を受けたとして認定課税を受け、権利金相当額に対して法人税(所得税)が課されます。
借地権の認定課税がなされないケース
借地権に基づく土地賃貸借契約において、個人地主の場合の地主側を除き、権利金がなければ当然に認定課税になるわけではありません。認定課税にならない3つのケースを解説します。
借地権が使用賃借であるケース
地主と借地人がともに個人で、土地の契約が賃貸借ではなく「使用貸借」の場合には認定課税にはなりません。
なお、使用貸借とは金銭の授受がない貸し借りのことで、金銭の授受を伴う貸し借りは賃貸借といいます。
土地の貸し借りが使用貸借なら、権利金や地代の授受がない条件で土地を貸し出し、一定期間後に返還を受けるようなケースです。親が持つ土地の上に子どもが家を建てる場合などは土地を無償で使用しているケースが多いため、これに該当します。
なお、金銭の授受が全くない場合だけに限られるのではなく、地代の授受はあるものの近隣相場と比較して極端に少額である場合も含みます。
例えば、固定資産税額および土地の維持管理費相当額の授受だけで土地を使用させている場合には、土地使用の対価を得ているとは言いがたいでしょう。
つまり、使用貸借であると見なせる地代は「地代の年額が固定資産税および都市計画税の年額と維持管理に要する年間必要費の合計額を超えない範囲、年間地代 < 年間の税金と必要費」をひとつの目安と考えてよいでしょう。
相当の地代を支払っているケース
権利金の授受がなくてもそれに代わる相当額の金銭を支払っていると見なせる場合には、認定課税にはなりません。
権利金とは借地権を取得する一時金で、通常の地代は建物の底地の使用料です。通常の地代は下記の計算式で表します。
通常の地代 = 更地価額 ×(1 – 借地権割合)× 6% |
相当の地代とは、借地権部分にその他の底地部分を加えた土地全体の使用料です。
これは、契約時に権利金の授受がない代わりに、権利金に相当する部分を通常の地代に上乗せしたと見なせる金額のことです。
相当の地代 = 更地価額 × 6%
このように、権利金に代わる相当額の金銭を支払っていれば、権利金の免除で贈与を受けたとはならず認定課税には当たらないのです。
無償返還の届出書を提出しているケース
借地人が無償返還の届出書を提出していれば贈与ではないとの証明になるため、認定課税にはなりません。
土地の無償返還に関する届出書とは、借地人が賃貸借契約終了時に借りている土地を無償で返還すると約束した書面で、地主と借地人が連名で作成し税務署へ提出します。
権利金の授受が当たり前の地域において、権利金および通常の地代を越えた相当の地代もなしに借地契約を締結した場合には、借地人は借地権を無償で取得したものとして権利金相当額に対する贈与税が課税されます(権利金の認定課税)。
しかし、土地の無償返還に関する届出書を提出していれば借地権が発生しないことになり、権利金相当額の認定課税は課されません。
なお、この届出を利用する場合の賃貸借契約書には「土地を無償返還する旨」を記載し、使用貸借に当たらない額の地代を設定する必要があるため注意が必要です。
借地権の認定課税とは権利金や地代の金額が関係するみなし贈与課税
「認定課税」とは、通常ならあるはずの金銭授受がないために何らかの利益(贈与や所得など)を得たと見なされる側に対して、その金額に相当する贈与税や所得税などを課税する制度です。
認定課税の課税対象金額は権利金相当額であり、土地の路線価と借地権割合を用いて計算したものを基準に、近隣の権利金相場その他の事情を考慮して算定されます。
相手によかれと思ってした権利金の免除や地代の値引きが、相手への贈与に当たるとして贈与税や所得税を課される場合があることを理解しておきましょう。