建物を購入して所有権を取得した場合には、購入金額をその年度で一括して経費計上せずに複数年に分けて計上(減価償却)します。しかし、土地は建物のような減価償却ができません。
では、所有権と同様に土地を使用する権利である借地権も、所有権同様に減価償却ができないのでしょうか。
この記事では、借地権の種類と違いや減価償却との関係、借地権にまつわる費用のうち限定的に減価償却できるものなどを解説します。
借地権と減価償却について
借地権や減価償却とはいったいなんなのか、また、減価償却できる資産や借地権の種類と減価償却との関係について解説します。
そもそも借地権とは?
借地権とは、土地の所有者へ地代を支払って借りた土地を使用する権利です。なお、土地の使用方法は建物を建てるほか駐車場や資材置き場などありますが、ここでは主に賃借した土地の上に建物を建てる際の借地借家法上の借地権について解説します。
借地権者は自己の出費で建てた建物の所有権を持っていますが、土地の所有権は地主にあります。そのため、建物の改築や新たな建築、売却などの際には原則として地主の承諾が必要です。
借地権には主に「地上権」と「賃借権」の2種類が含まれます。
地上権は地上建物などの不動産の所有を目的とする権利(物権)であり、地主の承諾がなくても第三者へ地上建物の譲渡や担保設定や賃貸が可能です。
一方、賃借権は土地の使用を目的とする権利(債権)であるため、地主の承諾なしに不動産を使用する権利の譲渡や転貸ができません。
なお、借地権なら土地を購入しなくても建物が建てられるうえに固定資産税・都市計画税の負担がないため、ロードサイド店舗など経費を抑えながら建物を建てる場合などに利用されます。
減価償却とは?
減価償却とは、減価償却資産の取得に費した金額を税法のルールに則って計算し、各年分に分割して必要経費として計上していく会計処理です。
減価償却ができる資産とは、時間の経過と共に価値が減少していく以下図表1のような資産のことです。
減価償却ができる資産 | =時間が経過すると価値が減少していく資産= <有形固定資産>業務用の建物・建物附属設備・機械装置・器具備品・車両運搬具など <無形固定資産>特許権・ソフトウェアなど |
減価償却ができない資産 | =時間が経過しても価値が減少しない資産= 土地・借地権・歴史的価値を持つ骨とう品など |
なお、減価償却資産を取得する際に要したお金は、取得した時に全額経費計上するのではなく、その資産の使用できる期間で1年ごとに分割して経費計上していきます。このときの使用期間として参照するのは、法定耐用年数(国税庁)です。減価償却の計算では、各資産の耐用年数や償却率という係数が用途・構造・性能などに分けられ税法で定められています。
借地権の種類によって減価償却の扱いが変わる
借地権には、下記の3つがあります。
旧借地法上の借地権(1992年8月1日より前に成立した借地権)
旧借地権 | <堅固建物>コンクリート造など・当事者間で期間の定めあり契約時:30年以上、更新時:30年以上・当事者間で期間の定めなし契約時:60年以上、更新時:30年以上 <非堅固建物>木造など・当事者間で期間の定めあり契約時:20年以上、更新時:20年以上・当事者間で期間の定めなし契約時:30年以上、更新時:20年以上 ※期間の定めがない場合に、地上建物が朽廃した地点で旧借地権が消滅※借地人側が強い借地権であり、地主に土地返還について正当な理由がなければ、契約の解約や土地の返還が難しかった |
借地借家法上の借地権(1992年8月1日より後に成立した借地権)
普通借地権 | 契約時:30年以上、初回更新時:20年以上、次回更新時:10年以上 ※堅固・非堅固の区別も当事者間の定めの有無もなく一定期間※地主からの一方的な解約はできないが一定の場合に解約の申し出ができる |
定期借地権 | 存続期間を定めて契約し更新ができないうえに、契約満了後に土地を更地にして返還しなければならない <一般定期借地権>存続期間:50年以上・契約は更新できない <事業用定期借地権>存続期間:10年以上50年未満・契約は更新できない・建物の用途は事業用に限る <建物譲渡特約付定期借地権>存続期間:30年以上・契約満了後に借地上建物を地主が買い取る約束・元借地人が家賃を支払って建物を賃借し引き続き使用できる ※公正証書を用いて法的効力がある契約ができることもあり、地主は期間満了後には確実に更地の返還を受けられる※地主は次の利用の計画が立てられるなど、土地活用に期待が持てるようになった |
いずれにしても借地権の減価償却は原則できませんが、次のように借地権の関連費用が減価償却できる場合があります。
旧借地権 | ・借地契約の更新ができる:減価償却ができる場合がある・更新時に更新料を支払う場合には、その更新料について減価償却ができる |
普通借地権 | |
定期借地権 | ・借地契約の更新をしない:減価償却はできない・一般定期借地権・事業用定期借地権・建物譲渡特約付定期借地権のいずれも、減価償却はできない |
普通借地権の減価償却
更新すれば使い続けられる普通借地権自体は減価償却できないものの、賃貸借契約更新時の更新料は減価償却できます。
減価償却の対象ではない
普通借地権は、更新すれば半永久的に土地が借りられます。また、土地が売却されて所有者が変わったとしても、原則として普通借地権は消滅しません。
減価償却は、残存する固定資産の使用年数を用いて算出します。しかし、半永久的に借りられる状況では残存年数を計算式に算入できないため、減価償却ができないのです。
借地権の更新料を支払った場合
旧借地権・普通借地権は、借地権者が望めば借地契約の更新ができます。
ただし、更新を重ねて半永久的に借りられるということは、時間が経過しても借地権の価値は減少しないと見なし、減価償却の対象にはならないのです。
なお、借地契約を更新する際の「更新料」は「その土地を今後も借り続けるために必要な経費」と見なします。原則として土地および借地権は減価償却ができませんが、更新料については支払った更新料の分だけ借地権の価値が下がったと解して減価償却の対象になるのです。
定期借地権の減価償却
更新がない定期借地権は更新料がなく減価償却できません。では、契約時の権利金や毎月支払う地代は減価償却できるのでしょうか?解説していきます。
減価償却の対象ではない
定期借地権は一定期間が満了すれば更新せずに終了するため、更新料はなく減価償却する余地がありません。
また、毎月支払う地代家賃に関しては減価償却できません。なぜなら、地代家賃とは賃借して使用する権利の対価として支払う性質のものであり、地代家賃の支払いによって賃借権の価値が減少することはないからです。
ただし、地代家賃は事業の経費であり、確定申告や決算処理においては経費として計上します。
繰延資産として減価償却できない
「繰延資産」とは、支出した年度内に限らず複数年度にまたがって償却処理ができる費用を指します。
繰延資産は不動産や機材などの固定資産と異なり、売却して換金することができません。繰延資産の対象となるものは、創業・開業費や技術開発費および賃貸借契約の礼金や権利金など、その支出の効果が「支出の日以後1年以上にわたり持続するもの」が該当します。
一方で、毎月支払う地代家賃に関しては繰延資産に計上できません。
地代家賃とは賃借して使用する権利の対価であり、支出から長期間効果を及ぼすものではないからです。
繰延資産の会計処理方法は、いったん費用として計上してから複数年度にまたがって均等に処理し、特定の年度に高額の経費計上が偏るのを抑えます。
建物に関しては減価償却の対象
建物は、時間の経過や仕様度合いに応じて劣化し価値が減少していくため、借地上の建物も減価償却ができます。
減価償却費の計算方法には次のように「定率法」と「定額法」の2種類があります。
定額法 | 定率法 | |
特徴 | 償却費の額は原則として毎年同額 | 償却費の額は経過年数が浅いほど多く次第に減少 |
計算方法 | (取得価額 × 定額法の償却率) | (未償却残高 × 定率法の償却率) 償却費が償却保証額に満たない年以降は(改定取得価額 × 改定償却費) |
引用:No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)|国税庁
【表の用語】
償却保証額:資産の取得価額に当該資産の耐用年数に応じた保証率を乗じて計算した金額
改定取得価額:調整前償却額が初めて償却保証額に満たなくなる年の期首未償却残高
改定償却率:改定取得価額に対しその償却費の額がその後同一となるように当該資産の耐用年数に応じた償却率
なお、減価償却費の計算で用いる法定耐用年数は建物の構造や用途などにより細かく決められています。一般的なマイホームや別荘などの居住用住宅(非業務用資産)の耐用年数は下表のとおりです。
主な減価償却資産の耐用年数表(住宅用の箇所を抜粋)
建物の構造 | 耐用年数 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造 | 47年 | |
れんが造、石造またはブロック | 38年 | |
金属造 | (骨格材の肉厚4mm超) | 34年 |
(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 27年 | |
(骨格材の肉厚3mm以下) | 19年 | |
木造または合成樹脂造 | 22年 | |
木骨モルタル造 | 20年 |
引用:主な減価償却資産の耐用年数表|国税庁
借地権の減価償却類似の会計処理
借地権に関係する費用のうち、毎月の地代や契約締結に付随する費用の会計処理について解説します。
地代は費用として計上できる
土地は地代を支払って賃借するため、毎月支払う地代は事業の運営経費になります。確定申告や決算処理においては経費として、減価償却ではなく「地代家賃」の項目で計上するのが一般的です。
所得税を算出する際の課税所得は収入から経費や控除を引いたものです。
借地権の対価である家賃を地代家賃として適切に経費計上すれば所得税負担を軽くできるため、忘れないように仕訳処理および会計処理をしておきましょう。
借地権の取得価額も経費として計上できる
借地権にまつわる費用は、その勘定科目や借地権の取り扱い時期に応じて適正に会計処理する必要があります。下記に示すのは借地権の取得価額に含まれる費用であり、会計処理上は資産として計上できます。
借地権を取得するための土地の賃貸借契約締結時
・権利金
・仲介手数料
賃貸借契約更新時
・更新料
・承諾料
土地を賃貸する準備の時
・立退料
・建物の取り壊し費用
・改良費
なお、地主側で借地権にまつわる費用の会計処理が必要になる借地権の取り扱い時期とは下記です。
・取得時
・更新時
・認定課税時(地主が法人の場合)
・売却時
認定課税とは、本来あるべき費用の負担をせずに権利を得た場合に、その者に利益があったと見なしてその得た利益の価額に課税する贈与税や譲渡所得税です。例えば、土地の賃貸借契約締結に権利金の授受が一般的な地域において権利金なしで契約を締結したり、賃料相場よりも大幅に格安で賃借したりする場合があります。
ただし、認定課税はその地域の商慣習や不動産相場および当事者の状況などによって総合的に判断されます。そのため、個人で判断して誤った会計処理にならないように、税理士や税務署に相談しながら進める必要があるでしょう。
借地権そのものは減価償却できないが会計処理が必要な関係費用がいくつもある
借地権とは、土地の所有者へ地代を支払って借りた土地を使用する権利で、土地を購入するよりも少額の初期投資で土地を利用することができます。ただし、土地の所有権は地主であり、建物の改築や新たな建築、売却などは地主の承諾が要ります。
借地権は土地と同様に時間が経過しても価値が減少しないとして減価償却できません。しかし、契約更新時の更新料授受があれば、その更新料に関して減価償却ができます。
他方、事業の会計処理では減価償却以外にも地代家賃などさまざまな勘定科目で経費を計上することができます。事業の財務体質を健全に保つためにも、事業の経費を把握して適切な時期に適正な会計処理ができるように準備しましょう。