借地権といっても多くの種類があり、どの借地権を設定するかにより土地の利用制限がかかってしまうケースもあります。
借地権を設定するときや、借地権付き建物を購入するときには設定する借地権は何か、どのような内容なのかを理解しておかなければいけません。
本記事では、借地権の種類やその内容について解説していきますので、これから借地権を設定する人や、借地権付き建物を購入する予定の人はぜひ参考にしてください。
借地権の種類
借地権には多くの種類があるため、借地権を設定したり借地権付きの建物を購入したりする前には、どのような種類があるのか理解しておく必要があります。
借地権の主な種類は、次のとおりです。
【旧借地法】
- 堅固建物の借地権
- 非堅固建物の借地権
【借地借家法(新法)】
- 普通借地権
- 一般定期借地権
- 事業用定期借地権
- 建物譲渡特約付借地権
- 一時使用目的の借地権
このように借地権には多くの種類があり、それぞれ内容が異なります。
借地権を設定したり借地権付き建物を購入したりする前には必ず内容の違いを理解し、考えていた借地権の内容と違ったというようなことを防止することが大切です。
旧借地法
旧法である借地権の借地は、1992年7月31日より以前に締結された借地権の契約に適用されます。
旧借地法では、次の図表1のように建物の構造の違いにより借地権の期間が決まります。
契約期間を定めないときの借地期間 | 契約期間を定めた場合の借地期間 | |||
借地権設定契約時 | 更新時 | 借地権設定契約時 | 更新時 | |
堅固建物 | 60年 | 30年 | 30年以上 | 30年以上 |
非堅固建物 | 30年 | 20年 | 20年以上 | 20年以上 |
たとえば、木造の場合は非堅固建物に該当するため、契約期間を定める場合には20年以上の借地期間を設定しなければいけません。
コンクリート造の場合は堅固建物に該当するため、30年以上の期間を設定する必要があります。
旧借地法の更新時に再設定される期間は長く、堅固建物の場合は30年以上、非堅固建物の場合は20年以上です。
また、旧借地法では原則借地期間中の解約は認められておらず、地主からも借地人からも正当な事由がなければ解約できません。
期間満了時に借地人が更新の意思を示した場合、原則地主は契約を更新しなければならず、旧借地法で借地権を設定した場合は土地を貸し続けることになるケースがほとんどです。
借地借家法(新法)
借地借家法(新法)は、1992年8月以降に締結された借地権設定契約に適用されます。
借地借家法には、次のように5つの種類の借地権があります。
- 普通借地権
- 一般定期借地権
- 事業用定期借地権
- 建物譲渡特約付借地権
- 一時使用目的の借地権
それぞれの借地権の内容は異なるため、違いを理解しておく必要があります。
どのような違いがあるのかは次章で解説していきますので、借地借家法の借地権について詳しく知りたい人は次章を参考にしてください。
借地借家法(新法)の種類について
借地借家法には、前述したように次のように5つの種類の借地権があります。
- 普通借地権
- 一般定期借地権
- 事業用定期借地権
- 建物譲渡特約付借地権
- 一時使用目的の借地権
ここからは、借地借家法に定められた5つの借地権について解説します。
普通借地権
普通借地権とは、借地借家法の定期借地権に該当しない通常の借地権です。
旧借地法では、建物の頑丈さにより借地期間が異なっていましたが、現在の建築技術では木造でも強固になっているため構造による年数の違いは撤廃されました。
普通借地権の借地期間は30年以上で設定しなければならず、1回目の更新は20年以上の借地期間、2回目以降の更新は10年以上の借地期間を設けなければいけません。
旧借地法の借地権と同じく途中解約はできません。
しかし、建物が災害でなくなったときに勝手に借地人が借地期間の残存期間を超えるような寿命の長い建物を再建築するなどした場合、地主は借地権を解除できるという項目が追加されました。
地主から解除できる項目が新法で追加されたため、地主から借地権設定契約を解除しやすくなっています。
ただし、追加された解除条項を利用できるのは、1992年8月以降に締結された普通借地権設定契約のみです。
定期借地権
借地借家法では期間を限定し更新できない「定期借地権」が新しく設けられました。
定期借地権には「一般定期借地権」と「事業用定期借地権」があります。
一般定期借地権には、次のような特徴があります。
- 建物の用途の制限はなし
- 借地期間は50年以上に設定しなければいけない
- 更新できない
- 土地を返還するときには更地にして返還しなければいけない
- 借地人は期間満了時に建物の買い取り請求ができない
- 公正証書や契約書などの書面で契約しなければいけない
借地権付き分譲一戸建てや分譲マンションで利用されている定期借地権であり、借地期間が満了したときには更新できないため、建物から引っ越ししたうえで建物を解体して地主に土地を返還しなければいけません。
事業用定期借地権
事業用定期借地権は「定期借地権」の1種であり、次のような特徴があります。
- 建物の用途は事業用のみ
- 借地期間は10年以上50年未満に設定しなければいけない
- 更新できない
- 土地を返還するときには更地にして返還しなければいけない
- 借地人は期間満了時に建物の買い取り請求ができない
- 公正証書で契約しなければいけない
事業用定期借地権は、「事業に限定した定期借地権」であり、コンビニエンスストアやドラッグストアなどのロードサイド店舗でよく利用されています。
こちらも一般定期借地権と同じく、借地期間が満了したときには建物を解体して土地を返還しなければいけません。
また、事業用定期借地権の設定契約は公正証書で作成しなければいけないと定められているため、公証人役場にて契約をおこなう必要があります。
建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権とは、普通借地権設定契約に建物譲渡付特約を付けた借地権です。
建物譲渡付特約とは、借地期間中に地主が借地人の建物を買い取って借地権の解除ができるという特別な約束事です。
どの借地権の種類でも建物譲渡特約を付けることができ、この特約を付ければ借地期間30年経過後に建物を買い取って借地権の解除ができます。
建物譲渡特約を付けても地主に買取義務はなく、買い取らなくてもかまいません。
地主が買い取らない場合は、特約を付けた借地権の内容に従って期間満了まで土地を貸さなければいけません。
たとえば、一般定期借地権に建物譲渡付特約を付けて契約した場合、本来であれば50年以上の借地期間を設定しなければいけないものが、30年以上経過したら建物を買い取って借地権を解除することが可能です。
しかし、建物譲渡付特約を付けたのにも関わらず、地主が建物を買い取らない場合、契約した一般定期借地権の内容に従って土地を貸し続けなければいけません。
なお、地主が建物を買い取ったと同時に借地権が消滅するため、買い取った時点で地主は土地を自分の思い通りに使うことができるようになります。
一時使用目的の借地権
土地を利用する期間が短期間である場合、一時使用目的の借地権を設定します。
一時使用の代表例は工事の際に必要なプレハブ設置や、仮設事務所設置のための賃貸に該当します。
一時使用目的の借地権はほかの借地権と違い強い権利ではないため、借地借家法の条文の多くが適用されません。
一時使用時に適用されなくなる借地借家法の条文は、次のとおりです。
- 借地期間:第3条
- 更新後の借地期間:第4条
- 契約更新請求:第5条
- 更新拒絶における正当事由:第6条
- 建物再築による借地期間の延長:第7条
- 更新後の建物滅失による解約:第8条
- 建物買取請求権:第13条
- 借地条件変更・増改築許可手続:第17条
- 借地契約更新後の建物再築の許可手続:第18条
- 一般定期借地権:第22条
- 事業用定期借地権:第23条
- 建物譲渡特約付者借地権:第24条
どのような借地権が一時使用に当たるのかは、貸している状況などによって総合的に判断されます。
たとえば、借地期間が短い、地代が安い、建物が撤去しやすいものである場合には一時使用と判断されるケースが多くあります。
借地権の種類を選ぶときの注意点
借地権の種類を選ぶときには、注意すべきポイントがあります。
借地権の種類を選ぶときの注意点は、次のとおりです。
- 使途をはっきりさせておく
- 存続期間を把握しておく
借地権を設定するとき、借地権付き建物を購入するときには注意点を理解したうえで手続きを進めていきましょう。
使途をはっきりさせておく
借地権を設定するときには、借りた土地をどのように利用するのかよく検討しておきましょう。
借地権の種類によっては用途の利用に制限があるものもあり、借りた土地を自由に使えないケースもあります。
たとえば、事業用定期借地を利用して土地を借りた場合、借地期間が残っていたとしても住宅を建築することはできません。
借地を営利目的で使うのか、居住用として使うのか目的をはっきりさせておけば、どの借地権を利用すればいいのかがわかります。
存続期間を把握しておく
借地権を設定するときや借地権付き建物を購入する際には、借地権の残存期間を把握しておきましょう。
借地権の種類によっては設定できる最短の存続期間が異なるため、設定されている借地権によって事業計画が変わってきてしまいます。
たとえば、事業用借地権だと10年の存続期間が設定でき、一般定期借地権だと50年未満の設定ができません。
この場合だと借地の存続期間の差が40年にもなり、事業計画の考え方も大きく変わってきます。
借地権の存続期間は事業計画に大きな影響を与えるため、借地権ごとの存続期間がどのくらいなのかあらかじめ把握しておきましょう。
借地権の設定をするときには借地権の種類を把握しておこう
借地権にはいくつもの種類があり、それぞれの借地権は内容も存続期間も違います。
たとえば、借地借家法の普通借地権は建物の用途は問わないものの、存続期間を30年以上で設定しなければいけません。
そして、事業用定期借地であれば10年以内50年未満の存続期間を設定できるものの、建物の用途は事業用のみに限られ、設定契約は公正証書でおこなう必要があります。
このように借地権は内容も存続期間も違うため、どの借地権を利用するのか判断できるようにしておくことが大切です。
借地権を設定する前には、必ず借地権の種類とその内容を理解しておきましょう。