借地権は財産としてみなされるため、相続時には相続税の課税対象になります。
相続税を計算するときには、相続の対象になる財産の相続税評価額の計算方法を理解しておかなければなりません。
本記事では、借地権の「相続税評価額」についてや、借地権の種類ごとの相続税評価額の計算方法などを解説していきますので、借地権の相続について知りたい人はぜひ参考にしてください。
借地権の相続税評価額について
借地権は財産として扱われる権利であり相続税の課税対象になるため、相続税評価額を計算して相続税を申告しなければいけません。
借地権の相続税評価額を計算する前には、土地を借りている権利がそもそも借地権なのかどうかを理解しておく必要があります。
借地権として評価されるには2つの条件を満たしている必要があるため、適用される条件を理解しておかなければいけません。
また、借地権には種類があり、種類ごとに相続税評価額の計算方法が異なります。
借地権にはどのような種類があるのか、どの種類にどの計算方法が適用されるのか理解することで、はじめて借地権の相続税評価額の計算が可能になります。
ここでは、借地権として評価される条件と、借地権の種類による相続税評価額の計算方法を解説していきますので、借地権の相続税評価額を計算したい人はぜひ参考にしてください。
借地権として評価される条件
借地権として評価されるためには、次の2つの条件を満たしている必要があります。
- 借地上に建物を建てていること
- 使用貸借ではないこと
借地権として評価されないと、当然ながら借地権の相続税評価額の計算は適用されません。
借地権が成り立つ条件は「建物を所有する目的で土地を借り、その代償として地代を払う」ことであるため、使用貸借の場合は借地権に該当しません。
使用貸借とは、賃料を払わず無償で物の貸し借りをすることです。
建物を所有する目的で土地を借りたとしても地代を払わずに借りた場合、借地権ではなく使用貸借になるため借地権とは評価されません。
借地権の相続税評価額は種類によって計算方法が異なる
借地権の相続税評価額は、借地権の種類によって計算方法が異なります。
借地権の種類は、主に3つです。
- 普通借地権
- 定期借地権
- 一時使用目的の借地権
そして、定期借地権は一般定期借地権と事業用定期借地権に分かれ、一般定期借地権の計算方法は異なります。
借地権の相続税評価額の計算方法
借地権は種類によって相続税評価額の計算方法は異なるため、計算したい借地権がどの種類に該当するのか確認し計算しましょう。
ここでは、普通借地権・定期借地権および一般定期借地権・一時使用目的の借地権の計算方法を解説します。
普通借地権の相続税評価額を計算する方法
普通借地権の相続税評価額の計算方法は、次のとおりです。
借地権の相続税評価 = 土地の自用地評価額 × 借地権割合 |
土地の自用地評価額とは、借地権など土地の利用の制限が付いていない土地のことで更地での価格です。
なお、更地とは建物が建っておらず、所有権以外の権利が付いていない土地のことをいいます。
借地権割合とは、更地の評価額に対する借地権価額の割合です。
借地権割合は国税庁のホームページ「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。
路線価図を確認すると「円の中に数字とアルファベット」が記載されており、このアルファベットが借地権割合です。
借地権割合はG~Aまであり、10%刻みで30%~90%まで設定されています。
定期借地権の相続税評価額を計算する方法
定期借地権の相続税評価額の計算方法は、次のとおりです。
定期借地権等の相続税評価額 = 自用地評価額 ×((A ÷ B)×(C ÷ D))A:定期借地権の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額B:定期借地権の設定時における土地の通常取引価額C:課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率D:定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率 |
引用:国税庁「No.4611 借地権の評価」
定期借地権の一つである一般定期借地権の相続税評価額の計算方法は、次のとおりです。
一般定期借地権の評価額 = 自用地評価額 ×(1 – 底地割合)× A ÷ BA:課税時期の一般定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率 B:一般定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率 |
引用:国税庁「No.4612 一般定期借地権の目的となっている宅地の評価」
定期借地権・一般定期借地権の計算は複雑であるため、税理士に相談し正確な相続税評価額を確認するようにしましょう。
一時使用目的の相続税評価額を計算する方法
一時使用目的の借地権は、雑種地の賃借権の価額と同じ計算方法で算出します。
一時使用目的の借地権の計算方法は、次のとおりです。
(1) 地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権 雑種地の自用地価額×法定地上権割合と借地権割合とのいずれか低い割合(2) (1)以外の賃借権 雑種地の自用地価額×法定地上権割合×1/2 |
引用:国税庁「雑種地の賃借権の評価」
計算式のとおり、一時使用目的の賃借権を計算するときには、賃貸借契約の目的によって計算方法が変わります。
地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権の代表例は、次のとおりです。
- 賃借権を登記している場合
- 賃借権の設定の対価で権利金などの一時金の受け渡しをしている場合
- 堅固な構築物の所有を目的で土地を借りた場合 など
自分が締結している契約が該当するのか迷う場合には、税理士などの専門家に確認してから相続税評価額を計算しましょう。
借地権を相続する際の注意点
借地権を相続するときには注意すべきポイントがあり、ポイントを理解していないとトラブルになるケースがあります。
借地権を相続する際の注意点は、次のとおりです。
- 親族なら相続手続きはいらない
- 名義変更が求められる
- 遺贈の場合は承諾が求められる
これらの注意点を理解し、トラブルなく借地権を相続していきましょう。
親族なら相続手続きはいらない
相続するときに、借地権を法定相続人である親族が受け継いだ場合には、地主の承諾を得ることなく借地権を相続できます。
法定相続人である親族に相続するときには、借地権の譲渡の承諾料を地主に支払う必要もありません。
ただし、地主との関係を良好なまま維持するために、相続が発生して法定相続人である親族に借地権が移転したことを必ず連絡しておきましょう。
相続の際に、法定相続人に借地権が移転したことを地主に伝えることは法律的に要求されていませんが、連絡もなしに勝手に相続を進めていくと感情的なトラブルに巻き込まれる危険性があります。
名義変更が求められる
借地権を相続したときには、建物の名義を相続人に変更しなければいけません。
相続の際に名義を変更するためには、相続登記が必要です。
建物の相続登記をしなければ、第三者に借地権が自分のものであると主張できません。
たとえば、建物の相続登記が未了のときに地主が土地を売却してしまい、土地の購入者が借地権が設定されていることを知らなかった場合、購入者を保護するために借地権の主張が認められないケースもあります。
相続登記は遺言書があった場合を除き、相続があったとしてもすぐには登記できず、遺産分割協議をおこなわなければいけません。
遺産分割協議とは、亡くなった人が残した財産を相続人全員でどのように分配するのか話し合うことです。
遺産分割協議を終わらせるには、相続人の人数や相続財産の範囲を確定する必要があり非常に時間がかかります。
相続登記するためには遺産分割協議を経なければならず時間がかかるため、相続が発生したらすぐに遺産分割協議を始めて相続登記ができるような状態にしておきましょう。
遺贈の場合は承諾が求められる
遺贈により「借地権と借地権上の建物」を取得した場合、地主の譲渡承諾が必要です。
遺贈とは、遺言書により法定相続人以外の第三者が財産を相続することです。
遺贈で借地権を取得した際には、地主の譲渡承諾とともに承諾料を払わなければいけません。
遺贈のときに地主へ払う承諾料は、借地権価格の10%が目安です。
借地権価格の計算方法は、次のとおりです。
借地権価格 = 更地の評価額 × 借地権割合 |
※普通借地権の場合
たとえば、更地評価額が5,000万円、借地権割合が60%、譲渡承諾料が借地権価格の10%とした場合の計算は次のとおりです。
5,000万円 × 60% × 10% = 30万円(譲渡承諾料)
なお、上記の計算はあくまで一般的なものであり、地主の譲渡承諾料は交渉で決めていきます。
譲渡承諾料の交渉がうまくいかないときには、弁護士や税理士などの専門家に承諾料を算出してもらい交渉を進めていきましょう。
借地権を相続した後の注意点
借地権を相続した後にもトラブルになってしまうケースがあるため、どのようなことに注意しなければいけないのか知っておきましょう。
借地権を相続した後の注意点は、次のとおりです。
- 建て替えなどは地主の承諾が求められる
- 建物を売却するときも承諾が求められる
遺贈以外でも借地権を扱うときに承諾が必要なケースもあります。
どのような場合に地主の承諾が必要なのか、トラブルにならないよう知識を得ておきましょう。
建て替えなどは地主の承諾が求められる
借地権上の建物を建て替えるときや、増改築するときには地主の承諾が必要です。
また、建て替えのときも増改築のときにも、地主へ承諾料を払わなければいけません。
このときの承諾料の金額目安は、次のとおりです。
- 建て替え:更地価格3~5%が目安
- 増改築:更地価格1~5%が目安
なお、建物の建て替えや増改築も借地借家法で地主に承諾が必要と規定しています。
建て替えや増改築する前には、必ず地主の承諾を得ておきましょう。
建物を売却するときも承諾が求められる
建物を売却し借地権も譲渡するときにも、地主の承諾が必要です。
建物を売却するときも地主への承諾料が必要であり、承諾料の金額目安は借地権価格の10%です。
建物を売却するときに地主の許可は借地借家法により必要とされているため、もし地主の承諾なしにおこなってしまうと借地権設定契約の解除をされてしまうおそれがあるため注意しましょう。
借地権を相続するときには相続税評価額の計算が必要
借地権は相続税の課税対象となる財産であるため、相続税を計算するのに必要な相続税評価額の計算方法を理解しておかなければなりません。
借地権の相続税評価額の計算方法は借地権の種類によって異なるため、所有している借地権がどの種類に該当するのかも把握しておく必要があります。
所有している借地権の種類によっては、相続税評価額の計算方法が複雑になるため、正確な評価額を知りたいときには税理士に計算してもらいましょう。