借地権は土地を借りて建物を建てるために必要な権利です。借地権が付いた一戸建てやマンションは立地が良い割に購入価格が安いため、一生涯ではなく一定期間だけその地に居住したいというライフスタイルの方には人気があります。
しかし、借地権は所有権とは異なるため、地主との関係や権利の性質および存続についてあらかじめ正しく理解しておくことが大切です。
この記事では、借地権(地上権および賃借権)の概要や建物登記との関係、第三者と権利を争う場合を想定してどのように行動すべきかを解説しています。
借地権は登記なしでも良い?
借地権自体は登記できるものの、実際に登記されるケースは多くありません。多くの借地権が登記されない理由や、登記しなくても問題がない理由について解説します。
登記されていないケースはある
借地権は登記できる権利ですが、借地権の登記がなされているケースは多くありません。借地権の登記がされているか調べるには、土地の登記簿謄本(履歴事項証明書)の権利部(乙区欄)に賃借権もしくは地上権の記載があるかどうかで判断します。
なお、借地権が賃借権の場合には、登記簿に下記のような記載があります。
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利その他の事項 |
〇 | 賃借権設定 | 令和〇年〇月〇日第〇号 | 原因 令和〇年〇月〇日設定目的 建物所有賃料 1月〇万円支払期日 毎月末日存続期間 〇年賃借権者 〇市〇町〇番地 山田太郎 |
借地権は、借地上の建物が借地人の名義で登記されていれば問題ありませんが、建物の登記がされていないケースも考えられます。
一般的に、ローンを組んで建物を購入したときには銀行へ登記後の謄本を提出する必要があるため、建物が未登記になっていることはありません。
しかし、増築の登記や現金で購入した建物の登記なら、銀行のローンのときのようなチェック機能が働かないため、建物の未登記があり得ます。
また、建物の登記がないと思いきや、照会する登記簿を誤って別の地番の土地登記簿を参照しているケースもあります。
昔は土地の住居表示(手紙が届く住所)と地番(自治体が割り振った土地の番号)が一致しないのが一般的だったため、実際の場所とは異なる地番を誤って調査してしまうケースが多々あったからです。
自治体の統合による地名変更や職権による地番変更などがあり、住所変遷の沿革が容易に辿れなかった可能性もあります。
ただし、継続して固定資産税や都市計画税が請求されているなら、その請求領収書に印字された地番や建物番号および土地面積や建物延床面積などを参考に、登記簿と照合するのがよいでしょう。
また、法務局の職員が地番の追跡調査を任意で手伝ってくれる場合があるため、窓口で地番調査の相談をしてみるものよいでしょう。
借地権上の建物は登記したほうが良い
借地上の建物が借地人と同じ名義で登記されていれば借地権の存在が推定されるため、誰に対しても借地権の存在が主張できます。
さらに、土地の賃貸借契約に基づいて地代を支払っている実績があれば、借地契約の当事者も明らかなので、たとえ底地が売却されて新所有者から立ち退きを迫られたとしても、建物の登記をもって借地権を主張し立ち退きを拒否することができるのです。
借地権は登記しなくても特段ペナルティがないため、わざわざ費用をかけてまで借地権を登記するケースはほとんどないのが実状ですが、権利の証明として検討している方は、「借地権の登記には、地主の協力が不可欠」である点に注意しましょう。
なお、借地上の建物を所有する借地権者が死亡し、その建物および借地権を引き継いだ相続人は、建物の登記がなくても借地権者としての地位を自動的に承継します。
相続した建物所有権の第三者対抗要件は相続登記であるため、相続が確定したら早めに相続人名義へと変更登記をしておくべきでしょう。
借地権の取得・移転・消滅に伴って登記が必要なケース
借地権は借地上の建物に付随して移転したり消滅したりしますが、その状況によっては決まった手続きや登記を具備しなければならない場合があります。
借地権の譲渡・相続・解消のそれぞれの場合において注意すべき事項を解説します。
借地契約を締結するとき
借地契約を締結すれば、土地を借りて使用する権利を得ますが、この借地権には「地上権」と「賃借権」があります。
この2つの権利はいずれも登記をすることができますが、登記は義務ではありません。なお、地上権と賃借権の違いは下表をご参照ください。
借地権 | ||
地上権 | 賃借権 | |
権利の種類 | 物権(物を直接支配する強い権利) | 債権(人に一定行動を請求する権利) |
利用例 | 地下鉄・電波塔・橋梁・高速道路・新幹線 | 借地権付き戸建てやマンション |
存続期間 | 30年以上 | 上限は50年但し、建物所有が目的なら下記の分類 <普通借地権>・30年以上 <定期借地権>・一般定期借地権:50年以上・事業用定期借地権:10年以上50年未満・建物譲渡特約付借地権:30年以上 |
登記義務の有無 | 義務はないが第三者へ対抗するための要件になるため登記しておくべき | 契約書で借地権の内容が分かるため登記は必須ではない |
担保設定の可否 | 地主から許可を得なくても設定できる | 設定はできなくもないが地主から許可を得るのが困難 |
地主の承諾 | 地上権の売却や又貸しに地主の承諾は不要 | 賃借権の売却や又貸しには地主の承諾が必要 |
金銭の授受 | 契約締結時に地主へ補償金などを支払うことが多い | 契約時に礼金・更新時に更新料など商慣習に従うが、地代は毎月支払う |
「地上権」は土地や土地の空中および地下の空間を直接支配する「物権」に該当し、地上権(物権)を第三者に権利を主張するためには登記の完備が必須です。
地上権の利用例にあるように、地下鉄の線路や高速道路が建設される場合に、地下の線路や空中の道路が通過する土地に地上権を設定します。
地上権の存続自体には登記が必須ではないものの、登記がないと第三者に権利を主張できず完全とはいえないため、必ず登記すべきとされているのです。
一方で、賃借権を第三者に主張するためには、借地上の建物の登記がされていれば賃借権が付随すると見なされます。つまり、賃借権自体を登記しなくても建物の登記を完備すれば問題ありません。
借地契約を締結して借地上に新たに建物を建築した場合には「所有権保存登記」が必要となり、その際、登記手続きは自分では行わず、司法書士に有償で依頼して代行してもらうのが一般的です。
借地権を譲渡されたとき
借地上の建物を購入した場合には「所有権移転登記」が必要です。
この登記も基本的に司法書士に有償で依頼し手続きを代行してもらいます。
借地上建物の購入資金を銀行でローンを組んで調達した場合には、所有権移転登記のあとに「抵当権設定」登記が必要です。
また、建物への抵当権設定は、借地上の建物の競売は裁判所の一存で行えるなど、地主の権利が抑制されてしまうため、「地主の承諾が必要」になります。
一般的に、借地権者が建物をローンで購入した場合において、ローンが返済できなくなると銀行は建物を差し押さえて競売にかけます。そして、地主の承諾なしに裁判所の単独の権限だけで建物を買受人へ売却が可能になります。
また、地主が建物の買受人に対して土地の使用を承諾しない場合には、買受人は裁判所から地主の承諾に代わる許可をもらうか、地主に対して建物を直で買い取るように請求する(建物買取請求権)選択ができます。
つまり、借地上建物に抵当権を設定するということは、最悪の場合に地主の権利が抑制されて、誰か分からない人に土地を使われたり買取を請求されたりするリスクを抱えるということに他なりません。そのため、それを嫌って借地上の建物に抵当権設定を許可しない地主も少なくないのです。
相続したとき
借地上の建物および借地権を相続によって取得した場合にも「所有権移転登記(相続登記)」が必要です。
相続登記には、被相続人の除籍や住民票の除票などとともに、遺産分割協議書に実印を捺印して相続人全員の戸籍や印鑑証明書などたくさんの書類が要ります。
この登記も司法書士に有償で依頼するのが一般的です。
なお、2024年4月1日からは相続登記が義務化されます。これにより、不動産を相続したことを知ったとき、もしくは遺産分割協議が整ったときから3年以内の相続登記申請が必須になります。
万一、正当な理由がないのに期限内に登記が完了していない場合には、10万円以下の過料が科せられる場合があるため注意が必要です。
義務化される相続登記は、相続登記が義務化になる2024年4月1日より前に起こった相続も全て対象になります。
その場合の登記期限は、相続によって不動産を得ると知った日、もしくは相続登記義務か開始日のうち、遅いほうの日から3年以内です。
一方で、相続税の税務署への申告や納付は被相続人が亡くなったことを知ったときから10カ月以内に完了させなければなりません。そのため、遺産分割協議や戸籍などの書類の取り寄せは、できるだけ早めに取りかかっておくことをおすすめします。
借地契約を解消したとき
借地契約を更新せずに期間満了で解約する場合でも、借地上の建物が滅失して契約期間の途中で合意解除する場合でも、借地契約関係を解消する場合には借地人が借地を更地にして地主へ返還しなければなりません。
借地上の建物が滅失もしくは解体でなくなった場合には、建物を建築したときに法務局に作成された登記簿を閉鎖する手続き(滅失登記)が必要です。
「滅失登記」を行わなければ自治体からの固定資産税や都市計画税の請求が止まらないため、建物が建っていないのに課税されてしまいます。
なお、滅失登記も建物が滅失や解体などによりなくなってから1カ月以内に申請しなければ、10万円以下の過料が科される場合があるため注意が必要です。
滅失登記の申請は、下記の書類を揃えて法務局へ提出し申請します。
- 建物滅失登記申請書
- 当該建物の登記簿謄本(履歴事項証明書)
- 当該建物の建物図面
- 当該建物の各階平面図
- 当該建物が建つ土地の公図
- 建物滅失証明書(解体業者が解体を完了した証明)
- 当該建物の所在が分かる地図
滅失登記は、建物所有者の自己申請もしくは土地家屋調査士の代理申請がありますが、手続きが専門的で煩雑なため、一般的には土地家屋調査士に有償で依頼します。
借地権は登記なしだと不動産の対抗要件にならない?
借地権の存続に関しては、借地権自体の登記は要件ではありません。しかし、その場合どのように権利を主張するのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか?
建物が滅失し借地上には何もない場合でも、第三者へ権利を対抗する方法について解説します。
ぜひ、参考にしてみてください。
建物の所有権を登記すれば問題ない
借地権はそれ自体を登記することができますが、借地上の「建物」に借地人名義の登記があれば借地権があるものと推定され、第三者へも堂々と主張できます。実際に、特殊な場合を除いては借地権自体を登記する必要性やメリットが少ないため、借地権自体を登記するケースもそれほど多くありません。
一方で、地上権の場合には、登記の完備が誰に対しても権利を主張できる要件になっていることもあり、地上権自体を登記します。
地上権の登記は、建築物や工作物が通過する土地の地主が、地上権設定者として手続きに協力しなければ登記ができません。
地上権設定登記は、一般的に司法書士へ有償で依頼します。
登記しておけば借地権の存続期間中は対抗力を持つ
借地権は登記するケースが少ないものの、万一のケースでは登記があれば不利な状況にならないという効果があります。
借地契約の期間中に建物が滅失して滅失登記をすると、建物および建物の登記がないため外形的に借地権の存在が分からず、第三者と借地権で争った場合には対抗力を失います。
建物が滅失しても借地契約期間中は土地の利用が継続できますが、揉め事を予防するには借地権の登記にメリットはあります。
なお、建物が滅失しても借地権の存在が分かる下記の事項を土地上に掲示しておけば、滅失後2年間に限り第三者へ対抗でき、登記と同様の効果が得られます(借地借家法第10条第2項)。
- 建物を特定するために必要な情報
- 建物が滅失した日
- このあと建物を新築する意向がある旨
この看板設置による対抗力は建物滅失から2年経過すれば自然消滅するため、2年以内に建物を建築して登記するのがいいでしょう(借地借家法第10条第2項但書)。
借地権は建物登記があれば対抗でき、万一に備えて登記するメリットもある
借地関係では、借地人は建物を建てて数十年間土地を使用し地主は安定した地代収入を数十年間得られます。つまり、地主と借地人は土地の賃貸借によって持ちつ持たれつの関係にあるのです。
平穏で良好な関係が第三者から侵害されれば、排斥交渉や裁判の手間などの時間と、対策費や和解金などのお金がかかるかもしれません。
借地権は、借地上の建物に借地人と同名義での登記があれば借地権があるものと推定され、第三者に適正に対抗できます。
良好な関係に急に横ヤリが入る場合を想定して、登借地権に詳しい不動産会社や司法書士に、登記の不備や将来のリスクがないか相談しておくとよいでしょう。