借地権を取り扱うときには、借地権者、借地権設定者、転借地権者がどのような人なのか理解しておかなければいけません。
しかし、借地権という言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、借地権者・借地権設定者・転借地権者がどういった人なのか知らないのではないでしょうか。
本記事では、借地権に関わる人の呼び方や、借地権者が知っておくべき重要なポイント、借地権者と借地権設定者で起こるトラブルについて解説します。
借地権の基礎知識を得たいという人にあった内容になっていますので、ぜひ参考にしてください。
借地権者とは?概要を解説!
借地権を扱うときには、多くの専門用語を利用しなければいけません。
専門用語の中でも内容をすぐに判断できないのが、借地権者です。
また、借地権者とセットで出てくるのが、借地権設定者や転借地権者です。
これらの内容を理解しておくことで、借地権の取り扱いがスムーズに進みます。
ここでは、「借地権者」「借地権設定者」「転借地権者」がどのような人を指すのか解説しますので、内容の違いがわからない人は参考にしてください。
借地権者について
借地権者とは、土地を借りた人のことです。
つまり、借地権者は「借地権を持っている人」ということです。
借地権者は借地権を持っているという広い意味であるため、転借地権者も借地権者に含まれます。
借地権者は借地借家法の適用を受け、土地を借りることになります。
通常、借地権は借地権者からも地主からも中途解約できず、更新の時期まで土地を借り続けなければいけません。
借地権設定者について
借地権設定者とは、「借地権を設定した人」であり、通常は地主を指します。
通常は地主を指すというのは、借地権によっては地主だけでなくほかの人も借地権設定者になるからです。
たとえば、地主が土地を貸した人が、賃借権を転貸した場合は地主以外に借地権設定者となる人がいます。
この場合、土地に借地権を設定したのは地主と、転貸した借地権者です。
つまり、地主以外でも借地権設定者と呼ぶときがあるわけです。
基本的に借地権設定者は地主ですが、転貸借がある場合は地主以外の人も借地権設定者になることを覚えておきましょう。
転借地権者
転借地権者とは、建物の所有を目的としている土地の賃借権であり、「借地権者が設定する権利を借りた人」です。
たとえば、借地権設定者である地主から借地権者Aが土地を借りて、AがBという第三者に賃借権を貸す場合です。
転借地権はよくおこなわれており、地主からディベロッパーが土地を借りて、建築会社が転借地権者となり建物を運営します。
大規模マンションの開発で利用される方法です。
借地権者にとって重要なポイント
借地権者には理解しておくべきことが多くあり、借地権の内容を正確に把握しておかないとトラブルに発展してしまうケースもあります。
借地権者にとって覚えておくべき重要なポイントは、次のとおりです。
- 借地権の種類
- 地主に無断で転貸してはいけないこと
- 地代について
各項目のどのような内容を理解しておけばよいのか詳しく解説していきますので、借地権者の方はぜひ参考にしてください。
借地権の種類は何か?
借地権にはいくつかの種類があり、それぞれの内容を理解しておかなければいけません。
借地権は「普通借地権」と「定期借地権」があり、定期借地権には3つ(図表1:①〜③)の種類があります。
借地権と各種定期借地権の内容は、次の表のとおりです。
借地権の名称 | 内容 |
普通借地権 | ・契約期間は30年以上に設定・1回目の更新は20年以上、2回目以降の更新は10年以上としなければいけない※借地借家法が適用される場合 |
①事業用定期借地権 | ・事業用の建物を所有する目的で設定する定期借地権・契約期間は10年以上50年未満に設定・契約は公正証書でおこなわなければいけない |
②一般定期借地権 | ・建物の所有目的に制限がない定期借地権・契約期間は50年以上に設定 |
③建物譲渡特約付借地権 | ・地主に対して建物買取請求ができる定期借地権・契約期間は30年以上に設定 |
普通借地権は更新し続けられますが、定期借地権は契約の更新はできません。
定期借地権の契約を続けたい場合は、一旦契約期間が切れたあとに再度定期借地権の設定契約をする必要があります。
地主に無断で転貸してはいけない
借地権は、地主に無断で転貸してはいけません。
転借地権は地主に大きな影響を与えるため、借地権者が転借地権者に借地権を貸すときには地主の承諾が必要になります。
承諾を取らずに無断で転貸してしまうと、契約違反と判断され契約解除される原因になってしまうため注意しましょう。
また、転貸と同じく、譲渡も無断でおこなってはいけません。
借地権の譲渡を無断でおこなうと契約解除される原因になります。
借地権を転貸・譲渡するときには、必ず地主の承諾を取得しましょう。
地代について
地代は借地権満了まで一定金額のまま続くとは限らず、地主の都合で変更の要求をされるケースがあるため注意しましょう。
借地権を設定すると契約期間が長期間になるため、地主の生活も変わることがあります。
地主がお金の必要な事情が発生すると、地代の変更を要求してくる場合もあります。
契約で決めた地代を変更するには、周辺の地代相場の値上がりや固定資産税の値上がりなどの正当な事由が必要です。
そのため、不当な地代の値上げに応じる必要はありません。
しかし、地主との関係が悪化すると、借地権者にとって不利益な状態になる可能性があります。
たとえば、借地権付き建物を売却するときには地主の承諾が必要ですが、関係が悪化していると承諾をしてくれないようなケースです。
正当な事由なく承諾を拒否してきた場合には、裁判所で地主の承諾に変わる許可の取得が可能です。
しかし、裁判所に申し立てをするのは一般の人では困難であるうえに、書面審査ではなく裁判のように地主と向かい合って解決を図らなければいけません。
弁護士費用がかかり、手間も時間もかかります。
地主の承諾に代わる許可を裁判所で取得するよりも、多少の金額であれば地代の交渉に応じて地主との関係性を良好に維持したほうがよいでしょう。
また、地代の交渉を受けたときには、相場を把握しておくのも大切です。
地代の周辺相場を理解していれば、正当な事由での地代交渉なのかどうかが判断できます。
地代の調査方法は、次のとおりです。
- 固定資産税から計算
- 路線価から計算
- 土地貸しの期待利回りから計算
- 周辺エリアの地代を確認する
- 不動産会社に確認する
ただし、複雑な計算をしなければ地代を計算できなかったり、郊外などに立地している場合に周辺相場が形成されていなかったりと相場を把握するのは困難です。
そのため、相場を調査するには、不動産会社などの専門家に確認するのがもっともよい方法です。
借地権者と借地権設定者でよくあるトラブル
借地権者と借地権設定者とは、トラブルになってしまうケースもあります。
借地権者と借地権設定者でよくあるトラブルは、次のとおりです。
- 建て替えや増改築の承諾が得られない
- 急な地代の値上げ要求で困っている
- 借地権を相続したものの地主がわからない
どのようなケースでトラブルになりやすいのか理解し、無用なトラブルを避けるようにしていきましょう。
建て替えや増改築の承諾が得られない
借地上の建物の建て替えや増改築の承諾が地主から取得できず、トラブルになるケースがあります。
借地権者は借地権設定者の承諾がなければ、借地上の建物の建て替えや増改築がおこなえません。
建物の維持修繕を目的とした簡易的なリフォームには地主の承諾が必要ないため、建て替えや増改築も承諾が不要と思い込んでしまう人がいます。
しかし、建て替えや増改築のように建物の寿命を大きく変えるような工事には、地主からの許可が必要です。
もし地主から建て替えや増改築の承諾が取れない場合は、譲渡や転借の承諾同様、裁判所に地主の承諾に代わる許可を取得できます。
手続き方法も同じですが、費用や手間がかかる点についても同じです。
そのため、普段から地主の承諾が取りやすいように、地主との関係を良好に保っておくことが大切です。
急な地代の値上げ要求で困っている
借地権を持っていると借地権設定者から急な地代の値上げを要求され、トラブルになってしまうことがあります。
借地権の存続期間は数十年と長いため、その間に地主から地代の値上げ交渉をされてしまうことがあります。
地代の値上げをするには、周辺相場の地代の上昇や固定資産税などの税金の値上げのような正当な事由か、借地権者と借地権設定者と値上げの合意をしなければいけません。
そのため、借地権設定者から根拠のない地代の値上げを要求された場合は、両者の合意がなければ値上げすることはできません。
根拠のない地代交渉は借地権者にとって納得できるものではありませんが、地代交渉に応じず借地権設定者の提案を無視してしまうと関係が悪化してしまいます。
借地権設定者との関係が悪化すると、借地権の譲渡や建物の建て替えの承諾が取れなくなってしまいます。
承諾を取れるくらいの関係を保ちつつ、交渉して地代を決めることが大切です。
借地権を相続したものの地主がわからない
借地権を相続したものの、地主がわからないというケースがあります。
借地権者が急に亡くなってしまうと、相続人は何も理解しないまま借地権を相続してしまうことになります。
借地権は地代を払うことにより得られる権利であるため、相続人が地代の支払いを怠ると借地権設定者から借地権を解除されてしまうため注意しなければいけません。
もし借地権付き建物が相続人の自宅だったとしても、解除されてしまえば自宅を解体しなければいけなくなります。
このような事態になるとトラブルになってしまうため、借地権の法定相続人は借地権設定者が誰かを知っておかなければいけません。
もし借地権設定者が誰か知る前に借地権者が死亡してしまったのであれば、法務局で借地権を設定している土地の登記簿謄本(登記事項証明書・全部事項証明書)を取得しましょう。
土地の登記簿謄本には所有者(借地権設定者)の住所と氏名が記載されています。
登記簿謄本の住所を頼りに、記載された住所地に行ってみるのもよいでしょう。
また、借地権を遺贈で譲り受けた場合は、すぐに地主を探さなければいけません。
遺贈とは遺言書により相続を受けた人のことであり、法定相続人以外の第三者も相続を受けられます。
第三者が借地権を相続した場合、借地権設定者から承諾を得る必要があります。
長い時間放置してしまうと借地権設定者との関係性が悪化してしまい、遺贈による借地権者変更の承諾が取得できなくなるかもしれません。
借地権を相続したときには、すぐに地主を探して相続したことを伝えることが大切です。
借地権者は借地権設定者との関係を大事にしよう
借地権者とは借地権を持っている借地人のことです。
そして、借地権設定者とは借地権を設定した人のことをいいます。
借地権者は借地権設定者に大きな影響を与える行動をするときには、承諾を得なければいけません。
承諾が必要な代表例は、借地権の譲渡・建物の建て替え・遺贈による第三者の相続です。
これらの行為には借地権設定者の承諾が必要であり、関係が悪化していると承諾が得られないケースもあります。
そのため、借地権設定者から地代の値上げ要求があったとしても、無視するのではなく交渉に応じ関係性を大事にすることが大切です。