借地権は建物を所有するために土地を借りる権利です。借地権は、土地の賃貸借契約の際に契約期間を設定しますが、契約期間の満了時に契約を更新できる普通借地権(借地借家法3条)と契約の更新がない定期借地権(同法22条以下)に大きく分かれます。
また、1992年に現在の借地借家法に変わる前の旧借地法にもとづく旧法借地権も更新されることで数多く残っています。
契約の更新ができる普通借地権や旧法借地権の場合、更新するときに土地の所有者(以下「地主」)に更新料という名目で金銭を支払うことがあります。
ただ、更新料は。契約から数十年という長い期間を経て支払うこと、契約当時と経済環境も変化していることから、金額や支払いそのものについてトラブルとなることがあります。
「更新料の金額に合意できず契約更新を拒否された」
「一方的に高額な更新料が請求されている」
「更新料の支払いを拒否したら更新を拒否された」など。
本記事では、更新料の支払い義務や相場、支払えない場合の対処法などについて解説します。
借地権の更新料とは?
借地契約の更新とは、契約期間が満了した借地契約を、新たに期限を設定して借地契約を継続する手続きです。
この借地契約の更新に必要となる「更新料」はどういうものなのでしょうか、支払い義務や必要な理由、更新料の意味について解説します。
法律で定められている訳ではない
更新料は法律に規定されているものではありません。
借地権の根拠となる法律として、1992年に制定された現在の借地借家法に加え、それ以前の旧借地法に基づく旧法借地権も更新されることで数多く残っています。
借地借家法には、契約の更新に関する規定がありますが(同4条以下)、更新料に関する規定はありません。
つまり、更新料は法律上定められたものではなく、地主と借地人の借地契約もしくは両者の合意に基づくもので、それがない限り更新料を支払う義務はありません。
ただ、一般的には契約更新時に更新料が支払われることは多くあります。過去の裁判例でも個々の案件ごとに借地契約の状況は異なりますが、更新料を認めているものもあります。
また、借地契約は土地上に建物を所有することを目的として、20年、30年といった長期間の土地利用を前提とするものです。
そのため、借地人としても「長期にわたり地主が所有する土地を貸してもらっている」「生活の基盤となっている土地を使えなくなると困る」といったことから、更新を拒否されたくない、できるでけトラブルを避けたいといった背景もあり、慣習的に更新料が支払われていることもあります。
ですので、一般的に更新料が支払われているケースも多くあります。
金額は相談のうえで決められる
更新料の金額は明確に定められているわけではありませんので、更新料の相場などをもとに最終的には地主と借地人の話し合いによって決められます。
地主から提示された金額に対して、更新料を準備するのが厳しい場合など、交渉によって金額を抑えられる可能性もあります。
ただ、地主の希望や相場からかけ離れた金額で交渉しすぎると、地主との関係性が悪くなり、更新した後も長く続く借地契約にも影響する可能性がありますので注意しましょう。
支払いの義務について
法律には明記されていない更新料ですが、以下のケースでは支払い義務が生じます。
・契約書に更新料の支払いが明記されている ・地主と借地人間に合意がある |
・契約書に更新料の支払いが明記されている
契約書に契約更新時の更新料が明記されている場合は、支払わなければなりません。法律に規定されていなくても、当事者同士の契約で合意している以上その内容に応じた義務があります。
・地主と借地人間に合意がある
地主と借地人の間で更新料の支払いについて合意した場合は、当然支払い義務があります。合意については口頭でも一定の拘束力はありますが、借地契約は長期になりますので公正証書(※1)などを活用したほうが拘束力は強くなり、安心できます。
※1 公正証書とは、個人からの依頼に基づき、公務員である公証人が作成する公文書です。通常の契約書と比べて極めて強い証拠力をもちます
ここでの契約更新の仕方として、双方の合意のうえ更新する場合(合意更新)と自動的に更新とみなされる場合(法定更新)があります。
借地借家法では、「借地権の存続期間が満了した後、借地権者(借地人)が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。」と法定更新について規定しています(借地借家法5条2項)。
そして、法定更新の場合にも更新料の支払いが必要かについては、過去に「法定更新で更新料支払いの慣習は認められない」とした裁判例もあり、合意更新と同じ取扱いにはならないケースもあります。
・過去に更新料の支払いをしている
また過去に更新料の支払いをしている場合、更新料の支払い義務があるとまではいえませんが、一般的には更新料の支払いが必要となると考えておきましょう。
過去に更新料を支払っていることから、借地人は次も更新料が必要と予測ができますので、次回以降の更新料を払わない旨の明確な合意がない限りは支払うほうがよいでしょう。
借地権更新料の相場は?
ここまで借地権更新料の意味や支払い義務について紹介してきましたが、更新料としてどれくらいの金銭を準備すればよいのでしょうか?
更新料の金額を提示されたときに、その金額が適切なものであるかが分からないと高額な更新料を支払うことにもなりかねません。
そこで、ここでは更新料の相場、計算方法について解説します。
更新料の計算方法
更新料の一般的な計算方法は以下の通りです
更新料=更地価格×借地権割合×5%前後 |
・更地価格
更地価格は、借地権などの権利が何もついていないその土地本来の価値で、不動産市場で取引される価格です。
正確には、周辺の取引事例(取引事例法)や土地を再取得するのにかかる費用を計算する(原価法)など、複数の算出方法から不動産鑑定士が計算した価格によって求めることもあります。
・借地権割合
借地権割合は土地の価値に対して借地権の価値がどれくらいの割合かを示したもので、具体的な数値は、地域ごとに国税庁のホームページで確認できます。
借地権割合は、その土地を賃貸したときの価値を表すものといえ、都心部や駅近くなど借地として需要が高い場所では高くなり、郊外や地方の田舎など借地としての需要が少ない地域では低くなります。
借地権割合は30%〜90%まで指定されており、借地権割合の指定がない地域は20%として算出します。
・借地権価格の5%前後
そして、更地価格に借地権割合を乗じたものを「借地権価格」といい、更新料の相場は借地権価格の5%前後となっています。
5%前後とあるようにあくまでも目安であり、3%で計算する場合もあれば10%で計算することもあります。
参考に以下の事例で更地価格(市場価格)5,000万円の土地の更新料を計算してみます。
【前提条件】 ・更地価格:5,000万円 ・借地権割合:60% ・借地権価格の5%想定 更新料=5,000万円×60%×5%=150万円 |
都心部など更地価格も借地権割合も高い場所では更新料も高くなります。
値下げ交渉が行える
借地権の相場を計算する方法を紹介しましたが、最終的には地主と借地人の話し合いや交渉を通じて金額は決まります。
更新料は、借地契約の締結から数十年先に支払うものですので、契約書にも「その時の相場」や「相場にしたがって両者協議のもと決定する」といった記載になっていることも多いです。
ですので、提示された更新料に対して値下げ交渉することもできますが、その金額が相場と比べて高額過ぎる場合は別として、無理な値下げ交渉はトラブルの原因となります。
相場価格をベースに適切な価格になるように交渉することが大切です。
更新料が支払えないときの対処法
更新料は高額となることもあり、支払いたくても困難な場合もあります。
更新料が支払えないときどのような対処法が考えられるのでしょうか。
すぐに契約更新が拒否されることはない
更新料は、法的には支払い義務はありませんので、更新料を支払わなかったとしてもすぐに契約の更新を拒否されることはありません。
ただし、更新料の支払いの合意がある場合や過去に更新料の支払いをした経緯があるなど、更新料の支払いが妥当であるときには道義的責任はあります。
どうしても支払いが厳しい場合は、支払い期限の延長や分割払いなど早めに地主に相談する必要があります。
なお、契約書に更新料について明記されている場合に更新料が支払えないと、契約上の義務に違反することになりますので、借地契約が解除される可能性があります。
支払期限は更新日まで
更新料の支払い期限として、更新日まで、あるいは更新月の地代とあわせて支払うのが一般的です。ただし、両者で更新料の合意に基づく支払期日を定めている場合は、その期日までに支払う必要があります。
地代の額が高額になる場合もありますので、口座振込か現金か、また状況によっては分割払いをすることもありますので、支払い方法も含め事前に相談するのがよいでしょう。
また、契約書に更新料について明記されており、支払い方法が「更新の翌月までに地代とあわせて支払うものとする」など明記されている場合はそれが支払い期日となります。
更新料が高額なときの対処法
更新料の相場について紹介しましたが、土地の評価の仕方や計算方法によって金額は大きく変わる可能性もあります。
では、地主から法外な更新料を一方的に請求された場合、どのような対処法があるのでしょうか。
更新料は両者の合意のもとで成り立つ
繰り返しとなりますが、更新料は最終的には地主と借地人の合意のもとに決められます。
そのため、相場から考えて明らかに高額な更新料を一方的に請求された場合、支払いを拒否することもできます。
まずは、更新料の相場を把握し、提示された金額が高額なものであるかを確認しましょう。更新料が高額に感じても、相場に近い金額が提示されていることもあります。
ただ明らかに相場よりかけ離れた金額である場合、相場をもとに値下げ交渉し適切な金額まで下げてもらう必要があります。
高額な更新料は支払いを拒否できる
相場とかけ離れた高額な更新料の支払いは、拒否することはできます。
ただし、高額な請求に対し、一方的に支払いを拒否し続けるだけでは地主との関係性も悪くなってしまいますので、相場をもとに値下げ交渉をしながら適切な金額に設定してもらうよう話し合いをすることが大切です。
冒頭に述べたように、更新料が慣習的に支払われている背景には、長期間の土地を借りることについて、貸主との関係を良好に保つこと、契約の更新を拒否されないことがあります。
借地人との関係が悪くなると、その後の借地契約期間中に、建物の建替えや増改築の際に必要となる地主の承諾がもらえないなどトラブルにつながる可能性もあります。
ただ、どうしても金額面で折り合いがつかない場合は、不動産鑑定士や更新料に強い弁護士などの専門家に間に入ってもらうことも1つの方法です。
第三者の専門家に入ってもらうことで、双方とも金額面に納得しやすくなるでしょう。
更新料を地主が受け取らない場合
地主が更新料の金額に納得せず、借地人が更新料を支払おうとしても受け取らないケースもあります。金額の折り合いがつかない、あるいは地主の都合で更新料を受け取らない場合でも、更新料を支払っていない状態が続くことはよくありません。
更新料を支払う意思があるものの地主側が受け取らない場合、弁済供託の制度を活用できます。弁済供託は、法務局に更新料に相当する金額を供託(預ける)ことによって、法的に支払い義務を果たしたものとみなされる制度です。
まとめ
ここまで借地契約の更新料について解説してきました。
借地権の根拠となる借地借家法には、契約の更新に関する規定はあっても更新料についての定めはありません。
ですので、契約書に明記されている場合以外は、当事者同士の合意や過去の支払いの経緯、慣習等で決められています。
ただ、借地契約の更新は長期間に及び、借地人にとっては生活や収入の基盤を左右するものですし、地主にとっては長期間の土地活用に大きく影響しますので重要な手続きです。
そのため、契約を更新する際の更新料については、トラブルに発展することもあり、過去、さまざまな裁判例もあります。
是非参考にしてください。