不動産の広告やポータルサイトで物件を探すなかで、敷地の権利が「定期借地権」「賃借権」となっているマンションを目にされたことはないでしょうか。
定期借地権は、建物の所有を目的として契約期限を定めて土地を借りる権利ですが、不動産市場で流通するマンションのなかには、敷地を所有するのではなく定期借地権で借りているマンションがあります。
こういったマンションを「定期借地権付きマンション」といいます。
一般的な所有権のマンションと比べると流通戸数は少ないですが、ここ数年のマンション価格の上昇で予算的にマンション購入が難しくなっているなか、定期借地権付きマンションを選ばれる方もいます。
この記事では、定期借地権付きマンションの特徴やメリット、デメリットなどを解説します。
定期借地権付きマンションの概要
定期借地権付きマンションはどのようなマンションなのか、所有権のあるマンションとの違いなどについて解説します。
地主から期限付きで土地を賃借する
定期借地権付きマンションは、契約期限を決めて土地の所有者(以下「地主」)から土地を借りて建てられるマンションです。
定期借地権付きマンションを購入する場合、建物の所有者となるとともに、地主と賃貸借契約などの借地契約を締結します。
土地を利用する権利には所有権と借地権がある
マンションを購入する場合、建物だけ購入しても土地を利用する権利がなければ住むことはできません。
マンションの土地を利用する権利を「敷地利用権」といい、建物と同時に土地を購入する「所有権」と、建物と同時に土地を賃借する権利を購入する「借地権」があります。
不動産登記では、敷地権の種類という項目に「所有権」ではなく「地上権」「賃借権」と表記されます。
土地の賃借料(地代)の支払いが必要
定期借地権付きマンションは、土地を借りるための賃借料(地代)の支払いが必要となります。
地代は、立地や土地の面積、マンションの戸数などによってそれぞれ異なり、地価の上昇等によって変わる可能性もあり、3年ごとに見直しされるマンションなどさまざまです。
地主は地代収入から土地の固定資産税などの支払いをするため、一般的に土地の固定資産税より地代のほうが高くなります。
また、定期借地権は期限を定めた借地契約となりますので(借地借家法22条以下)、期限満了を迎えると建物を解体し更地にしたうえで土地を返還しなければなりません。この際、地主から立退き料などは支払われることはありません。
契約期間は50年以上
定期借地権には「一般定期借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」があり、定期借地権付きマンションで活用される「一般定期借地権」の契約期間は50年以上となっています(借地借家法22条以下)。
定期借地権は、契約の更新がなく将来土地を返還する必要がある反面、契約期間は長期となります。実際の契約期間はマンションごとの契約内容によって異なり、最近では、マンションの耐久性能の向上や人生100年時代を見越し、契約期間を70年とするマンションもあります。
木造住宅と比べて耐久性の高いマンションの法定耐用年数が47年(住宅用・鉄筋コンクリート)ということを考えると50年以上の契約期間でも決して長いとはいえないでしょう。
参照元:主な減価償却資産の耐用年数表(国税庁)
定期借地権と普通借地権の違いは?
借地権には定期借地権以外に普通借地権があります(借地借家法3条以下)。
敷地利用権が借地権のマンションのなかにも、普通借地権のものと定期借地権のものがあります。
ここでは、定期借地権と普通借地権の違いについて解説します。
借地権の種類は主に3つ
借地権は大きく3つの種類に分けられます(図表1)。
根拠となる法律 | 借地権の種類 |
旧借地法 | 旧法借地権 |
借地借家法 | 普通借地権 |
定期借地権 |
現在の借地借家法は、1992年にそれまでの旧借地法と旧借家法を統合し新たに制定されたもので、定期借地権はこのとき新たに設けられました。
1992年8月以降に締結された借地契約では、借地借家法が適用されていますが、現在でも多くの旧借地法にもとづく旧法借地権が更新されて存続しています。
旧借地法が、地主より立場の弱くなりやすい借地人保護のために作られた法律であったため、旧法借地権は借地人の権利を強く保護するものになっており、契約の更新が前提となっています。
その旧法借地権の内容に近い現在の普通借地権についても、地主側に契約更新を拒否する正当な事由が認められない限り、更新を前提とする借地権となっています(借地借家法5条)。
一方、定期借地権は、旧法借地権において、「一旦貸した土地が返ってこない」「地主が土地を貸すことに消極的になり土地活用がすすまない」という問題があったことから、地主が安心して土地を貸すことができるものとして設けられました。
そのため、定期借地権は契約期間が満了しても更新はされず、地主に土地を返還しなければなりません。
定期借地権は借地期間が終了したら土地を返還
定期借地権は契約期間満了で終了し、土地を更地にしたうえで地主に返還しなければなりません。
借地契約の契約期間が最低でも50年と長くなっていますが、土地は更地したうえで必ず返還されるため、地主としては計画的な土地活用ができます。
普通借地権は最低30年以上
普通借地権の契約期間は30年以上と定期借地権と比べ最低契約期間が短く設定されています。
ただし、定期借地権と異なり、土地上に建物がある限り、借地人は期間満了時に契約の更新を請求でき、地主は正当な事由がない限り、更新を拒絶することができません(借地借家法5条)。
この正当な事由が認められるかは、地主側、借地人側の土地利用の必要性や経済的な事情、建物の状態、立退き料の提供などさまざまな事情を考慮して判断されますが、正当な事由として認められないことは多くあります。
そのため普通借地権は半永久的に借地契約を継続することもできる権利となっています。
定期借地権付きマンションを利用するメリットは?
ここまで定期借地権付きマンションの特徴、概要について説明しました。
所有権のあるマンションとは大きく異なる定期借地権付きマンションですが、どういったメリットがあるのでしょうか。
コストを抑えられる
定期借地権付きのマンションは、一般的な所有権のマンションと比べ、分譲価格が安く、購入コストを抑えることができます。
物件によって差はあるものの、所有権のマンション相場価格の6〜8割程度になるといわれています。
物件探しをしているなかで、相場的に他の物件より価格がかなり安くなっていると、「何か問題を抱えている物件では?」と考えてしまうケースがありますが、敷地権をみると定期借地権付きの物件という場合もあります。
土地の権利を持たない分、価格的には安くなり、また借地契約の残存期間が短ければ短いほど価格は安くなります。
そのため購入コストを抑えてマンションを所有したい人にはおすすめです。
特に、地価の高い都心部や駅近くの一等地にマンションを購入したいと思っても、資金的に厳しい場合もあります。
この点、定期借地権付きマンションであれば、資金を抑えながら購入できることもあるでしょう。
土地の固定資産税や都市計画税がかからない
マンションを所有する場合、土地、建物それぞれに固定資産税、都市計画税がかかりますが、定期借地権付きマンションは土地を所有しませんので「土地」の固定資産税、都市計画税の負担はありません。
「建物」の固定資産税・都市計画税はかかりますが、所有権のマンションより継続的な税金の負担は軽く済みます。
好立地、人気物件に住めることがある
定期借地権付きマンションは、都心部や都会の生活利便性が高い地域で、住環境としても優れているなど希少な立地に建てられることが比較的多くあります。
自治体が所有する土地や学校、大使館などの公共施設の敷地を期間を限定して貸し出している場合がありますし、立地条件がよい土地の地主は、その土地を手放したくない人も多く、長期間の土地活用として定期借地権付きマンションの敷地として貸し出しているケースがあります。
そのため、定期借地権付きマンションであれば、予算を抑えつつ立地条件のよい人気物件に住めることもあります。
定期借地権付きマンションを利用するデメリットは?
定期借地権付きマンションのデメリットについて紹介します。
期間満了後は土地を返還しないといけない
定期借地権付きマンションは、契約期間が満了を迎えた時点で地主に土地を返還しなければなりませんので、住み替えが必要となります。
また、建物を解体して更地にする必要がありますので、こういった住み替えや費用的な負担等のデメリットがあります。
解体積立金などの費用が必要
マンションを解体するには大きな費用がかかりますので、契約期間の満了に向けて、そのための資金を準備しなければなりません。
一般的に新築マンションを購入する場合、修繕積立基金(一時金)が必要ですが、定期借地権付きマンションを新築で購入するには、修繕積立基金以外に解体積立基金(一時金)が必要となります。
また、購入後も毎月の管理費や修繕積立金以外に解体積立金の負担が必要となります。毎月の解体積立金がないマンションもありますが、一時金として徴収される場合があります。
マンションには管理費や修繕積立金、固定資産税、火災保険料などの維持費がかかり、車を保有すれば駐車場代も必要となります。
定期借地権付きのマンションは、これらに加え、解体費用積立金についても考えておく必要があります。
住み替えや相続などライフプランを踏まえた活用が必要
定期借地権付きマンションを利用するには、契約期間にあわせたライフプランを考える必要があります。
新築であれば50年以上という長期間のなかでライフプランを考えられますが、中古で購入する場合、残存期間によって慎重に判断する必要があります。
また、購入時の年齢やタイミングによっては相続の発生等も含めて判断したほうがよいでしょう。
仮に、契約期間が短い定期借地権付きマンションを相続し、利用しないため売却しようと考えても、なかなか売却できず負担だけが残ってしまうリスクもあります。
普通借地権のマンションもありますが、それ以上に定期借地権付きのマンションは、契約期間に応じた活用を考えないとのちのち後悔する可能性があります。
地代を支払う必要がある
定期借地権付きマンションは購入費用が抑えられる反面、毎月の家賃と同じように地代が必要となります。
長期に及ぶ借地契約の間に土地の価格が高騰すれば、地代が上がるリスクもあります。
購入時の初期費用を抑えられたとしても、長い視点で考えると地代やその他の維持費の負担が上回る可能性もありますので、しっかりシミュレーションすることが大切です。
資産価値は低下していく
定期借地権付きのマンションの資産価値は、時間の経過とともに低下していきます。
マンションの資産価値は、エリアや立地条件などのほか管理状況などに左右されます。この点、大規模修繕工事など含め、管理やメンテナンスがしっかりとされていれば、木造住宅などと比べ耐用年数が長いマンションの資産価値は下がりにくいといえます。
ただ、普通借地権のように契約更新がされない定期借地権付きのマンションの場合は、契約期間の終了にむけて資産価値は0に近づいていきます。
ですので、中古市場においても契約期間の残存期間が短いほど価格は低くなり、買い手がつきにくくなります。
物件にもよりますが、途中住み替えなども考えるのであれば、資産価値の低下や売りやすさなども考えておく必要があります。
住宅ローンの利用が難しい場合がある
定期借地権付きのマンションは、購入時の資金を抑えられる反面、住宅ローンの利用が難しくなるケースもあります。
融資を行う金融期間は、ローン返済ができなくなった場合の担保として融資対象の不動産に抵当権を設定し、万一の場合はそれを換金し融資資金を回収します。
定期借地権付きのマンションは、先にご紹介したように契約の残存期間によって資産価値つまり担保価値も低下します。
そのため、住宅ローンを利用しようと思っても、必要な資金の融資が受けられない、融資期間が短い、あるいは融資そのものが難しいといった場合もあります。
まとめ
定期借地権付きマンションについて解説しました。
〇メリット
- コストが抑えられる
- 土地の固定資産税・都市計画税がかからない
- 好立地・人気物件に住めることがある
〇デメリット
- 期間終了後は土地を返還しなければならない
- 地代を支払う必要がある
- 資産価値が低下していく
- 住宅ローンの利用が難しい場合がある
定期借地権付きマンションは所有権のマンションと比べても流通量は少ないものの、ライフプランにあう残存期間のマンションが見つかった場合、思わぬ掘り出しもの物件が見つかることもあります。
ただ、一方で購入後の維持費などのコスト負担や資産価値、ライフプランを含めた活用方法をしっかりと考えておかないとのちのち後悔するリスクもあります。
是非参考にしてください。